20 腐人の行進-歩く血腐人-2

9/7 19話と共に更新しています。

残酷描写ありとしていますが一応。

この話は全体的に、少し表現が生々しいかと思います。(直接的には表現しないようにはしましたが)

その点に注意して、少しでも気分が悪くなったら読むのをお止めください。

――――――――――



 ブラッドウォーカーがこちらを見ていると認識した瞬間、悪寒により周囲の認識が一瞬不可能になった。視野が狭くなったのだ。

 少しして、周囲を確認する余裕が出来た瞬間、目の前に白い剣が見え、何故か俺の身体が左にずれ、白い剣は右に消えていった。

 俺を押したであろう人物を見てみると、白い剣により首を切断されていた。右手をサムズアップした状態で。


 唐突な出来事に頭が追い付かないが、取り敢えず理解できたのはスヴァさんが俺の事を押し込み、その標的を自分にして殺されてしまったという事だけ。

 何故スヴァさんが俺を庇ったのか、解らない。出会って1時間ぐらいの人間を何故庇ったのか。


 今はその疑問を解消することは出来ない。が、その疑問を解消するために、おびえてないでこのブラッドウォーカーを倒すとするか。


 スヴァさんの首を刈り取り、その頭から流れているモノを飲んでいるボスに走って近づき、右手に持った剣でその腕を斬り落とそうと振り下ろす。が、ボスの左手にある腕がひとりでに動き、俺の剣を掴み止めた。

 それに驚きつつ、その剣を手放し、後退しながらアイテムボックスからもう1本の剣を取り出す。と同時に腰から杖を取り、右手で剣を持ち、左手で杖を持つ。


 視線を一瞬ボスの足元・・に向けて、術を選択する。選択する術はクエストの最初でも使った水矢陣だ。


「全ての水を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の水の力を。」


 小声で詠唱と“魔力の送入”を完了させ、20秒までなら保留できるので待機させる。その間に周囲のプレイヤーに向けて言葉を発する。


「取り敢えずこいつの周りを固めて攻撃してくれ! 俺がこいつに術を放つからその隙に!」


 そう言ってボスとの距離を詰める。当のボスは足元・・を気にしながらちょこまかと動き回っている。俺の発動する術は水柱陣ではないのにな。

 周りのプレイヤーが動き出したのを確認し、術の名を紡ぐ。


 ――水矢陣!――


 その言葉と共に杖を振り、矢を押し出す。押し出された矢は一直線にボスへ向かい、頭を狙う。

 ボスは向かってくる矢を、剣で刺していたスヴァさんの頭部を振り落とし、その更に赤く染まった白い剣で弾く。

 その少しの隙にプレイヤーがボスの周りを少しは包囲しつつ攻撃し、ボスの動きを少なくする。


 それと同時に俺も、動かしていた足を更に動かし、ボスとの距離を詰め、残り数メートルのところで剣を上から振るう。魔力を纏った剣を。

 先ほどと同じように左手に持った手で対応したボスだが、その手で剣を掴むことは出来なかった。魔力を纏った剣によって手は破壊されたからだ。それをボスは認識したしてしまったのか、――


 ――ヴォァァァァァァ!!!!!――


 “手”を破壊された悲しみか、恨みか、咆哮をしたブラッドウォーカー。ブラッドウォーカーに攻撃を仕掛けていたプレイヤーたちは、その咆哮によって生じた衝撃波で吹き飛ばされてしまったようだ。


 手を破壊してすぐ後退して、剣を確認してみるがそこに込められた魔力は、すべてが無くなっていた。どうやら、“手”を破壊するのにすべて使ってしまったようだ。


 再度剣に魔力を込めつつ、術を発動するため杖を構えると、視界の端でこちらを認識したのか、ボスが死に物狂いの様に走ってきた。

 こちらに走ってきている最中にも、周囲のプレイヤーから攻撃されている。が、その殆どを無視していた。時たま無視できないような攻撃があったとしても、右手に持った剣で片手間に対応していた。


 ボスが向かってきているので術の発動は取りやめ、剣への魔力供給も途中で止めた。1本の剣を両手で持ち、こちらからも走り出す。

 15メートルほどの距離だったがすぐに数メートルとなり、それぞれの剣を振るう。

 俺はボスを縦に斬るために。対してボスは俺の首を取るため横に。


 ――ザシュッ!!――


 俺の方が一瞬速かったのか、ボスの剣は首に触れる前で止まり、俺の剣はボスの身体の鳩尾らへんで止まった。がすぐにボスの右手が動き出したので、咄嗟に残りのすべての魔力を剣に流し、少し剣の向きを変えて心臓部にあるであろう魔石を直接狙う。


 ボスは首を斬ることより、確実に殺すことにしたのか剣を持ち替え、首に突き刺すように動かし始めた。

 こちらから見て少し右に向くように剣を動かし、上に剣を戻す。剣がボスの肉体の中を動き魔石に当たる直前、首元に刃物の当たる感覚がした瞬間に、全ての力を籠め一息に剣で魔石を割る。


 と同時に首の中を刃物が進む感覚を覚えた瞬間に、死亡ログが現れ、俺の見ている景色は噴水広場に切り替わった。


《『腐人の行進』ボス、ブラッドウォーカーの攻撃により死亡しました》

《死亡したため、1時間ステータスが半減します》

《『腐人の行進』中に経験値を獲得した為、『腐人の行進』終了時に全て反映いたします》

《上記同様、称号を獲得していた場合も、終了後反映いたします》


「あ、イズホも死んでしまったんか」

「最後魔石を破壊した感覚はあったけどギリギリでな」

「じゃあ、あのボス殺せたんか!」


 ボスに殺されたスヴァさんが話しかけてきて、そのように答えたら、大きな声でそのことを叫んだ。すると、周りにいた同様に殺されたらしきプレイヤーたちが反応した。


「まじか!」

「おお!!」

「あんな奴に勝ったのか!」


 等々、その様にして広まっていき、ワールドクエスト終了まで軽いお祭り騒ぎとなった。

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