第2話 賭け
(琢磨!目の前のバアさんにここは席を譲ってお前の株を上げようぜ)
(琢磨さん。席なら他にも空いていますし、もし譲って断られでもしたら琢磨さんが損です。貴方は琢磨さんに恥をかかせる御積りですか?ここは気がつかないふりして大丈夫ですよ)
アレ以来『テン』と『アク』の意見が180度変わった。
俺の株を上げようとエゴ丸出しの『アク』とサラッと毒つくように棘のある言葉で否定する『テン』
(結局そのまま座ったままだったな、お前の株が上がるチャンスだったのに)
(琢磨さんは貴方と違って利口な方なのです。一時の感情に左右などされませんわ)
(お前に天使としての誇りは無いのかテン)
(あら……悪の所業を尽す貴方からはとても考えられないことを仰るのですねアクさん)
「煩い。二人共黙ってくれ」
琢磨の淀んだ瞳に言葉を失う2体。2体が入れ替わってから琢磨の籠もりがちな性格は悪化の一歩を辿っていた。
それは2体が唯一共有する懸念案件でもあった。
「押忍琢磨!今日も暗いな。なんかあったか?」
教室の座席に座ると前に座る女子に話しかけられる琢磨。
「別に」
「そうか、なんか困った事あったら遠慮せずに私に相談しなよ琢磨」
(北川美波[きたがわみなみ]。相変わらず元気だな、何より琢磨を気にかけてくれる良い娘だ)
(あら、自分がクラスの人気者だからって、琢磨さんの気持ちを察さずに調子に乗って強引に輪に入れようとする自己中女ではないですか。あんな方のどこが良いのやら)
(あのな、ああゆー娘の真っ直ぐな気持ちは真正面から受け取るべきだろ)
(隠された腹黒さに気づかず琢磨さんが騙されるようなことを貴方は容認するのですね。アクさん)
(なんだと)
(あら、図星ですか)
「だから静かにしろ!」
突然叫ぶ琢磨に凍りつく教室。
「どっどうしたんだ?琢磨」
流石に美波も後ろからの突然の叫びに驚いた。そして自分が作り出した空気に耐えきれず、琢磨は教室を飛び出してしまった。
(なぁ琢磨そろそろ教室に戻らないか?もう3限だぜ、次はお前の得意な国語じゃないか)
(誰のせいで琢磨さんが教室を飛び出す羽目になったと思っているのですか?)
(人のこと言えるのかよ)
(それはお互い様では?)
「お前ら、いい加減にしてくれ。誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
琢磨の諦めに近いトーンに言葉を失う2体。彼の為にやっているはずなのに彼を苦しめている現状に2体は焦りともどかしさを感じていた。
「やっぱりここにいたか琢磨」
美波が琢磨を見つけ近づく。
「隣いいか?」
「好きにしな」
「じゃあ遠慮無く」
隣に腰掛けるものの静かな時が流れる。
「お前。次の授業はいいのか?」
「私今、保健室にいることになってるから大丈夫」
「仮病か?」
「誰かさんみたいに突然教室飛び出して行方不明になるよりはマシよ」
「うるせー」
「琢磨ここ好きだよね」
「………誰にも話しかけられず。読書に集中出来るからな。例外を除いては」
「アハハ………手厳しい。教室に戻らないのか?」
「少なくとも今日は戻る気は無い」
「そっか、じゃあまた課題とか出たら教えてやるよ、じゃあな」
「あぁ……」
そう言って勢いよくその場を立ち去る美波。
(あの娘よくここにいるってわかったな)
(まぁ、琢磨さんが学校で行く所はだいぶ限られてますし。さほど気にすることでもないのでは?)
(だとしても、態々仮病使って探すか?)
(なにが言いたいのですの?)
(だからあの娘………ってことだよ)
(まさか!?………ですが探る価値はありそうですわね)
「おい、ここにいる時は静かにしてる約束じゃなかったか?」
琢磨の苛つきを肌で感じ取る2体
(わっ悪かったよそう怒るな)
(もう喋りませんのでそうお怒りにならないでください)
再び読書に集中する琢磨。
(………決めた。アレをやる)
(アレってまさか!?いけませんわそれは禁忌の手段あくまで私達は琢磨さんのサポートを)
(でも確かめようにも琢磨の性格上自分から話しかけるなんてまずあり得ない。あの娘の意図を探ろうと思ったらアレしか方法はないだろ)
(ですが………それは)
(俺達はなんの為にいる?)
(それは。琢磨さんが最良の人生を歩めるように手助けをすることですわ)
(もしあの娘の意図を探れれば突破口を開けるかもしれないんだよ)
(それは………そうかもしれませんが)
「お前達。いい加減」
(マズい)
(琢磨さん落ち着いて)
(こうなれば一か八かだ)
(ちょっとアクさん)
(ごめん琢磨)
(なっなんだよ!ヴォァーーー)
「…………。よし行くか」
琢磨(?)は部屋を出ると一目散に教室に戻って行った。
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