第53話 交渉開始
大蛇ゾウィルとの出会い。
正直、問答無用で襲われる可能性もあると身構えていたが、思っていたよりも話が通じそうな相手だ。
――と、ホッとしたのも束の間、
「とっとと失せろ。それとも……ここで丸飲みしてやろうか?」
そう言って、ゾウィルは大きく口を開ける。上顎の牙から垂れる紫色の毒液……素人目にも触ったら危ないということが分かる色合いだな。
……って、そうじゃない。
やはり、一筋縄ではいかない相手のようだ。
「よせ、ゾウィル!」
俺とリリアンの前に、アルが割って入る。
そんな彼の行動を見たゾウィルは口を閉じた――が、それは俺たちを襲うのをやめたというわけではないらしい。
「人間を庇うか、アルベロス」
「彼らは君の想像する人間とは程遠い存在だ。信用するに値する」
「ふん……俺には関係のない話だ」
ゾウィルは吐き捨てるように言うと、アルをかわして俺たちへ襲いかかってきた。
「くっ!」
俺は咄嗟に水魔法を放つ。
威力は弱め、言ってみれば威嚇の意味を持つ攻撃だ。
これはヤツとの距離を遠ざけようとするのが目的だ。
――しかし、ゾウィルにその程度の攻撃は無意味だった。
俺の風魔法などまるでなかったかのように突っ込んできた――このままでは飲み込まれると感じた直後、
「エルカ様! 危ない!」
横にいたリリアンが俺を抱きかかえるように飛びつき、なんとかゾウィルの攻撃を回避することに成功する――が、それによって俺たちふたりは木の上から地面へと落下していった。
どうやら、俺を助けることに必死となりすぎるあまり、落下したその後はどうしようかとは考えていなかったらしい。直接口にしたわけじゃないけど、今の絶望的な表情を見ればよく分かる。
――けど、ここからは俺の出番だ。
俺は竜玉の指輪の属性を風に変更。
地面に激突する前に突風を起こして、直撃を避けることに成功した。
「あ、ありがとうございます、エルカ様」
「怪我はないようだ――なっ!?」
助かって安堵したが……甘かった。
下が沼地になっていたのをすっかり忘れていたのだ。
「し、しまった!」
「わわっ!」
一難去ってまた一難。
ゾウィルの一撃を避けたと思ったら、今度は底なし沼が待っている。ヌシだけでなく、この場の環境そのものが俺たちにとって敵となっているのだ。
「くそっ!」
なんとか抜け出そうとするが、アルの情報にあった通り、人間の俺たちでは脱出が困難。もがけばもがくほど、沼にハマっていく。分かってはいるものの、ただ何もしないで待っていても体は沈んでいく。
どうしようもないのかと焦る中、
「エルカ! リリアン!」
猛スピードで木を駆けおりてきたアルが、間一髪のところで俺とリリアンの服を加えて沼から引きあげてくれた。
「た、助かったよ、アル」
「ありがとう、アル」
「礼はあとだ。――まだ、解決しなければ問題がある」
「あぁ……そうだな」
俺たちが見上げた先には、金色の瞳を輝かせながらこちらを見下ろすゾウィルの姿が。
なんとか……衝突は避けられないのか?
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