③碧にたゆたう
午後12時の男
第1話 企画・プロット
仮題「碧にたゆたう」
●アウトライン
陸地の大半が沈み、海ばかりが広がる世界。
潜水服を使って、海底に沈んだ旧世界の異物の収集をしているひとりぼっちの人間の青年と、彼が拾った人魚の少女の、まったり海洋冒険記。
●参考作品
・翠星のガルガンティア(海ばかりの世界観のイメージ)
・メイドインアビス(主人公が日常的に行っている遺物収集のイメージ)
・七つの海のティコ(世界中を気ままに船旅をするイメージ)
・ヨコハマ買い出し紀行(少し不思議な世界でのまったりした生活感のイメージ)
・ゆるキャン(ゆるめのサバイバル感。ガチではなくキャンプ感を出す)
・クプルムの花嫁(無口な男と子犬っぽい甘えん坊少女のイチャイチャ感)
●セールスポイント
・世の中辛いことも多いけど、せめて小説の中くらいは優しい気持ちで満たされたいよね……という欲求にこたえる、心温まるラブラブ二人旅。
同様の欲求を満たせる作品として、日常物、スローライフもの、キャンプものが既存の流行ではスタンダードだが、今作品は「水辺のバカンス・気ままな旅行」「人魚ヒロインとの、ゆるめのイチャイチャ」「寂しい世界の中でも互いを思い合う優しさでほっこりするエピソード」の要素で差別化をはかる。
●物語構成
・1冊あたり3~4本くらいの短編/中編集を想定。
ストーリー重視ではなくほっこりした生活感を押し出すため。
・ただし作品としてのまとまり感を出すため、1冊単位でなにがしかのストーリー的、あるいはキャラクターの精神性の前進は用意する。
・このあたりの物語構成については相談の上で調整可。
●キャラクター
○ゼン
<キャラ背景>
世界でただ一人の生き残り(と思われる)人間の青年。20歳前くらい。
世界を破滅に追い込んだ戦争勃発直後、両親によりコールドスリープの処置を施され、運良く生き延びることが出来た数少ない人物。
残されていた教育用の端末によってサバイバルのための知識を得た後、手製の船<オリジアス号>と潜水服を使い、海中に沈んだ旧世界の異物を収集して回っている。
※特に理由がある行動ではなく、強いて言えば知識欲を満たしつつ、同時に先に死んだ家族や友人の弔いをするためのもの。
※本人のテンションとしてはむしろ「宝探し」に近い。
<性格・言動>
あまり物事に熱意がないように見える言動が多い。
(常にサバイバル生活を送っている状態なので、面倒くさいこと=労力がかかる、リスクが大きそうなものはなるべくしたくないという考えが染みついている)
一方で必要と感じたことに関しては真面目でマメ。面倒見もいい。
(そうしないと生き残れないから)
<外見>
黒髪ボサボサ頭。
精悍な顔つきだが眠そうな目元。
長身痩躯。
○ミリィ
<キャラ背景>
ゼンに拾われた人魚の少女。15歳くらい。
本当の名前はミレリリルレッカ。ものすごく呼びづらい名前なのでゼンからはミリィと呼ばれている。
何らかの事故で群れからはぐれてしまっており、また、その際の前後の記憶を失っている。
ゼンの遺物収集の手伝いをしながら、群れに戻るために手がかりを探している。
<性格・言動>
気分屋で明るくて甘えん坊。
自分を助けてくれたゼンに対し、子犬みたいになついている。
いたずら好きだが、それもひとえにゼンに反応して欲しいからで、彼が本気で怒るようなことはまずしない。
もとはゼンの使う言語(日本語)と別の言葉をしゃべっていたが、ゼンに日本語を教えられた。
そのため、普段は女の子らしい言葉を使っているが、激昂したりするとゼンと同じ言葉遣いになる。
(ゼンの発音をまねるところから言葉を勉強したため、彼女にとって日本語のデフォルトはゼンの口調)
服が嫌い(「胸を俺に見せるようなはしたないことをするな」とゼンに強要され服を着させられているが、元々の群れではつけていなかったため)
そのためひとりの時は基本素っ裸。ときどきゼンにそれを見とがめられ、怒られている(裸を見られる恥じらいがなく、ゼンが慌てるのが面白いので反省してない)
<外見>
海色のストレートロング。
スレンダー体型の少女。(ただし人魚)
猫っぽい目元が特徴的。
○アズサ
<キャラ背景>
機械人の集落(タンカー程度の規模の大型船)のリーダー。
もとは人間の女性だが、戦災を生き延びるために意識を機械の身体に移した存在。
最初は自分の身体のメンテをするために自律式のロボットをつくり使役していたが、それが長い年月を経て機械人の集落となった。
今の肉体はもともとロリコン向けのセクサロイドだったもの。(用途の関係上、身体の構造が比較的人間に近いためにこの身体を選んだ)
<性格・言動>
世話好き、面倒見がいい。
ゼンに対しては特に「初めて会った(元)同族」ということもあり、親戚の小さな子供に対するように振る舞う。
<外見>
ふわふわ赤毛ヘア。
幼い見た目の美少女。
中身の人格が老成しているため、仕草はどこか気だるげで、大人びている。
●世界観・舞台設定
○大まかな世界観
陸地の大半が沈み、広大な海が広がる世界。
かなり広い範囲で水深50m以内の浅瀬が広がっている。
※はるか昔に起こった世界中を巻き込む戦争によって、大陸プレートに異常が起こり、また南極と北極の氷がすべて溶けてしまった結果、陸地のほとんどが海底に沈んでいる。
