第37話 毒蜘蛛のパーディ
夜が明け、いよいよ新たなヌシと出会う日がやってきた――が、今度の相手はアルの時のようにすんなりとはいかないだろう。
今回の場合、ただ単に敵を倒せばいいって簡単な話じゃない。
俺としては敵対するよりも、今のアルみたいな協力関係を築きたいと考えていた。
……ただ、同時にそれがとても困難であるという事実も把握している。
「うまくいけばいいんだけどな……」
森へ入る準備を進めながら、俺はボソッと呟く。
今回はダンジョン探索を主な仕事としているイベーラたちも協力を申し出てくれたので戦力的には大幅増となっている。
とはいえ、油断はできない。
これから会おうという毒蜘蛛のパーディは、性格も実力も一筋縄ではいかない相手だ。
「エルカ様、出発の準備が整いました」
少し不安を感じていると、リリアンが俺を呼びに来た。
「分かった。――って、アル?」
みんなのもとへ向かうと、そこには三つ目の魔犬アルベロスことアルの姿が。昨日の毒による攻撃が癒えきっているとは言い切れないので、今日は安静にしてもらおうと思っていたのだが……
「悪いが、今日は俺も行かせてもらう」
「そ、それは構わないけど……大丈夫か?」
「無論だ。それに……俺はリベンジマッチをするつもりはない」
アルはハッキリと断言する。
「ヤツは……パーディはそう簡単に説得へは応じないだろう。――だが、それを抜きにしても昨日の態度は明らかにおかしかった。友人関係というわけではないが、どうにも気になっていてな」
やられたからやりかえすというわけではなく、アルは真実を追求するために再びパーディと会うのだという。
「それは君たちのためにもなると思っているが……どうだろうか?」
「ありがたい話だよ。アルがいてくれたら、とても心強い」
偽りのない、心からの言葉だった。
戦闘力だけでなく、この魔境を隅々まで熟知しているアルがいるのといないのとでは安心感に雲泥の差が出てくる。
頼れる仲間が増えたこと、俺も吹っ切れた。
さあ……パーディへ会いに行くか。
――と、息巻いていたのだが、肝心のパーディが見つからなかった。
泉の周りを住処としているアルとは違い、パーディは特定の場所をねぐらにしているわけではないらしい。
ただ、縄張りというものは存在している。
そこを中心に捜索していくことになったのだが……その縄張りというのがとんでもなく広大な範囲だった。
「……本気か、アル」
「ヤツの行動範囲は、他のヌシたちよりも遥かに広い。何せ、木の上を自在に渡り歩いているからな」
毒蜘蛛のパーディは木の上を移動する。
これは【ホーリー・ナイト・フロンティア】の設定と同じだった。頭上を移動するパーディはまさに神出鬼没。いつどこに現れて攻撃をしてくるか、これは完全ランダムのため、ユーザーは苦労するだろうな。
俺たちはそのパーディをこれから相手にする。
もちろん、戦うわけじゃないが……あっちはそう捉えないだろう。
問答無用で襲いかかってくる可能性も十分に考えられた。
「みんな、ヤツはどこから襲ってくるから分からない。周囲だけでなく、頭上にも注意していこう」
そう呼びかけ、少しずつ前進していく。
ここで頼りになるのは――竜玉の指輪だ。
解毒魔法はマスターできていないが、特定の相手を捜す探知魔法は使用可能。ヌシと呼ばれるレベルのモンスターであれば、探知魔法を使用することで居場所を把握できるはずだ。
ただ、もちろん捜索できる範囲には限りがある。
とりあえず、辺りを歩き回りながらその気配を探知していこうとしたのだが――ターゲットは思いのほか早く見つかった。
「っ! 反応があったぞ」
探知魔法を通して、強い反応をキャッチ。
方角は……南東か。
すぐにみんなへ場所を示し、そちらへと移動を開始する。
「ど、どこから襲ってくるか分からないっていうのがここまで怖いとは」
「一瞬も隙を見せてはダメってことだからな」
パーディを追って魔境の奥までやってきたことで、メンバーにはこれまでにない緊張感が走っていた。
パーディの気配を追って足を踏み入れたのは、湿原地帯だった。
深い森の奥で日も当たらず、昼間にもかかわらず薄暗くてジメジメとした空間――まさに毒蜘蛛の住処としてはうってつけの条件が揃っていると言っていい。
しかし……こうなってくると、パーディ以外のモンスターも出てきそうだな。今のところ探知魔法にはパーディのものと思われる強い反応以外に何もないようだが……気を緩めるわけにはいかない。
「大丈夫か、イベーラ」
「平気ですよ」
あれだけ魔境探索に情熱を燃やしていたイベーラも、さすがにこの現状を目の当たりにしてはいつもの威勢がない。まあ、正直、この場所でいつも通りを貫くのはかなり難しいかもしれないな。
「みんな浮足立っているようだな」
「慣れない環境だからなぁ……」
アルも心配してくれているが、こればっかりはどうしようもない。
場数を踏むしかないのだ。
現に、ゴーテルさんは落ち着き払い、周りへのフォローも欠かさない。
一度態勢を整えるため、退却するべきか。
その選択肢が出てきたところで、
「っ! 近いぞ!」
反応がさらに強くなる。
どうやら、パーディのすぐ近くまで迫っているようだ。
俺の言葉を受けて、全員が臨戦モードへと移行。
……なんとか、話し合いで解決をしたいところだが……相手が応じてくれるのを祈るしかないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます