[完結]ビビりだと、パーティから追放された俺のジョブは、最強の危機管理官≪クライシスマネージャー≫。〜クランでのランクマッチ配信は、バズっているようです〜

西園寺若葉

クランでの特訓

第1話 追放ですら、想定内です。

-side ルカ-




「ルカ……。今日を持って、お前をこのパーティから追放する。」



 いつだって、人生の変化が訪れるのは、突然の事である。それは、俺の場合でも、例外では無く、この日もなんの前触れもなく仲間から告げられた。

 もっとも--。俺にとっては、これも想定内のことである。



 さて、目の前にいる金髪青眼の男。冒険者ランクは俺と同じB。一見して、子供っぽい純粋な見た目、しかし、性格は最悪という--勇者のテオは追放すると言ってきた。

 当然俺は想定内なのでこう答える。



「そうか、分かった。」

「そうだよな。悔しいよな。身なりも俺と違って、黒髪黒目のさえない。

 特に戦闘になるとビビりすぎて、到底役に立たない。俺たちのパーティ以外の就職先なんて、どこにも……。--へ?」



 パーティの剣士役、赤髪エメラルドグリーンのムキムキマッチョの男——レオスが驚く。こちらも、驚くべき程性格が歪んでいる。



「今日をもって、このパーティから出る。

 今まで、貰った武器も置いていく。

 ではな。」

「へ……?ルカ……。嘘でしょ?戦闘にビビっているあなたがいく先なんて……。」

「嘘ではない。本当だ。ではな。」



 最後に、縦ロールの金髪青眼魔法使い--リーアが俺に向かって話しかけてきた。髪型からして、どう見ても悪役令嬢。



 3人とも驚いているが、こんなパーティにいて、俺がいざとなった時にパーティを抜けれる様な準備をしてないと思ったのだろうか?



 --バタン。



 扉を閉め、その場を去る。

 向かう先は、冒険者ギルド。

 さっき貰った、追放書をギルドの受付に提出すると、失業手当が受けられるからだ。

 だが、俺の場合、再就職先はほぼもう決まっていると言ってもいいから、関係のない話なのかもしれない。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





「よお!ルカ!元気しているか?」



 俺が、ギルドに入ると、話しかけてきた人物がいた。おそらく、これから俺の雇い主になるであろう人物である。

 偶然にしては、随分とタイミングがいいなと思っている。……まあ、この人はそういう勘がとてつもなくいいのだ。



 この人の名前は、レオン。Sランク冒険者で、史上最強の冒険者とも言われている。

 短髪の髪色は金髪で、茶色い目。

 見た目はライオン風のお兄さんという感じである。



「レオンさん。俺、とうとう今のパーティのリーダーに、追放されました。」



 そう言って、俺は追放書を見せる。

 バッ--と、途端に、俺たちの会話を聞き耳を立てていた周りの人たちが、みんな一斉に、こちらを振り返る。



「まじか--!よっしゃ!だったら、うち来いよ!前にも言ったが、お前の実力だったら、いい給料で雇ってやる。」

「ありがとうございます。元よりそのつもりでした。」

「だよな!よしっ!そうと決まれば、俺の担当者に、話しとくわ。すぐに、追放も受理されると思うぞ。再就職もさっさと出来るだろうから、失業手当は出ないだろうが。」

「いえ。次の就職先、探していたので助かります。」

「またまた……!どうせこれも想定内なんだろ?天才、クライシスマネージャーさん。」

「まあ……。」

「よっし!いっちょ、その能力をうちで存分に使ってくれ!頼むわ!仲間達もきっと喜ぶぜ!」

「だといいのですが。あ、お願いします。」



 俺は、受付にいる若い女性に、身分証明書を出す。なぜか、レオンさんも一緒に身分証明書を差し出した。



「はい。Bランク冒険者の、ルカ様に、Sランクのレオン様ですね。今、担当者を呼んで参ります。」



 冒険者のギルドランクは個人で決まる。

 Aランク以上の冒険者には、専属で1人、担当者が着くという仕組みだ。

 奥から、レオンさんの担当者のメガネをかけた男性が出てきた。



「レオンさん。どうしました?--って、ルカさん!お久しぶりですね。どうしました?こんなところで。」

「ああ。突然ですが、追放されましてね。

 追放書の受理をお願いしたいのです。」

「は……?あ、あなたを追放するなんて、どこの馬鹿ですか?--って、あなたのところのリーダーですか。」

「俺も前々から、思っていたが、どうやら本物の馬鹿だったらしいのでな。どのみち、この機会を逃す訳もない。さっさと、手続きを済ませるぞ。」

「ええ。そうですね。ルカさんほどの優秀な人材を、Sランクと組ませないのは、勿体ないと我々ギルド職員一同も思っていました。

 今まで、他のパーティへの移転をお薦めしても、ルカさんが首を縦に振ってくれなかったから、黙っていましたが……、ようやく乗り気になってくれましたか。

 これは、きっと、上層部も喜ぶでしょう。

 今日の午後には、レオンさんのパーティに加盟できるようにしておくので、そのつもりでいてください。」



 これは、少々予想外--だな。

 俺は、ここまで評価されていたのか。

 万が一の時があったらと思い、リスク回避のため、他のパーティや、ギルドに自分のことを売り込むという行為は日々欠かさずに取り組んでいた事だ。

 それらが、想定以上の形で身を結んだとなると嬉しい。



「分かりました。よろしくお願いします。」

「さて、そうと決まれば、パーティメンバーを紹介するか。--と言っても、うちは、お前入れても全員で3人。もう一人もお前がよく知っているあいつだから、必要ないかもだが。」

「あはは。一応、追放された事と、パーティメンバーとしてよろしくという事は言っておきたいですから。」

「そうだな。俺も詳しく話を聞きたいし、3人で飯でも食いながら話そうや。」

「ええ。」



 こうして、俺は、追放されたその日に、華麗なる栄転を決めたのだった--。

 俺のジョブ--危機管理官が示すように、俺のリスク管理は今日も完璧である。





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