人類のほとんどが死滅してから相当な年月が経過し、別の知的生命体・あるいは機械生命体が発生して、それぞれのコミュニティでゆるやかに暮らしている。
人類滅亡から長い時間が経っているため、人類時代の廃墟などはわずかにしか残っていない。(風化しきって残っていない。シェルターなど耐久性のあるものだけかろうじて残っている)
陸地も皆無というわけではなく、規模の大きいものだと北海道程度の島は複数存在する。
ほぼすべての陸地がガラパゴス状態で、それぞれの島固有の生態系が存在し、ユニークな知的生命がコミュニティを作っている。
(陸地はあまり冒険の対象としない。ミリィが「わたしをひとりにすんな!」と寂しがるのでゼンは陸上に長居したり陸地の奥深くに行くことができない)
○ゼンの島
コールドスリープで眠らされていたゼンが目覚めた島。
周囲10km程度。
元は日本の山岳地帯に設置されたのが、奇跡的に海に没せず生き残った。
コールドスリープ装置を収めたシェルターの機能はかろうじて稼働を続けており、そのおかげでゼンはサバイバルの知識や技術を習得し、生きながらえることが出来た。
今もゼンの遺物回収の拠点として活用されている。
(回収した遺物の保管場所・作物を育てる畑・船のメンテのための簡易ドッグなど)
○<オリジアス号>
ゼンが遺物回収のための冒険に使っている手製の船。
形状としては船と言うより、船外機を取り付けた屋根付きのイカダといった方が正しい。
モーターの動力は電気式。太陽電池で充電する。
寝床としての小屋・簡易キッチン・食料庫・日光を利用して海水から真水を蒸留する装置、サルベージ用の電動式クレーンなどがある。
作物を栽培する鉢植え、プランターなども置かれている。
荒波や悪天候には強いが速度はめちゃくちゃ遅い。
名前は「めだか」の意味。
○新人類
人類が滅亡した後に発生した新しい知的生命体。
さまざまな形態を持っており、それぞれのコミュニティーを持つ。
下記はその例。
・人魚
見た目は伝説の人魚そのままの姿をしている。
もとはかなり非合法な人体実験を行っていた施設で生み出された種族で、戦災により施設が破壊され、そこから逃げ出して「野生化」した。(つまり遺伝子的にはかなり人間に近い)
文字を持たず、海中の洞穴などを拠点にして狩猟生活をしている。
・機械人
新人類のひとつ、機械生命体。
見た目は様々で、ほぼ人間のような外見のものから、ブラウン管TVの頭に鉄パイプの胴体を組み合わせたいかにも「ロボット」らしいものまで多種多様。
元々は自律したAIを持つロボットが戦火を生きながらえつつ、まだ活動している類いのもの。
一部の集落は、ゼンと時折物々交換で取引をしている。
また例外的な存在として、元々は人間で、機械の身体に意識を移し替えたような存在もいる。
○遺物
滅亡する前の人類が作り出した諸々の器物。
ただのガラクタがほとんど(昔の電化製品など)。
海中に没しているものはほとんどがシェルターや保存カプセルなどに封入されている。ゼンやミリィからは宝箱的なニュアンスで捉えられている。
機械人にとっては自らの肉体の部品になり得るものなので、かなり高価値で取引される。
(陸地が少ないため鉱山に出来る場所が限られており、電化製品の中にあるレアメタルなどが機械人にとって特に貴重品)
多くは滅亡した人類の残したものだが、中には人類滅亡後の他の新人類が残したものもある。
●各話数のエピソード概略・大まかな話の流れ
○1話
<概略>
世界観とゼン、ミリィの普段の生活がどんなのかを説明するエピソード。
<大まかな話の流れ>
海の上で生活する最後の人類であるゼンは、迷子の人魚、ミリィと共に、海のあちこちに沈んだ宝物(旧世界の遺物)を集める生活を送っている。
今日もどこかの海底を探検していると、小さな黒い箱を発見。
いろいろとゼンが調べた結果、その箱が、昔の人が映画を楽しむために使っていたポータブルプロジェクタであることが判明する。
さっそくそれを鑑賞するゼンとミリィ。
話し言葉しか教えられておらず、字幕の読めないミリィは「わからーん!」とゴネるが、そのうち映画の展開に引き込まれていく。
映画が終わる頃には、結局、何だかんだでミリィも楽しんでいた。
基本的に退屈な日々だが、今日は図らずも一風変わった映画デートを楽しむ事が出来た。
いつもよりほんの少し豊かな気持ちになりながら、ゼンとミリィは明日のために眠りにつく。
○2話
<概略>
ゼンとミリィの他にどんな人々がいるかの情報提示をしつつ(機械人など)、機械人との交流から、ゼンがミリィのことをいかに大切に思っているかを示すエピソード。
<大まかな話の流れ>
拠点の島に戻り、久しぶりの休息にゼンとミリィが羽を伸ばしていると、島の近くに大きな船が現れた。
ゼンやミリィとはまったく違うこの世界の住人、機械人たちの集落である。
ゼンの集めている旧世界の遺物は、機械人の間で非常に高価値で取引されている(機械人たちの身体の重要なパーツになるため)。
早速ゼンは取引のために乗船すると、なんとそこのリーダー、アズサは、元々はゼンと同じ人間で、意識を機械に転写して生き延びた存在だった。
初対面だというのにアズサはゼンのことを気にかけ、「我々の仲間にならないか」と誘ってくるが、ゼンはそれを断る。
