14 パスタ作る時の穴の開いた鍋みたいなやつ
作業部屋に入っていった師匠に付いて行き、前回ログインの時に教えてもらった機具の前で止まった。これは確か『合成』を使うためのやつだったかな。
「……まずは『合成』からだ。取り敢えず材料はあたしの地下倉庫から持って行っていいから。
ガラス瓶と水とイムリル草で下級HP回復薬が作れる。初めは何の情報も無しに作ってみな。……素材の鑑定も無しね」
そう言って渡されたガラス瓶と水とイムリル草。何の情報も無しにと言われたがこれはシステム的なチュートリアルも無しにという事だろうか?
「師匠、異邦人には大体のスキルを初めて使うときに説明が出てくるようになっていますが、これも無しですか?」
「……それも無しだね」
「分かりました」
という事なので初見でなんとなくやってみるしかないようだ。
設備の作業台のような場所には陣が描かれていて、台の上は普通のコンロのようになっており、そこに陣から線が複数伸びている。
取り敢えずそれっぽいような感じでやるとして。
コンロの上には両手鍋のようなものが置いてあるのでここに素材を入れて、コンロに火をつけ、鍋の中身をゆっくりかき混ぜる。
沸騰する直前に『錬金』の『合成』を発動してみる。
――――――――――
スキル錬金の発動を確認しました。
スキル錬金のチュートリアルを開始しますか?
Yes / ○No
――――――――――
『合成』を発動すると身体から魔力のようなモノが抜ける感覚があり、鍋の上に白色の陣が浮かび上がった。これは水術等の術を発動するときに出てくる術陣と同じようなものらしく魔力を流すと陣――錬金術陣は少し黒くなり、その黒が陣全体に広がっていく。
やがて所々薄かったり濃かったりする錬金術陣は沸騰直前の鍋の中に吸い込まれていき、何故か勝手に火が消え鍋の中の液体は薄緑色になっていた。薄緑色の液体の中には何も残っていなかった。
「師匠、たぶん出来ました」
「自分で鑑定してみな」
出来上がった推定HP回復薬を鑑定してみる。
――――――――――
【回復・HP】下級HP回復薬の入った鍋 品質:劣 レア度1
重量10 属性:回復
Lv.1~Lv.50までの存在が使用した場合、最大HPの10%を回復する。
Lv.51~Lv.150までの存在が使用した場合、最大HPの5%を回復する。
Lv.151以上の存在が使用した場合、HPは回復しない。
適切な手順で作られていないためイムリル草が溶け込み効能を落としている。
若干、草の苦みがある。
――――――――――
因みに師匠の店に置いていたやつが『Lv.1~Lv.50までの存在が使用した場合、最大HPの30%を回復する。』という効果である。それと比べるとお粗末な効果である。まぁ師匠と比べるのが間違っているのかもしれないが。
それにしても最低品質でも回復効果が10%もあるなんて、そもそもの素材がよかったからだろうか。この後鑑定するか。
「……初めてにしてはよくやった方だね。初めはそもそも回復効果が付くことすら珍しいってのに」
「そうなんですか?」
「……そうさ。この合成は魔力ないし聖力がきちんと扱えないとそもそも失敗するんだから」
狼討伐の時も最初の方は術陣に魔力を流すのに失敗してたからきちんと扱う云々はそれの事かな。
「……じゃああたしの作り方を見ときな」
そう言って機具の前に立ち、鍋でパスタを作る時のような湯切りするための底が深い網を鍋に入れそこに水とイムリル草を入れ火をつけた。
少しして沸騰直前になると火を止め網を取り出し、横に置くと『合成』を発動させたのか鍋の上に錬金術陣が出てきた。
錬金術陣は端の方から黄金色に輝いていっている。黄金色の意味は何だろうか。
やがて黄金色が錬金術陣全体に満遍なく広がりそれが鍋に吸い込まれ、出来上がったHP回復薬と思しき液体は俺の作ったものよりも透明に近かった。
「……ほれ、鑑定してみ」
「分かりました」
――――――――――
【回復・HP】下級HP回復薬の入った鍋 品質:優 レア度4
重量10 属性:回復
Lv.1~Lv.50までの存在が使用した場合、最大HPの35%を回復する。
Lv.51~Lv.150までの存在が使用した場合、最大HPの17%を回復する。
Lv.151~Lv.200までの存在が使用した場合、最大HPの8%を回復する。
正式な手順で作られ、上等な聖魔力が込められている。
――――――――――
「……これは今の素材であたしが作れる最高傑作だよ」
聖魔力というのが黄金色のやつだったとして、どんな手順で放出することが出来るか判らないが、それを使って作成するとこんなすごいのが作れるのか。確か店頭に置いていたやつは『Lv.151以上』という制限がないやつだと最大HPの3%回復だったはずだ。
「因みにこの聖魔力というのはどんなやつですか?」
「……逆に聞くけど聖王国に行く予定はあるかい?」
「49日後ぐらいにこの国を出発していく予定ですが」
「……そうかい。じゃあ今教えるのはやめにしとこう。あんたが聖力を使えるようになったら、としよう」
そういうことになった。
そのあと、師匠に回復薬作成のコツを教えてもらった。
曰く、鍋の中身は混ぜず放置。イムリル草は『合成』を使用すると一緒に混ざってしまうから『合成』使用前に取り除く。『合成』を使用し錬金術陣が出たら、一定の速度で一定量を満遍なく聖魔力ないし魔力を注ぐと品質のいいHP回復薬ができる、らしい。
取り敢えず、今回のログインは出来るだけHP回復薬を作ろうと思う。
因みにイムリル草の鑑定結果はこんなのだった。
――――――――――
【素材・草】イムリル草 品質:優 レア度3
世界各地に生えているHP回復薬の原料。
草の一部のみがHP回復薬になる、らしい
熱するとその一部が溶け出し、混ぜると回復薬になる。
その一部以外はただの草。
――――――――――
だから俺の方は品質が悪かったのか。
――――――――――
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よろしくお願いします。
魔力の色はスレートグレー(#5D5D63)を想像してください。
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