四月

四月三日(土) 入学式

 楽しみにしていた入学式は電車で行った。行きも帰りも寝てしまったが、無事に終えることができた。いや、無事ではない。「簡単に自己紹介してみましょう」のときできなくて、固まってしまった。入学早々、みんなと同じように動けなかった。でも、担任のY先生のことはよく知ることができた。ここでも、声は出ないままか。六日に一人で、学校に来てくださいって言われた。先生とたっぷり話ができそうだ。(と、いっても筆談)まあいい。初めて一人で電車に乗ることになる。楽しみになってきた。


四月六日(火) 一人登校日

 張り切って筆談ノートを作った。一人で電車にも乗れた。意外となんでもできた。着いてからは、先生の手伝いをしたり、のんびりして過ごした。ノートは五ページも書いた。明日、自分のことをみんなに先生から説明してもらうことを決めた。それも一つの案だし、言わないで挑戦してみるのもありだった。でも、入学式で自己紹介できなかったし、「五年」に賭けてみることにした。そのあと、帰るときに、さようならって言えなくて泣いてしまった。先生は私の声を聞いたことがあるらしい。合格者招集の日に名前を言ったときだって。でも、言えないものは言えない。今日はハイタッチで帰った。


四月七日(水) 分散登校日

 緊張して電車を降りて歩いていたら、同じクラスの子に話しかけられた。何も出てこなかったので、仕方なく筆談で返した。これでもう、希望はなくなった。これから、筆談で暮らすしかない。その子とも、微妙な距離ができてしまった。

 一時間目が始まる前、もうみんなは盛り上がって話をしている。無理だな、と思った。先生の研究室に行く。簡単に話をさせてもらった。自分のことを言ってもらうのって勇気がいること。でももう筆談をしてしまったこと。最終的に、やっぱり言ってもらうことにした。先生を信じようと思った。

 昼休み、何だか先生に会いたくなって、さっきの子のお弁当の誘いをどうにか断り、研究室に行った。文字にできたのは、「疲れました」の一言。「そうだね」と、優しく言われて、また泣いてしまった。そのあと、研究室で三時までごはんも食べずに過ごした。身体測定も後日になった。でも委員長になった子に、何かあったら書いてと言ってもらった。明日も心配だけど、学校には行こう。


四月八日(木) 授業開始

 午前中の実験の授業はちゃんとできた。LINEで友達もできた。お昼は教室で食べて、そのあと研究室でのんびりした。そしたら教室に戻れなくなってしまった。筆談ノートを見返したら、「高専に置いていかれてる」とか、「ビーカーも怖い」とか書いてあった。あんまり記憶がない。それから授業があった地理の先生の研究室に行った。迎えに来てもらうのも頼んだ。数学の先生のところにも行った。


四月九日(金) だめな日

 朝泣きながら送ってもらった。頓服も飲んだ。思い出すだけで頭が痛い。一コマも授業に出られなかった。また授業があった先生の話は聞きに行って、迎えに来てもらった。書くのも辛いけど、神様はどうしてこんな不幸な子を作ったんだろう。


四月十二日(月) いい日

 授業に全部出ることができた。席は後ろにしてもらった。歴史が楽しい。


四月十三日(火) Rくん

 物理の授業で、みんなが書いて自己紹介をした。私以外に、何も声で言わない子がいた。Rくん。友達になってみたい。そのあとの二コマは出られなかったけど、最後は出られた。


四月十四日(水) 自分から

 電車が偶然Rくんと一緒だった。これは話しかけるしかない。メモ帳に、いろいろ書いて渡したらびっくりしていた。そりゃあそうだ。私服で、同じ学校かどうかも駅まで来たら分からなくなるもん。でも読んでくれて、返事も書いてくれた。人見知りだそうだ。会話はそこまで。後でLINEで謝ったら、うれしかったよと返ってきた。「自分から」友達を作ることができた。よかった。


四月十六日(金) テストと裏山

 今日は新入生テストだった。まあまあできたのでいい。そのあとバースデーチェーンゲームをしたりして、裏山探索の時間になった。せっかく野鳥図鑑も持って行ったのに、前のクラスが早歩きすぎて、全然景色も何も見る時間がなかった。楽しみにしてたのに。明日は野外活動だ。


四月十七日(土) 野外活動

 楽しみにしていた野外活動はあいにくの雨だった。オリエンテーリングは中止。午前中は施設で紙飛行機大会と草木染めをした。草木染めの班は楽しかった。カレーも食べた。男子が優しかった。そのあと、学校に戻って、新聞タワーとクイズ大会をした。班の女子と仲良くなれたと思う。男子が一人だったのが少し気になった。全体を通しては楽しかった。とても早く終わった。


四月十九日(月) 自然科学部見学

 授業は全部出て、放課後自然科学部の見学に行った。Rくんとだ。楽しそうだったし、普通のことのように筆談を受け入れてもらえた。これは入部しないと。一つ上にしか先輩がいないし、皆さん優しかった。明日入部届を持って来よう。Rくんは、水泳部にこだわっている。そんなに水泳好きなのかな。


四月二十日(火) 調子が悪い火曜日

 先生と話したくて早く教室を出た。書いてきて分かってきたことだけど、これは授業に出られないフラグだ。(フラグなんて初めて使った)そんなことを書いたのだから当たり前で、今日はどの授業にも出られなかった。悔しい。感謝が足りないそうだ。一応、入部届は出した。


四月二十一日(水) 初めての欠席

 今日は休んだ。薬のおかげでずっと寝ていられた。


四月二十二日(木) 先生の用事

 午前中の実験の授業はちゃんと受けて、先生に見せたい本があったから持って行こうとしたらいなかった。さまよっていると、他のクラスの担任、I先生が声をかけてくれた。講師室に入れてくれもした。弁当を食べて待っていたら、Y先生が帰ってきた。このあと病院にも行くそうだ。忙しいところ申し訳ありません。って感じだった。まあ一コマ休んで、そのあとは行けた。


四月二十三日(金) 欠席

 朝起きられない。今日も薬でずっと寝ていた。


四月二十六日(月) 夜のあさがお計画、始動

 朝から先生に見せたいものがあると言って、研究室に行った。夜のあさがお計画だ。先生は快く協力してくれた。会議にも出してもらえるそうだ。もっと考えないと。卓球部もちょっとだけのぞいた。外で固まっていたら、部員の人が声をかけてくれた。そのまま外で聞くことだけ聞いた。


四月二十七日(火) 卓球部見学

 一コマも授業に出なかったし、先生にも迷惑をかけてしまった。それでも心機一転、卓球部の見学には行こうと決めた。ごはんは五時に食べた。それからいろいろしていたら、球を打つのは十分もなかった。でも卓球部には入るつもりだ。


四月二十八日(水) 体育館

 午前中は休んだ。午後の体育に備えて。先生の、「体育館に」行こうという表現がすごく気に入った。潔く今日は控室で授業を受けることにした。行けたので良かった。放課後は中学校に行って先生と話した。といっても、緊急会議があって、全くと言っていいほど何も聞いてもらえなかった。背が伸びたらしい。


四月三十日(金) 化学

 午前中だけ見たら、だめな日だったけど、午後の化学に初めて行くことができた。いちばんいい形でゴールデンウイークを迎えることができた。先生のガッツポーズが印象に残っている。

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