ミリィをひとりぼっちにはしておけないからだ。
機械人は機械人の都合で海を旅している。ひとりで身軽でいた方が、ミリィが群れに戻る手伝いはしやすい。
そのことを察したアズサは、誘いを断られたにも関わらず「そうか。達者でね」と優しくゼンを励ましてくれた。
やがて取引と情報交換を終わり、島から離れていく船を見送るゼンとミリィ。
「何話してたの?」と尋ねるミリィに、なんだか気恥ずかしくなって「別に」と答えるゼンだった。
○3話
<概略>
機械人たちの船で入手した情報をもとに、群れの行方を捜すゼンとミリィ。
そこでゼンは、ミリィたち人魚が元は人間で、遺伝子改造された存在であること、そしてミリィのいた群れがすでに全滅していた事を知る。
<大まかな話の流れ>
機械人たちの船で入手した、「最近、人魚の群れが確認された海域」の情報を元に、そのあたりを調査するゼンとミリィ。
あちこち探した結果、海底に沈んだ大きな建造物を発見したふたりは、そのなかを慎重に探索する。
かろうじてまだ生き残っていた情報端末を、アズサの助力を得ながら調べた結果、どうやらミリィたち人魚は元々人間で、この建物(何らかの研究所)で遺伝子改造をされて生み出された存在らしいことが発覚する。
それを聞いて、ミリィはむしろ歓喜する。
「じゃあじゃあ、ゼンもあたしたちの仲間になれるってことじゃん!」と。
どうやらミリィは、彼女が群れと合流することができたら、ゼンと別れなければならないことを察して寂しく思っていたようだ。
けれど、ゼンが手に入れた情報はそれだけではなかった。
もともと実験体だったミリィたち人魚は、体内に発信器になる臓器を生成するよう遺伝子改造されており、施設の大半が死んだ今でも、この研究所はミリィたちの行動をモニタリングしていたらしい。
ミリィの仲間の動向がわかるかもとさらに検索してみるも、そこで得られた情報は、考えられる限りで最も残酷なものだった。
ミリィの群れは、もうすでに、全滅していたのだ。
さすがにこんな事実を、ミリィには伝えられない。
何よりこの研究所が、ずっと行動をミリィを監視しつづけているのが気に食わなくて、ゼンは情報端末を破壊する。
施設を後にして、何とも言えない表情のゼンに何かを察して「どうしたの?」と問いかけてくるミリィだが、ゼンは上手く答えられず、曖昧に笑うことしかできなかった。
○4話
<概略>
過去の回想。ミリィを拾い、世話をしていくうち、いつの間にか彼女が心の支えになっていた事を思い出すゼン。ミリィをひとりにしてはいけないと思い直し、彼女と同じ種族になる手段を探すことにする。
(漫然と生きていたゼンが、これから生きる目的を見いだす)
<大まかな話の流れ>
ミリィと出会う前、ゼンはただひたすらに孤独な生活に倦んでいた。
その日の食料を確保し、食べ、排泄をし、そして寝るだけ。
遺物集めを始めて何とか無聊を慰める日々を送っていたある日、ゼンはミリィを発見した。
傷だらけで衰弱していた彼女を放っておくことも出来ず、ゼンはやむなく彼女の介護をすることになった。
栄養価の高い食料を用意し、傷の手当てをし、寝床を確保してやったり。
そうして世話をしていくうちにミリィはゼンの言葉を覚え、片言ながらも会話が出来るようになっていった。
遺物集めに積極的になったのも、じつはこのあたりからだ。
それまでは単なる暇つぶしでしかなかったが、どんなガラクタであってもミリィはひどく興味深そうにして目を輝かせるのだ。
孤独で参ってる彼女の気がいくらかでも晴れるならと……つまりそれが、いつしかゼンが生きるモチベーションになっていた。
そう、ゼンだって、ミリィに生かされてるのだ。
――そんなミリィとの出会いを思い出したゼンは、ミリィにひとつ提案する。
「ミリィ、旅に出ないか」
先日の研究所で、ミリィたち人魚は、もともと人間ベースで遺伝子改造された実験体だとわかった。
あの施設は大半が壊れて使い物にならなかったが……同様の技術を持った、まだ生きている他の施設も、世界のどこかにあるのではないか。
だとすれば……その場所を探し当てることが出来れば、ミリィの望み通り、自分たちは同じ身体を持って、同じ世界で生きることができるようになるんじゃないか。
その提案に、ミリィは歓喜する。
「群れを探すのと一石二鳥だね!」
まだ群れの全滅を知らないミリィは無邪気に笑う。
いつかは必ず、ゼンは彼女に残酷な現実を教えることになるだろう。
でも、それは今ではない気がする。
今はただ、彼女が笑っていられれば、それでいい。
●シリーズ化した場合のこの後の展開
基本的にのんびりした旅模様&いちゃラブをあくまでメインに展開しつつ、大まかに下記の段取りを踏んでいく。
※下記の展開はあくまで暫定版。修正可。
・情報収集しつつあちこちの新人類と交流。
・一向に生き残った遺跡は見つからないので、深海を目指すことに。
・深海で生き残った施設を調べると、そこは昔、人工衛星の監視制御を行った場所で、その施設が制御していた人工衛星のうちの一つが生物系の研究をしている事を知るゼンとミリィ。
・宇宙へ旅立つため、今度は使えるロケットが残っていないかと陸地を探検。
・打ち上げ施設は残っていたが、肝心のロケットもう存在しないことがわかる。
