そしたらどうなる
つまり、どういう事だ?
見た事が無い、って事はエトワール嬢は教室に居なかったんだろうけど、俺同じクラスって訳でもないからな、ふむ、ちょっと細かい所を確認してみるか。
「持ち帰って製作していたという事ですか?」
「いえ、ドレスは被服の授業のみでしか製作を許されておりません。
鋏や針は、許可が無ければ触れる事も出来ないように決まっております」
令嬢は、当たり前の事のように堂々と答えてくれた。
聞けば、鋏問わず、針にさえもナンバリングしてあって徹底した管理が義務付けられているらしい。
まぁ、どれも一応危険物だもんなぁ。
貴族の令嬢に暗殺者紛れてる事も有り得るし、当たり前といえば当たり前か。
事故で何かしらあった時、生徒の実家から何言われるか分かったもんでも無いしな。
クレーマーはどの世界でも怖いって事かもしれない。
「ですので、先生に見てもらって、修正などしながら少しずつ作って行きますの」
なるほどなるほど。
ん? つまり、授業に出てなければドレスの作成が進められない、という事で、その上でエトワール嬢を見た事ない、となると、サボり……?
「エトワール嬢が何をしていたかご存知ですか?」
「分かりません、教室では、たまにある試験の時以外姿を見た事がございませんし……」
いや、それもうサボり確実やん。
「……………つまり、ドレスがバラバラだったのは、布しか無かったから?」
「ウソよ! 私は頑張って作ってたわ! だって皆も見てたよね?」
「そうだよ、エトワールは頑張ってたよ! 何度も指を針に刺してしまったって、包帯を巻いた手を困ったように見てるのを、僕らは知ってる!」
俺の言葉になんか必死な顔で反論するエトワール嬢と、それに促されて加勢する双子の内の、どっちか分からん方。
なお、もう一人の方は、うんうんと頷いて同意を示している。
まぁ、その姿なら俺も見たけどな。
だがしかし、そんな事言われても今までの信用の無さから、なんも信用出来ないのが現実である。
「実際傷を見たんですか?」
「そ、それは……見てない、けど……」
じゃあいくらでも捏造出来るよね、それ。
いつも不思議だったんだよなぁ、授業どうしたんだろう、って。
テストの点はそれなりに高かったから、多分頭は良いんだろうけど、それにしたって生徒会室に
生徒会長な王子や、役員である側近連中は半日授業と定期的なテストで免除されてるから問題無かったけど、エトワール嬢は普通の生徒。
にも関わらず、毎日生徒会室に来ては王子とイチャイチャして、デートして、他の側近連中とキャッキャウフフして、帰る。
そんな毎日を送ってたら、そりゃドレス仕上がらんわ。
なお、俺は常にテキトーにあしらって、生徒会役員としての役割を果たす為に頑張って書類作ったり、計算したりしてたよ。
エトワール嬢が来てから仕事しなくなったからね、他の奴ら。
唯一俺を手伝ってたのは平民上がりの赤毛騎士団長候補君だけだった。
うん、その借りがあるから彼はなんとか助けないとな。
今はちょっと無理そうだけど、後で少しでも減刑して貰えるように陳情書でも書こう。
「ふ、はは、なるほど、そこまでしてエトワールを悪者にしたいのか、お前達は」
「王子、頭大丈夫?」
突然笑い始めた王子が地味に怖い。
え? 何この人やだ、話聞いてた?
「その悪女と貴様の根回し済な者の証言など、なんの証明にもならんな」
小馬鹿にしたように、なんか腹立つ顔でまた堂々と俺たちを指差す王子と、困惑通り越して冷めた目を向ける
それはそうだろう。
素晴らしいと評判の公爵令嬢を婚約者に持ちながら、他の、しかも身分の低い男爵令嬢にうつつを抜かした挙句、公爵令嬢を追い詰め、前世返りするような程の絶望を味あわせた。
なおこの国で前世返りした者は、余程辛い思いをしたのだろう、という先入観というか、とても都合のいいプラス補正が掛かる為に優遇される事が多い。
そんな事も知らない王子の好感度は、爆下がりと言っても過言では無いだろう。
特に公爵令嬢は学園の生徒達からの信頼も厚い。
悪名らしきものと言えば、嫉妬深く我儘、という貴族女性によく居るステータスくらいか。
浪費癖があるとかも聞くが、それで公爵家が破綻するならともかく、寧ろ必要経費だと思うんだ俺。
国の偉い貴族の娘が、みすぼらしい服着てたら他の貴族女性だってそれ以下のもの着なくちゃいけなくなる。
別にこれはそうしないとダメとかいう法律がある訳じゃないけど、もしそうなってしまったら、何が起きるか、という事の方が重要視されていると思う。
さて、では何が起きるか。
まぁ、戦争だよね。
考えてみて欲しい、王家以外の貴族全てが酷い服を着ていたら。
酷く貧しい生活をしていたら、諸外国からどう見えるだろう。
国民からどう見えるだろう。
不満が溜まらない訳が無い。
悪評が流れない訳が無い。
必然的に王家がヤバくなるのは、容易に想像がつくのではないだろうか。
「いや、もう本当に頭大丈夫?」
「やかましい! 俺は正常だ!!」
正常でそれってヤバくない?
いや、もうちょい考えようよ。
知らないなら調べようよ。
なんなの、無能なの?
胡乱げな眼差しを無能王子に向ける俺と、そんな俺の顔にスリスリと顔を寄せる公爵令嬢。めっちゃ可愛い。
そこでようやく、保護者が姿を現した。
「ええい! やめんかお前達!」
王子の実の父、王様である。
髭をたっぷりと蓄えた、まさに王様! って感じの外見である。
トランプのカードにこんなん居た気がする。
頭痛のせいか眉間にガッツリと皺を寄せ、こめかみを指先で解しながらの登場である。
だがしかし、王子はどこまでも王子だったらしい。
「父上! 王である貴方からも言ってやって下さい! こんな悪女が王太子妃になった日には、財政、治安が悪化し、破滅するだけです!」
いや、貴族が何かしら浪費する事で国に金を落とす事は、経済を回す一助だけど。
それが無しで経済が回るなら良いだろうけど、消費者が居なきゃ経済は回らない訳で。
本当に何言ってるのコイツ。
むしろ公爵令嬢が浪費しなかったら他の貴族女性も何も買えなくなるよね。
どう考えても必要経費じゃん。
え? 何この王子どんだけ視界狭いの?
大体、嫉妬深く我儘とか、めっちゃ愛されてる証拠やん、こんな美少女の何が不満なのコイツ。
改めて考えるとめっちゃイライラして来た。シバきたい。頭皮爆破したろかこの野郎。
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