第63話 ゴブリン博士の憂鬱


 つまらない。それがこの世界のルールを創った私の感想だった。


「クックック、お見事でございます。敬愛する主様」


 主として呼び寄せた人間に頭を下げる。


「……お前の切り札の巨人は死んだぞ。何で俺を裏切った?」

「先ほども申し上げました通りでございます。獣王というゴミが最後の強敵では荷が勝ちすぎた。ゆえにこの私が代わりをなしたまで」

「お前が獣王の代わりの強敵になった理由を聞いている。それとお前が何者かも全部答えろ」


 彼を呼んだ理由、当初は世界に対するカンフル剤くらいの認識だった。


 他の世界を真似て生き物を創造して世界に放つ時、生き残れるようにと魔法を与えた。作物を簡単に育てられて、かつ転移で逃げられるようにと。


 結果として生まれたのがブーモだ。作物の栽培と家の知識だけ与えておいたのだが、彼らはすでに完成した生命体だった。


 そう完成し過ぎたのだ。何の苦労もなく世界を生き抜けて、争う必要もなく平和に生きる者たち。彼らは十万年の間、ほぼ同じ生活をしていた。


「クックック、私はこの世界の埒外の者。肉王様の言葉を借りるならば神に近い存在かと」

「神ねぇ……巨人をいきなり召喚した力は確かに凄まじいが」

「それだけではありません。ブーモも魔王のシステムも私が考案して実装しました」


 私は気づいたのだ。ブーモが永遠に同じ暮らしを繰り返す……発展性を放棄した生き物だと。なので外敵を用意することにした。


 魔王だ。いきなり何の脈絡もなく魔王をひとり出現させて、ブーモを支配させることにした。そうすればブーモは魔王に対抗するために争う……わけではなかった。


 魔王とブーモは仲良く共生してしまった。ブーモは余裕のある収穫物の一部を魔王に分け与えて、魔王はお山の大将として偉ぶる。結局争いは起きずにブモブモと発展のない平和が続いてしまった。


「魔王のシステムの実装とは?」

「魔物を召喚して、作物をEPに変換させる仕組みそのものでございます。それで魔王たちを争わせたのです」


 ならば魔王を更に増やして争わせようと考えた。だが同じ轍は踏まない、ちゃんと戦うようにEPシステムをくみ上げた。互いに土地と作物を重視して、より多くのブーモを支配するために頑張るようにと。


 更に本拠という魔王の弱点を追加して命の危険を与えた。ここまでしてようやく魔王たちは争い始めたのだ。だが……期待したほどの発展はなかった。


 魔王たちはブーモをただ支配するだけで、技術を向上させたり作物を無理やり奪い取ることはなかった。それに魔王たちも普通に力と魔法で戦うだけだ。異世界の人間のように武器を用意したり、罠をしかけたりなんてしない。


 これではこの世界の生命に発展はない。


「じゃあ聞くが。俺を召喚したのはお前なのか?」

「左様でございます。この世界の停滞のカンフル剤、他の魔王に対する刺激のために貴方を呼んだのです。人間の知恵を広めるために」


 伸びない者を伸ばすにはどうすればよいか。それは強敵を用意することだ。


 敵がいるからそれに対抗するために進化して、より強くなろうとする。それは敵が強大であればあるほど、その伸びは大きくなる傾向になる。


 そして私の望みはこの世界の生命たちが、人間の知恵を得ることだ。ならばいっそ人間を召喚して、魔王たちに対する脅威として示せばよい。ただ私はこの世界に人間が跋扈して欲しいわけではない。これは最終手段だった。


「……ふーん。じゃあ何でお前は俺の配下になっていたんだ」

「クックック、最初はただの好奇心でした。私は貴方が岩国と悪魔国の同盟軍に負けると思っていたのですよ。その時にちゃんと二人の魔王は、人間の技術を学ぶかというね。まあ結果は見事に予想外でしたが」

「期待に沿えなくて悪かったな」

「いえいえ、おかげで素晴らしいものが見れました。戦力の乏しい小国が、工夫などで大国を潰す快感を。これがジャイアントキリングかとね!」


 思わず声を張り上げてしまった。どうやら私はまだ興奮している様子。


 仕方ない、あの巨人をあんな倒し方をするとは思わなかった。確かにEP貨幣で一度手に入れたものを召喚できるルールにしたが、巨人の体内にEP貨幣を投げ入れて先日建てた砦に変換するとは!


「私の当初のシナリオ、それは人間の知識を得た悪魔王と岩王。彼らが強敵である魚国と獣国と争って、切磋琢磨させていく想定でした。ですが岩王が死んだ時点でなくなった。その後に私は貴方のファンになってしまった」

「ファンて」

「判官びいきというやつです。そして貴方は私の期待に応えて魚王も撃破し、恐るべき強敵となった悪魔王を倒した! ついでにゴミもまあ倒しました」


 思わず拍手をしてしまう。獣王こそひどかったが魚王はちゃんと強敵だった。ミアを引き抜こうとしたところは、思わずどうなるかと期待してしまった。


 だが彼女は肉国に残った上に進化までしたのだ。あのタコの魔物を彼女が矢で射抜いた時、なんと痛快だったか。あそこで気づいたのだ、私は肉国を応援していると。


「お見事でした。ええ本当にお見事でした。私は貴方を召喚してよかったと心から思います。そしてこの首、差し上げましょう」


 私は頭を下げて首を差し出した。流石にもうゴブリン博士として臣下に残ることは不可能だ。


 だが優しい肉王なら殺さないという選択肢をとりかねない。ここはスパッと処断しやすい事実を述べよう。


「なにお気にせず、この身体は私がこの世界に現れるための偶像。貴方に分かりやすく言うならアバターに過ぎませぬ。さあ罪人を処断して幕をお閉じください!」



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次話で最終回です! 明日投稿します!

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