・今まで知り合ったいろんな仲間に助けられてロケットを自作、ゼンとミリィ、宇宙へ。
●詳細プロット
○1話
<1-1>
・いつものように海を潜るゼン。潜水し始めの瞬間からスタート。
・浅瀬の水中の風景の美しさを重点的に描写しつつ、水底をゆっくり歩くゼン。
・潜水服のゴーグルで区切られた視界の端に、何かの姿がよぎる。ミリィである。
・鈍重なゼンの動きをあざ笑うように、優雅に美しく泳ぐミリィ。
・思わず見とれるが、上の服をなにも身につけてないことを見とがめるゼン。
・「あの馬鹿……」とぼやくゼン。一方ミリィは、何かを見つけたようで、瓦礫の下の方を目を輝かせてしきりに指さしている。
・工具を取り出しなんとか瓦礫を持ち上げるゼン。
そうしてこじ開けた隙にミリィが手を突っ込む。するとあっさり瓦礫がどかされる。
※ミリィはゼンよりかなり力がある。
・瓦礫がどかされ、一瞬、巻き上げられた泥や砂で周囲の水が濁るが、それもすぐに晴れる。
その奥にあったのは、人ひとりがようやく入れる程度の小さな扉のようなものだった。
※旧世界のシェルターの扉。
<1-2>
・前シーンの直後。
「やったー! ひさしぶりのお宝だー!」とはしゃぎながら水面から飛び出すミリィ。
・少し遅れて、とりあえず手頃なものだけ抱えて水から上がったゼン、「おい、こら」と小石(軽石)をミリィにぶつけて窘める。
・「お前ミリィ、服はどうした」すっぽんぽんで胸が丸出しなのを叱るゼン。
しかしミリィはまったく気にした様子もなく「だあって。動きづらいんだもーん」としれっと言う。
・ため息をつくゼン。迷子の彼女を拾ってから1年ほど経つが、言葉を覚えてくれたりしても、これだけはまったく言うことを聞いてくれない。
もともと彼女は服を着る習慣がなかったようなので、服というものがどうにも苦手らしい。
・「あれー? もしかしてー? あたしのこと変に意識しちゃってるー? ほらほら見ちゃうー?」「うるせえばーか」とじゃれつくふたり。
・「育てかた間違ったか……?」とかそんなことを思いながら、ゼン、今日の戦利品を船上にあげていく。
ここで船<オリジアス号>の形状を説明。
船と言うよりは船外機をつけた小屋付きのイカダといった風情の形状。
みすぼらしい見た目だが、これこそがゼンと、そしてミリィの城なのである。
・目を輝かせながら「で。で? 今日はどんなお宝あったの?」とよってくるミリィ。
「うるさい近寄んな。まず服を着ろ」
「ちぇー。けちんぼ。ちぇー」
と言いつつゼンに投げつけられた服を着るミリィ。
・早速戦利品を検分するゼン。
その横でミリィは「ほー。へえー。なるほどー」と感心したようにゼンの様子を眺めている。(実際には何もわかっていない)
・実際ミリィが歓声を上げるようなものはなく、今日の戦利品は、ほとんどがどうしようもないくらいに劣化している。
・だが唯一、鞄のようなものの中に入っていた黒い箱だけは、原型をとどめていた。
・けれどそれが何なのかは、見ただけではまるでわからない。
※箱の形状など重点描写。レンズらしきものがあること。他にもケーブルを差し込む穴があったり。
・「なあにそれ」「わからん……少し調べてみる」
<1-3>
・半日後。
・ずっとほったらかしにされて、いい加減寂しくなって半分いじけてたミリィに、それまで自室に引っ込んであれこれ調べていたゼンが「この箱、何かわかったぞ」と声をかける。
・試行錯誤した結果、件の箱は、ポータブルプロジェクタであることが判明した。しかも中にはいくつかの映画のデータがまだちゃんと入っている。
・「さっそく見ようぜ」と誘うゼン。映画がどういうものかを知らないミリィはきょとんとするしかない。
・ちょうど夕方近くになっていたので暗さは十分。ゼンの寝床のシーツを引っ張り出してスクリーン代わりにして、静かな海の真ん中でふたりは映画を見始める。
・映画って何?と聞くミリィに、どんなものかを簡単に説明するが、いまいちピンとこないミリィ。
・流れたのは「ホームアローン」(ゼンのもともとの世代からすると、大昔の古典の映画。何度か見たことはある)
・音楽が流れてきて、まずそこでびっくりするミリィ。
・そこから先も、ミリィの知らないことばかりで「あれって何?」「いま、どういうことが起きてたわけ?」と聞くミリィ。
・そもそも話し言葉は知っていても、ミリィは文字を知らない。流れたのが字幕版なので「何言っているかわかんない!」とごねるミリィ。
・けれどゼンがそれにひとつひとつ答えていくうちに、ようやくどういう話なのかを理解していくミリィ。
・話の構造そのものはシンプルなので、次第に質問する頻度は減っていく。
・「じゃあ……ゼンって、もともとこんな世界に住んでたんだね」
「細かい風景とか、雰囲気は違うけどな」
「……そっか」
・ここで世界観とゼンの置かれた状況の説明。
かつては映画の中であるような世界に、確かにゼンも生きていた。
けれど突如として始まった戦争から逃れるように「お前だけでも生きろ」と両親にコールドスリープさせられて……気がつけば世界はまるっきり姿を変え、わずかな島を残して見渡す限り海ばかりが広がる世界になっていた。
ゼンと同じような姿をした人間とは、目が覚めてから一度も会っていない。
