第60話 不穏な影
たくさんの人が魔境を訪れやすいよう、村と魔境の外を一本道でつなげる開拓が始まった。
最近はグローム王都以外からもいろんな人が移り住むようになっており、人材も充実しつつある。これもリドウィン、エクルド両王国のおかげだな。この調子なら、きっといい村になるはずだ。
あとはこの近辺をうろついているという謎の兵士たちについてだが、これに関しては商人たちを通じてオーガンさんやスレイトンにコンタクトを取ってから考えるようにしよう。
――と、思っていたのだが、
「エ、エルカ様……」
農場や牧場を視察していた俺とリリアンのもとに、ひとりの若い男性がやってくる。
彼は村の家屋や店舗の建築を担当している職人のひとりだった。
「どうかしたのか?」
「そ、それが……木材を取りに森へ近づいた際、こちらの様子をうかがっているような人影を見て……」
「っ!? 本当か!?」
この魔境に、俺たち以外の人間が入り込んでいる。
もしかしたら移住希望者という線も捨てきれないが、とにかく現場を確認してみることにした。
「いくぞ、リリアン! アル!」
「はい!」
「敵の正体をつきとめるチャンスだな」
俺たちは若い職人に案内を頼み、人影を目撃したという場所まで移動。
そこは、伐採して加工した木材を保管しておくスペース。改めて見ると、身を隠すにはもってこいの場所だな。
「最初はこの木材の間から顔だけ出ていて、何だろうって近づいていったら誰もいなくて……でも、誰かが走り去る音が聞こえたんです」
「偵察に来ていたのでしょうか……」
「うーん……」
俺は腕を組んで唸る。
正直、これだけでは相手の正体どころか何をしに来ていたかすら把握できない。せめて、その者の足取りを追おうとアルに相談を持ちかける。
「アル、ここに残った臭いから、どちらへ逃げたか分からないか」
「やってみよう」
犬の嗅覚を持つアルならば、敵を追えるかもしれない。
その結果――
「かなり弱いが……ここにいた者は東へ向かって走ったようだ」
「東……エクルド王国から帰還してきた方向か」
嫌な予感が高まってくる。
もし、彼が目撃した人影が、エクルド周辺を嗅ぎ回っている者と組織が同一なのだとしたら――脅威はこの魔境にも迫っていることになる。
「……アル」
「行くのだな?」
「ああ」
「き、危険ではありませんか?」
「少し様子を見てくるだけだよ」
心配するリリアンにそう告げて、俺とアルは臭いをたどることにした。
「わ、私も行きます!」
結局、リリアンも同行することに。
俺たちは若い職人にこの件を他の村人にも伝えるように言うと、追跡を開始するのだった。
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