第2話

 自室を出て取調室の横の部屋に入る。

 マジックミラー越しに見える取調室は、床一面が”真実”の花言葉をもつ、キクとアネモネの鉢植えで埋め尽くされており、廊下と同じ色をしているであろうリノリウムの床は、一切確認できない。

 たくさんの鉢植えに囲まれるようにポツンとひとつ置かれた椅子には、既に彼女が座っており、不快そうに青白い顔に滲んだ汗を袖で拭っている。花が育つ環境を保つために室内温度がやや高めに設定されているためであろう。

 世の中はこんなところまで植物ファーストだ。

 マジックミラー越しの彼女と対面に用意された椅子に座る。俯いているため彼女の表情はわからない。部屋同士を繋ぐマイクのスイッチを入れ、いよいよ取調べが始まる。


「これから取調べを始めます。一応本人確認と言うことで名前と生年月日、職業を教えてください」


「……ホシノ ヒトミです。20XX年二月十一日生まれ。仕事は国家植物管理局で局員バッチの管理官と植物保持の適正検査官をしていました」


 彼女は俯いたまま静かに答えた。取調室内での発言であるため、もちろん事前情報との齟齬はない。終わらそうと思えば現代の取調べなど数分で終えられるのだが、それではなんだか味気ない。部下には何でそんなに面倒なことをするのか不思議がられるが、俺は順を追って質問をしていく。

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