かわりにミリィのような、元の世界ではあり得なかったような人の姿をちらほらと見かけるばかりである。
自分が目覚めるまで、どれほどの長い年月が流れたのだろうとゼンは思う。
<1-4>
・やがて映画は終わる。
面白かったし大団円の内容だが……ゼンとはまた別の意味で、ミリィはどこかセンチメンタルな気分になっていたようだった。
・「いいな、この、男の子」ぼそりとミリィは呟く。
どうやら家族と離ればなれになった映画の主人公・ケヴィンと、自分を重ね合わせてみていたらしい。
映画の主人公は家族と無事に再会できていたが、ミリィは1年経ってもまだ家族と会えていない。
・「いつかは見つかるさ」と不器用に慰めるゼン。
「ん」と弱々しく笑うミリィ。
・映画も終えて、夜も更け、そろそろ寝る時間となった。
・けど初めての映画で必要以上に心を動かされたミリィは、いつもはひとりで寝ているくせに「今日は一緒に寝たい」と言い出す。
・なのでゼンはいつもの寝床ではなく、船の端っこにシーツを敷いて、そこでミリィと手をつなぎながら寝ることに。
・「ありがと、ゼン」といいながら眠りにつくミリィの、どこかほっとした表情でシーンエンド。
○2話
<2-1>
・1話から数日後。ゼンとミリィは久しぶりに拠点の島に帰還する。
・※ここでゼンたちの生活の説明。基本的に海での生活がほとんどだが、ずっと海上で生活をし続けるのは無理だ。
何をしなくても船は劣化するから、たまには陸に揚げてメンテをする必要はあるし、海上でとれる食物だけでは栄養バランスが偏ってしまう。
・なので船を桟橋につけて、ゼンは早速野菜を栽培していた自作の温室へと向かう。
ちなみにミリィも同行。車輪つき水槽に入ってついていく。(というかゼンに押されて同行)
※陸地にいてあれこれ作業をしている間、ミリィがやたら寂しがったことがあったので、この水槽もゼンが自作した。
・海上生活しているあいだはほったらかしにしていたので、温室の畑は荒れ放題。
けれどかろうじて食べられるものもあるので、それを探して収穫していく。
・「どうお?」と尋ねるミリィに、取れたてのトマトをひとつ与えるゼン。
・早速食べて「んー! んまー!」とはしゃぐミリィ。
トマトに舌鼓をうつ人魚。なんともシュールな絵面である。
・ゼンも食べてみるが、やはり世話が足りなかったのかいまいち。水っぽく香りも薄い。
「もう少し世話もできればもっと美味くできるんだけどな」と苦笑するゼン。
もっともそれは、無理な話だけれど。
<2-2>
・帰還二日目は、船のメンテ。
・クレーンで船体をあげて、劣化しているところを補修したりする。(ミリィも手伝う)
・そこに、かなり大きな船が近寄ってくる。
望遠鏡で探ってみると、船上では機械の身体を持つ人型のシルエットがあれこれ作業をして動いている。
船はどうやら機械人の集落のようだ。
・ゼンは船のメンテを途中でやめて、別のボートに使い物にならない遺物をしこたま積んで、その船に近寄っていく。慌ててゼンを追うミリィ。
・ボートを近づけると、機械人からも出迎えに来る。
「キミはもしかして、ゼンかな」
「ああ、そうだ」
「遺物を集めていると聞いたが」
「ああ、ここにめぼしいものを持ってきた」と言ってゼンはボートに積んだがらくたを見せる。
どうやら機械人の間でゼンの情報は出回っているらしい。
ならば細かい説明はいいだろうと言うことで、早速取引を始めるゼンと機械人。
・ボートに積んでいたガラクタを船上の集落の中にある部屋に運んで、一つ一つ検分してもらうゼン。
ガラクタの代わりにゼンが得るのは、最近の海域の情報、それに機械人たちが別の土地で入手した植物のタネや土など。
機械人たちは自分たちの身体を維持するために、ゼンが集めていたガラクタが必要。(中にレアメタルなどがあるため)
それを見越してゼンも、使い物にならないガラクタも捨てずに貯めているし、機械人は機械人で、ゼンや他の有機系人種が求めるものとして、土や植物のタネがあればそれをどこからか採取している。
この世界はこういった持ちつ持たれつで成り立っているのだ。
・ゼンの集めたガラクタの山に満足げな機械人、「他にもまだないかな」と尋ねてくる。
「島に戻ればたくさんある」とゼン。
では早速それも取りに行こうという話になるが、そこで別の機械人が現れ、「リーダーがゼンに会いたがっている」という話をよこしてくる。
・続きの取引は水槽に乗ってついてきたミリィに任せ、ゼンはリーダーに会うことに。
・案内された先で会ったのは、見た目は人間としか思えない、小柄な少女だった。
少女は自分のことを、「アズサ」と名乗る。
もちろんその少女は、見た目通りの存在ではない。
口調も見た目よりずいぶん落ち着いているし、何よりどうにも動作が人間くさくない。
それもそのはず、彼女は精巧に作られた少女型アンドロドイド(セクサロイド)だった。
・「アズサ」と名乗った機械人のリーダーは、ゼンを見るなり「噂では聞いていたけど、まさか人間が本当に生き残っているなんて!」と感激する。
・話が飲み込めないゼンに、アズサは事の次第を説明する。
実はアズサは、もともと人間で、人類が滅びた戦乱の際、死にたくなくて、より頑丈な機械の身体に意識を転写した存在だったらしい。
