第61話 手がかり

 目撃された怪しい影を追って、俺とリリアン、そしてアルは森の東側を目指していた。


「まもなく森を抜けますが……特に変わったところは見られませんでしたね」

「すでにここを出たあとだったか……アル、臭いの方はどうだ?」

「薄まってはいるが、まだ残っている。もう少し足取りを追えるぞ」

「分かった。とりあえず、行けるところまで行こう」

 

 現在地は――魔境と外の境界線。

 人影がこちらの方へ進んできたということは、やはりエクルド王国内で目撃されているという謎の軍勢の斥候兵か?


 なんにせよ、一度事情を聞く必要はある。

 もしかしたら迷子って可能性もなくはないからな。


 その後もアルの嗅覚を頼りに周辺を捜索してみたのだが、これといった手がかりすら得ることはできなかった。


「面目ない……」

「アルのせいじゃないさ。相手が村を離れてからだいぶ時間も経っていたし……何より、どのような道順でこの魔境を離れたのか――それが分かっただけでも収穫だ」


 決して、アルを慰めるだけのフォローで言ったつもりはない。

 エクルド王国側へと逃げていったとなれば、やはり怪しい勢力の一員なのか。断言はできないものの、限りなくそうであろうという予想は立てられる。


 結局、臭いは魔境内を流れる川のところで完全に消滅。

 恐らく、逃げた者はこの川に入って反対側の渡ったのだろう。それでずぶ濡れになり、臭いが薄れたようだ。


「これ以上の追跡はできないか」


 俺たちは追うのをあきらめ、川の近辺に何か痕跡がないか調べてみる――と、


「うん? これは……」


 川のほとりで、俺はある物を発見する。


「どうかしましたか?」

「何か見つかったのか?」

「あぁ……これなんだけど」


 リリアンとアルにかざしたのは、小さなバッジだった。そこには銀色の剣が交差している様子が丁寧に掘られており、素人目ながらも上質な物であるのが分かる。

 何より……俺はこのバッジに見覚えがあった。

 きっと、リリアンも見覚えがあるはず――というか、今も身につけている」

 現に、彼女の顔はみるみる青ざめていった。


「こ、これ! グローム王国騎士団の紋章じゃないですか!」


 そう。

 かつて彼女が所属していた、グローム王国騎士団――そこに所属する証しとして、このバッジが与えられるのだ。


「まさか……私以外のグロームの騎士がこの魔境に?」

「可能性は一気に高まったな」


 やはり、裏で糸を引いているのはグロームなのか?

 ……商人たちの連絡を待っている暇はなさそうだな。


「もう少し調査を続けよう」

「さらに奥へ進むのか?」

「あぁ……こうなったら、決定的な証拠がないかしらみつぶしに探しやる」

「当然私もお供します!」

「やってみるか」

 

 リリアンとアルも協力してくれるということで、俺たちは日が暮れるまでの間、周辺をくまなく調べ上げるのだった。

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