君と育てる魔法少女〈白銀の章〉~深淵に囚われし少女たち~

神霊刃シン

4年生編(本編)

序 章

第1話 【登校】今年もまた雪が降る


 季節は冬をむかえていた。


「ねぇ、見て見て! 凍ってる♪」


 灰色の寒空の下、朝の通学路で無邪気にはしゃいでいるのは、幼馴染の雪城ゆきしろ白愛はくあ――小学四年生――だ。


 名前こそ日本人だが、その綺麗な銀髪と青い瞳は、明らかに日本人の特徴とは異なる。しかし、彼女の両親はれっきとした日本人だ。


 彼女だけが家族と違っていた。

 路面に張られた氷を足でみつけ、割っている姿は年相応かもしれない。


 けれど、北国の寒さと、その容姿も相俟あいまって、俺には『雪の妖精』を連想させた。


「どうしたの?」


 不思議そうにこちらを見詰め、首をかしげる白愛に、


「パンツ……見えているぞ」


 と俺は告げる。遅れて――キャッ!――と短い悲鳴が上がる。

 彼女は慌てて、スカートをおさえた。


「今更、慌てても遅い……」


 まったく――毎年、この遣り取りをしているような気がする。

 つぶやくように言った俺に対し、


彼方かなたのエッチ……」


 白愛は頬を染め――べーっ!――と短い舌を出す。

 俺はポーカーフェイスをよそおい、


「はいはい……」


 それにしても、朝から元気だな――と言葉を返す。

 彼女のパンツなど、しょっちゅう見ている。


 平然とした態度を取りつくろうのは簡単なことだ。

 白愛自身も口にするほど、気にしてはいないのだろう。その証拠に、


「そりゃ、今日が発売日だからね☆」


 ケロッとした態度で、彼女は笑顔を浮かべる。

 ちなみに白愛が言っているのは、今日発売予定のトレーディングカードゲーム――〈マジカル・ジェネレーション〉こと――〈マジジェネ〉のことだ。


 魔法少女育成型カードゲームで、スマホアプリやアーケードゲーム、オンラインゲームとも連動している。


 クリスマスも近いことから、メーカーも気合が入っているのだろう。

 大晦日おおみそかには、地上波でアニメ特番が組まれているらしい。


(まぁ、地方に住む者にとっては、あまり関係の無い話だ……)


 そもそもTCG自体、発売日に入荷するかもあやしい。

 〈マジジェネ〉には、白愛がお気に入りのイラストレーターが多数参加しているらしく、以前からチェックしていた。


 白愛自身もこっそりと絵は描いているのだが――まぁ、その感想については――えてノーコメントとしておこう。それが優しさではないだろうか?


 彼女は俺の真横に並び、身体を『くの字』に曲げると、


「彼方は元気ないね?」


 器用に歩きながら、俺の顔をのぞき込んでくる。

 そんな幼馴染に対し、


「あの人が今、家に来ているんだ……」


 俺は短く答える。表情に出ていたのだろうか? 白愛は、


澪姉みおねえか……」


 小声でつぶやき『あははは……』と気の毒そうに笑った。

 澪姉というは俺の従姉いとこで高校生だ。


 なぜか制服姿は見たことがない。

 人前でもおくすることなく、自分のことを〈超絶美少女〉と豪語できる。


 まぁ、トラブルメーカーと伝えた方が分かり易いだろう。


「あっ! 彼方、見て――雪……」


 白愛に言われ、灰色の空を見上げると、チラチラと白いモノが舞っていた。

 落ちてきた、それをすくうように、彼女は両手を前に差し出す。


 まるで大切な宝物を受け止めるかのような仕草だ。

 一方、俺はというと、


(昼休みは校庭グラウンドが使えないから、体育館が混むな……)

(夕飯の買い出しが面倒だから、帰りまでには止んで欲しいな……)

(白愛が風邪かぜを引かないように、注意してやらないとな……)


 などと子供特有の無邪気さよりも、現実的なことを考えてしまう。

 瞳をキラキラと輝かせる『幼馴染の少女』を後目に、


(また、本格的な冬が始まったのか……)


 と俺――『黒鉄くろがね彼方かなた』――は白い溜息をいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る