おかげで何とか生き延びることが出来たし、こうして機械人の集落を組織して今でも活動を続けているが、戦乱から長い年月が過ぎ去り、もう生きた人間に会うことはないだろうと諦めていたようだった。
「だから、ついに出会えたかと思って嬉しくなってしまったんだ。すまないね」
・訳を聞いてなるほどと納得するゼン。
・アズサ、ゼンに提案する。「もしキミさえ良ければ、我々の仲間にならないか」
<2-3>
・一方でミリィは、機械人をつれて島に置かれたガラクタを提供していた。
・「こんなものが欲しい」という機械人の要望に応え、テキパキとそれを用意したり、ゼンの居ないところでは案外しっかりしたところを見せるミリィ。
・ひととおり検分が終わり、一息ついて雑談モードになる機械人とミリィ。
「君たちはどうにも不思議な組み合わせだな。人間と人魚なんて」
「まーね。一緒に居るようになったのも、1年くらい前からだし」
ここでミリィの状況説明。
群れからはぐれ、保護してくれたのがゼンだった。
群れからはぐれた際の記憶も失っていたため、もう自分の群れがどこに居るかもまったく手がかりがない。
だからゼンは、遺物探しをしながら、ミリィの群れも探してくれているのだ。
・「……そうか。いいヤツなんだな」
「えへへ。そうなんだよね~」
自分のことのように嬉しそうに頷くミリィ。
それはまるで、恋人のことを褒められてのろけているようにも見えた。
<2-4>
・一方のゼン、アズサに言い寄られている。
「ねえどうかな? ここだと今より安全な生活が送れると思うんだ。キミみたいな遺物収集のエキスパートがいると、私たちとしても非常に助かる」
・ゼンはその誘いを「ありがたい話だけど」と断る。
・ゼンと機械人では身体のつくりが違う。ゼン一人が成果する環境を整えるような手間をかけさせるのは、さすがに申し訳ない。
・なにより一番の理由は、ミリィをひとりにしておけないからだ。
・機械人は機械人の理屈で世界を旅している。(土壌の採取などで一カ所の陸地近くで数ヶ月ずっとたりする)
・だから機械人と一緒に活動していると、ミリィの群れ探しで絶対に支障が出る。
・きっぱりその旨を伝えると、「そうか」とあっさりアズサは引き下がる。
・「じゃあ代わりに、これを持って行きなさい」と渡されたのは、超長距離でも使える通信機。
・「なにか困ったことがあるなら、出来る範囲で助けるから。遠慮なく言いなさい」
「そこまでしてもらわなくても……」
「キミが提供してくれた資源はそれだけの価値があるよ。それに……私個人としても、キミと出会えて、こうして話せて嬉しかったんだ。だからこれは、そのお礼だよ」
・そこまで言われたら、もう断れるわけがない。
・深く礼を言い、ゼンはアズサの元を後にする。
<2-5>
・取引が終わって、機械人質の船はゼンの島を離れていく。
・その様子を見送りながら、ミリィはゼンに「呼び出された後、なに話してたの?」と聞く。
・さすがにアズサに言ったそのままをミリィに言うのは恥ずかしい。
「別に」とぶっきらぼうに言うが、それで何を察したのか「えー、言ってよ言ってよ-。あたしとゼンの仲じゃんか~」とダルがらみしてくるミリィだった。
○3話
<3-1>
・機械人の船がゼンの島を後にした数日後、ゼンとミリィは再び海に繰り出していた。
・機械人との取引で、最近人魚の群れらしきものを見たという海域の情報を得たので、早速そこに向かうことにしたのだ。
・しかしどうにも、ミリィは情緒不安定な様子。
いつもより甘えん坊で、何かゼンにとちょっかいをかけてくる。(操船の邪魔をするように水をひっかけたりする)
何か寂しがっているときによくミリィはこんな行動を取る。
けれど何を思っての行動かわからず、ゼンは困惑するしかない。
・ほどなくして、件の海域に到着。
・支度をして、いつも通りに海の底を探索するゼン。
普段より深い海を探索することになり、少々いつもより苦戦するゼン。それをサポートするミリィ。
・やがて崖になっている場所に、大きな穴があるのを発見する。
・しかし今の装備だとこの奥の探索は出来ない。いったん船へ戻ることに。
・船に戻って装備の見直しをする。
用意するのは、先日の機械人との取引で得たスキューバセット。
使用回数が限られたものだが、出し惜しみはしていられない。
「あたしが先に偵察しようか?」というか、これは却下。ミリィひとりで危険な目には遭わせられない。
・スキューバを装備して、水中でも使えるライトも携行し、再び洞窟へ。
・かなり長い洞窟を抜けた先は、廃墟があった。
(水中も壊れた設備があれこれある。それを見て少しびびるミリィを励ましつつ奥へ)
<3-2>
・いろいろ調べた結果、ほとんどの設備は壊れていたが、いくつかの情報端末は無傷のものがあった。
・それを持ち出し、水辺で待っていたミリィの元に。
・船に持って帰る際に何かあっては台無しになる可能性があるので、その場で生き残ったデータが何かないかを確認することに。
※もし施設の一部だけでも生き残っていれば、ミリィたちに関する情報が残っている可能性もある。
・が、パスワードがかかっていて中身が確認できない。
悩んだ末、ゼンは先日アズサから渡された通信機を使うことに。
・通信機はすぐに通じて、アズサはすぐに快く応じてくれることになった。
