第22話 夜の出来事
屋外で夜を迎えるのは、魔境へやってきてからは初めてだ。
「星の数が王都とは比べ物になりませんね」
「同じ星空のはずなのになぁ」
温かいコーヒーの入ったカップを持ちながら、真っ暗な夜空に散らばる星々を眺める。これまでに何度も見てきたはずだが……不思議と初めて見るような感覚だった。
ちなみに、突然の襲撃に備えるため、周りには結界魔法を張って警戒。これは竜玉の指輪によって得られる魔力で生みだしたもの――早速、あのレアアイテムが役に立ったな。これで夜もゆっくり過ごせる。
俺たちの住んでいる魔境村にも、同じように結界魔法で防御は完璧だ。
一方、リドウィン王国の魔境調査団メンバーも、初めて迎える魔境での夜に恐怖というより興奮している様子だった。
中でも、イベーラはこれまでになくテンションが高かった。ゴーテルさん曰く、あそこまではしゃいでいる彼女を見るのは初めてのことらしい。
さらに詳しい話を聞いていくと、イベーラはとても行動的で、貴族のようにかしこまった舞台は本来苦手なのだという。今のように、自然の中で過ごす方が彼女にとっては自然体の姿ってわけだ。
グローム王国の貴族は、どちらかというと彼女とは正反対のタイプが多かった。
だから、最初は彼女もグロームの貴族たちのように、こうした場所で過ごすのには強い抵抗があると思ったのだが……まさかメンバーの中で一番ノリノリとは予想外だった。
「リリアンの言う通り、夜空がこんなにも美しいなんて……初めて知りました」
「そうなのですか?」
「夜になると、屋敷から出るのを禁じられていたので、窓から外を眺めるくらいしかできなかったんです。こうして、夜空の下に立つことができるなんて……今でもちょっと信じられませんね」
本当に、心から感動しているようだ。
その証拠に、彼女の瞳は瞬く星々と遜色ないほど輝いていたからだ。
「こうしていると、この場所が人々にとって畏怖の対象となっている魔境だということを忘れてしまいそうです」
「……いや、もうここは恐怖する場所じゃなくなるはずだ」
「えっ?」
俺がそう告げると、イベーラは大きな瞳をさらに大きく見開いてキョトンとしている。しかし、すぐにこちらの言葉の意図を理解して微笑む。
「そうですね。エルカさんとみなさんが協力して作ろうとしているあの村は……きっとこれから世界に好影響を与える聖地になりますよ」
「そ、そこまでやれるかどうかは分からないけど……」
な、なんだかプレッシャーが凄い。
でも、心意気としてはそれくらいなくちゃダメだろうな。
「そうなったら……この魔境はひとつの国になり得ますね」
ただでさえ大袈裟になっているイベーラの発言に、リリアンが大きな爆弾を放り投げた。
「国……確かに、それくらいの規模は必要になってきますね」
「はい。国民はこれからどんどん増えていくでしょうから、国家レベルに達するまで時間の問題かと」
「それなら、ぜひリドウィン王国と同盟国になっていただきたいです」
「イベーラ様のいる国なら問題ないですね」
「ちょ、ちょっとストップ!」
女子ふたりの会話がエスカレートしていったので止める。
立場が立場なだけに、実現しかねないというところが笑えないんだよなぁ。
「さあさあ、明日は朝からダンジョン探索に出るんだから、今日はこれでお開きにしましょうか」
ふたりに呼びかけて、この場はなんとか収まったのだった。
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