あの夏の夜
「 」
8/27 p.m.11:23
高速バスを待っている間、もう二度と会うことはないんだって、手を握りしめながらずっと考えていた。何も話せないまま時間が刻々と過ぎていき、バスは到着した。人が乗り込んで乗車する最後の一人になっても、ギリギリまでそのまま二人で座っていた。
『三十分発のバスに乗車するお客様〜。』
運転手さんが呼びかけている。時間は二十七分、もう行かなければならなかった。
『もう行くよ。じゃあね。』
と言って、強く抱きしめる君。
帰り際に私を抱き寄せたことなんてただの一度もなかった。その行為一つでもう二度と会えないことを理解するのには十分で。
帰って欲しくない、まだ一緒にいたい、次々思い浮かぶ言葉を全て呑み込む代わりに、涙は絶えず溢れて止まらなかった。最後は笑顔でって思っていたのに。
バスが発車する、カーテンから顔を覗かせている彼に向かって、涙を流しながらも私は無理やり笑顔を作った。走り出したバスは赤信号で動きを止めた。それを見た途端、私はそこまで駆け出していた。
「こっちを見て」とLINEを送る。
バスの中から顔を出した彼に向かって、とびきりの笑顔で大きく手を振った。青信号になり、バスは行ってしまった。ぽつんと残された私からは大粒の涙がとめどなく溢れていた。蒸し暑い夏の夜だった。
あの夏の夜 「 」 @hongmao25
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