・通信機を情報端末につなげてハッキングするアズサ。
・しばらく待って、ようやくパスワードを解いて中身を見ることが出来るようになる。
・幸いにして、情報端末で使われているOSはゼンも使った事があるものだった。
・慣れないフォルダ構成に苦戦しながらいろいろと調べてみると、そこでゼンは相当昔の記録を発見する。
・そこにあった情報は、あるおぞましい生体実験の記録だった。
この施設は、遺伝子に改造を施して、変動する環境に適応する新しい生物を生み出す実験施設だったようだ。
しかもそれだけではなく、ある生物を後天的に改造して別の生物に作り替えるようなことが出来ないかも研究していたようだった。
・そんなことが出来るのかと戦慄するゼンだが、しかし考えてみればアズサの「意識を機械に転写する」なんて事をしているわけで、それを考えれば無理はないのかもしれない。
そしてさらに、そうして行われた様々な実験の中に、ゼンは「人魚計画」というものが行われた記録を発見する。
<3-3>
・その計画は、もともとはもっと別の……人間が本格的に宇宙圏で生活する時代を見越しての前哨実験だったようだ。
・人間が宇宙圏で生活するには、本来人間が持ち合わせた身体では不都合が多すぎる。
宇宙線には耐えられるようになっていないし、それにそもそも人間の身体構造は、骨格・内臓の位置や機能に至るまで、重力がある環境を前提として構成されている。限定的な時間ならばともかく、何年もの間……あるいは一生宇宙圏で生きるようなことがあれば、どこかで絶対破綻が生まれることになるだろう。
・その解決策として考案されたのが、「人間の身体の方を根本から変えてしまう」というものだった。
・要するにこの「プロジェクト・マーメイド」はそのトライアルとして、人間を「人魚」に変えて、そこで何か不都合が起こらないかを試験するものだったらしい。
・つまりミリィたち人魚は、その実験によって生まれた存在だったと言うことだ。
・その事実に、ゼンとアズサは言葉を失う。
・状況がわからず「どういうこと?」と問いかけるミリィ。
簡単にかいつまんでゼンが概要を説明すると、なぜかうれしがるミリィ。
・「だってそれだったら、仲間と合流しても、ゼンがあたしたちと同じ身体になれば、離ればなれにならなくて済むって事じゃん!」
・意味がわからずあっけにとられるゼンだが、遅れてミリィの意図を察する。
・要するにミリィは、「もし群れと合流したら、ゼンと離ればなれになってしまう」と考えて、そのことでちょっとセンチメンタルになっていたらしい。
・どこまでも前向きなミリィに苦笑するゼン。
残念ながらこの施設はもうその機能がないが、そう気にかけてくれているのは、嬉しくないと言えばうそになる。
・ほっこりした気持ちになるゼンだが、アズサの「ゼン、ここを見てみなさい」という声に我に返る。
・アズサが示したデータは、何かを監視し、その行動の記録を取ったものだった。
・そのデータは最初の方は複数のデータを記録していたが、何かのタイミングでひとつを残してまったく記録が残らなくなっていた。
・ゼンの「なんだ、これ?」というつぶやきに、アズサが端末を遠隔操作してテキストファイルで文字を打ち込んでくる。
・アズサが言うには、実験体であるミリィたち人魚は、遺伝子操作で脳のあたりに発信器が生成されるようになっていて、どんな生理反応が起こっているかの情報をずっとこの施設に送信するようになっていたらしい。
そしてアズサが見せたデータは、その記録だと言うことだった。
・ゼン、すべてを察してアズサに文字を打ち込んで返信する「じゃあ、このひとつだけ残っている記録って、もしかしてミリィ? てことはミリィの仲間は……」
「おそらく、全滅したって事でしょうね」
・ゼンとアズサ、相談して情報端末を壊すことに。
今でもミリィはこの施設に監視されて、生理反応を逐一記録に取られていることになる。
そんなの、誰が見ていなくても、胸くそ悪い。
<3-4>
・結局それ以上の収穫はなく、ゼンとミリ委は施設を後にすることになった。
※施設には多くのガラクタがあるので、それらはアズサに回収してもらうことに。
・特に収穫はなくても、ミリィはさっきから上機嫌だ。 ゼンと離ればなれにならなくていいかもしれないと分かって、それがよほど嬉しかったらしい。
・苦笑するゼンに、アズサから通信が入る。
「ミリィに本当のことを伝えなくていいのか」と。
どうやらゼンだけでなくミリィのことも気にしてくれているようだ。
迷ったが、今はそれでいいと答えるゼン。
「すくなくても、今のミリィの気分に水を差すようなことはしたくないし」
「……そっか。後悔だけはしないようにね。メンタルケアが必要なら、私たちからも出来ることがあればするから」と気遣うアズサ。
・うれしがるミリィの横顔を見ながら、ゼンはアズサに礼を言うのだった。
○4話
<4-1>
・過去の回想。
・ミリィに出会う前、ゼンはただひたすらに孤独で無意味な日々に倦んでいた。
・その日の食料を確保し、無心で食べ、排泄をして、疲れたら眠る……ただそれだけの日々。
・最近始めた旧世界の遺物集めだって、ただ単に無聊を慰めるためにやっているだけで、特に何か使命感を帯びてのものではない。
