でとねーたーず!!vol.3
維 黎
黄泉路への羅針盤
【
唱えられた瞬間、どこかの闇に繋がっていた空間を内側から巨大な骨の両手がこじ開ける。その裂け目から現れたのは人の子ほどの妖精。
両目が潰され血の涙を流し、唇は上下を縫い合わされている。同様、二対の翼も。そしてその妖精は自身より巨大な羅針盤を両腕で頭上に掲げていた。
暗黒神を信奉する闇司祭が授かる黒呪怨と呼ばれる神の奇跡。
目の前の人ならざる
「うわぁ。またマイナーな
「……余裕だね、チェシカ。アレが
魔導師の
魔導師の少女の名は"チェルシルリカ・フォン・デュターミリア"。親しい者からはチェシカと呼ばれている。
少女の目線の高さで飛んでいる少年とも少女とも見える中性的な容姿の小人は
砂の煉獄と呼ばれる砂漠にて。
チェシカとヒュノルの二人以外は誰もいない。が、誰の範疇には含まれない
魔術協会からの依頼で詳しいことはわからない――本人が覚えていないだけで事前に協会からは詳細を説明されている――が、要するに封印の有効期限が切れるので封印し直して欲しい、とチェシカは依頼内容を理解している。
依頼を受けたチェシカとヒュノルは、人里離れた誰もいない砂漠のど真ん中まで
「ねぇ、ヒュノル。
「無茶言わないでよ。それに僕が妖精と同種族じゃないことを知ってるくせに」
ちなみにチェシカには数多くの字があり"百字の魔女"と呼ぶ者もいる。
「チェシカこそ"サクッと簡単一発お手軽封印術"とかないの? 帝法魔道学院を主席で卒業したんでしょ?」
「う~ん。お手軽じゃない封印術はいくつかあるけど、今からだと間に合わないわねぇ――て、ことでッ! "サクっと一発お手軽吸引術"を使うことにしましょう!」
「え?」
開け 蒼天の
冥界に
集い出でて 我が怨敵を喰らいつくせ
【
冥界より召喚された悪鬼魑魅魍魎どもが寄り集まり一つの球体となる。直径にして二メートルはあるだろうか。
全体が汚泥のようにヌメヌメと波打ち、時折何かの、或いは誰かの無数の
目の前の
静寂。
砂漠には二人だけになった。
「とめられぬなら、食べてしまおう羅針盤ってね♪」
「……」
依頼終了と鼻歌混じりでご機嫌なチェシカをヒュノルは無言のジト目で見ていた。
魔術協会からは高額な依頼料を提示されていた。一般人ならば一生働かなくても良いほどの。
その依頼内容とは、再封印して無事に
ヒュノルが目線を前に向けると、ドロドロとした怨念の塊も
「さ♪ 帰ろ、帰ろ♪」
スキップも入れつつご機嫌な様子で帰路に就くチェシカ。
先ほどからの鼻歌はずっと音程がズレているが気にしない。彼女には
チェシカの言う通り依頼は終了と言っていいだろう。しかし完了ではない。
「報酬、もらえるかなぁ」
溜息と共にその小さな肩を落とすヒュノル。
彼女と共にいる限りどんな精巧な羅針盤だとしても、真っ当な
「――彼女の字で"
小さな妖精のどこか達観した呟きは、砂塵の大地に吸い込まれていった。
――了――
でとねーたーず!!vol.3 維 黎 @yuirei
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