※実際のシーンとしては、鬱々とした表情で遺物を海から引き上げ、うつろな目で保存食を食べて寝床に入るといった一連の行動を描写。
・そんな、ただ「死んでいないだけ」の日々。
・コールドスリープから目覚めたあと、ゼンは必死に家族と友人たちを探したが、父も母も妹も、友人たちも、誰一人見つからなかった。そんな世界で生き続ける意味など、どれほどあるのだろうか。
・いつか自分は、どこかで誰に知られることもなく野垂れ死ぬだろう。その瞬間を漫然と待つだけの、何もないうつろな日々をゼンは送っていたのだ。
・そんなある日、ゼンは島の浜辺に、傷だらけの人魚の少女(ミリィ)が打ち上がっているのを発見する。
・人魚を見たことは何度かあるが、間近に見るのは初めてだ。
・死んでいるかと思って恐る恐る近づいてみると、どうやら息はある様子。
・となれば、放っておくのも忍びない。
・島で採取していた薬草類を使い、少女を手当てする。
※使用するのは傷薬(オトギリソウ)、鎮痛(シャクヤク)など。このあたりの知識はコールドスリープから目覚めた施設の教育用端末で仕入れたもの。
※見た目が似ているからと言って人魚に同じ薬効が効くとは限らない。やらないよりはマシという賭けでの手当。
・さらに栄養失調にならないように、魚のすり身を与えたりして、ずっとつきっきりで世話をするゼン。
・手当の甲斐があったのか、数日後、少女は目を覚ましてくれた。
<4-2>
・少女が目を覚ましてさらに数週間。
放っておけば群れに帰るなりして居なくなるだろうと踏んでいたゼンだったが、少女は一向に姿を消すような気配を見せなかった。
・それはそれで構わないのだが、困ったのは少女と言葉が通じないことだ。
何か話しかけても不思議そうにきょとんとするだけで、これでは壁に向かって会話しているのと変わらない。
・それでもずっと無言でいるのもなんだか変な気がして、ゼンは少女の世話をするとき、常に何か話しかけつづけていた。
・そんな日々を送っているうち、ゼンは少女が、度々、何かの拍子にどこか寂しげな表情を見せていることに気付く。
・なぜこの島を離れないのかと不思議に思っていたが、「離れない」のではなく「離れられない」事情が何かあるのかも知れない。
・仲間はすでに居なくなっているか。あるいは仲間から追放されたか。
・自分と同じひとりぼっちなのではないかと考えると、どうにも放っておけない気分にもなる。
・何か慰めになるものはないかとガラクタの山をひっくり返すゼン。
とはいえそのほとんどは壊れて何の役にも立たない。
ひとしきり探してみて、まともに原型が残っているのは、手回し式の小さなオルゴールくらいのものだった。
・こんなもので少女が喜ぶだろうかと情けなくなるゼンだったが、何も試さないよりはマシだと、半ば諦め気味の気分で、少女の前でオルゴールを鳴らしてみる。
・少女はいきなり謎の音が鳴ってびっくりしたようだが、やがてその音色が気に入ったようで、目を輝かせて聞き入るようになっていた。
・そして……そのとき、ミリィは初めて、ゼンと同じ言葉をしゃべったのだ。
・「ありがとう」と。
・どうやら見た目より賢い彼女は、ゼンの言葉をいつも聞いて、いつの間にかある程度の意味を把握していたらしい。
・思えば、それまでは単なる無聊の慰めに過ぎなかった遺物集めに、ゼンが精を出すようになったのも、それからだ。
・孤独で参ってる彼女の気がいくらかでも晴れるならと……つまりそれが、いつしかゼンが生きるモチベーションになっていた。
・そう。ゼンだって、この名も知らぬ少女に助けられ、生かされていたのだ。
<4-3>
・視点は現代に戻る。
・再びゼンたちは拠点の島に戻り、羽を伸ばしていた。
・捕った魚を干して保存食にする作業をふたりでしながら、今までのことを振り返るゼン。
※ミリィが魚をさばく。塩水に漬けて、それをゼンが干す。
・彼女がまともに言葉を喋ることが出来るようになったのが半年前。名前だって、そのあたりでようやく知った程度の関係でしかない。
・それでもミリィは今や、完全にゼンの生活の一部になっていた。
・何だかんだで、ゼンも、さびしかったのだろう。
・「……ミリィ、旅に出ないか」
だからゼンは、そうミリィにそう提案するのだ。
・「へ?」といきなりの提案に不思議そうに首をかしげるミリィに、自分の考えを説明する。
・先日の研究所で、ミリィたち人魚は、もともと人間ベースで遺伝子改造された実験体だとわかった。
・あの施設は大半が壊れて使い物にならなかったが……同様の技術を持った、まだ生きている他の施設も、世界のどこかにあるはずだ。
・だとすれば……その場所を探し当てることが出来れば、ミリィの望み通り、自分たちは同じ身体を持って、同じ世界で生きることができるようになるはず。
・その提案に、ミリィは歓喜する。
「うん! やるやる!」
・まだ群れの全滅を知らないミリィは無邪気に笑う。
<4-4>
・その数日後、諸々の準備を済ませて、島を旅立つふたり。
・「ひゃっほーう!」と上機嫌で船と併走するミリィ。
・いつかは必ず、ゼンは彼女に残酷な現実を教えることになるだろう。
・でも、それは今ではない気がする。
・今はただ、彼女が笑っていられれば、それでいい。
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