第6話 ペーパーテスト④
午前9時、教室内の空気は緊張に包まれているかに思えたが、思ったよりも緊張していなかった。
ほとんどの生徒は問題なさそうな表情を見せて、リラックスしている。
「緊張はしているのかしら?」
「ああ、緊張して夜しか眠れなかったよ」
「ふん、それは何よりね」
北条さんもリラックしているようだ。
これならペーパーテストに問題はない。
あるとすれば、一部の男子生徒と女子生徒だ。
杏奈が言うには女子は問題ないと聞いているけど、男子生徒に関しては全く知らせれていない。
「今回のテスト、退学者が出ると思うか?」
「……そうね。8割出るでしょうね」
「どうして、そう思ったんだ?」
「今回の勉強会で間違いなく、退学者候補は減ったわ。それは私が見ても実感できた。でもそれはあくまで女子生徒の話、男性とに関してはそもそも、勉強する意欲が
感じされなかった。ここまで言えば馬鹿な赤木くんでもわかるでしょ?」
北条さんの言いたいことはよく伝わった。
俺は教える側ではなかったが、彼女は教える側だった。
教える側と教えられる側では見える光景は全く違う。
北条さんは今回の勉強会でCクラス全体の学力を大雑把にだが把握できたはず。
その全体的な学力の上がり幅の結論から、「8割出る」という答えが出たのだ。
「確かに、北条さんの言いたいことはよくわかるよ。でも、目の前にある結果だけが答えであるとは限らないぞ」
「どういうこと?」
「それは…」
俺の言葉を遮るように教室の扉が開くと、ほぼ同時に朝礼の鐘が鳴った。
「よし、みな!!席につけ」
菊池先生が教室に入ると、すぐにペーパーテストの最終確認が行われた。
「今日行われるペーパーテストでは5時間行われ、計5科目を実施する。50分の回答時間が設けられ、10分の休憩、お昼休憩は30分だ。何か質問はあるか?」
特に手を挙げる生徒はいなかった。
「よし、質問はないな。では、早速テストの準備をしろ」
そしてペーパーテストが始まった。
1時間目は国語、2限目は数学、3限目は理科、4限目は英語、5限目は社会とこの順番で実施される。
難なくとペーパーテストをこなしていき、気づけばお昼休憩を迎えていた。
周りの生徒は余裕そうな者もいれば、落ち込んでいる者いた。
「どうだった?ペーパーテストは?」
「全く難しくなかったわ。正直言って、100点の自信しかないわ」
「おお、さすが…」
「赤木くんはどうなの?」
「まぁ、半分以上は取れたかな」
「そう、なら残り一科目も大丈夫ね」
「そうだな」
問題は一號だ。
一號に目線を向ける、一見余裕そうな表情だが、足の股の開き方に表情の硬さ、おそらく、手応えはなかっただろう。
一番、退学者になるかもしれない、Cクラスの生徒候補。
「そんなに一號くんが気になるの?」
「あ、ああ…」
「諦めなさい。彼は退学するわ」
「そんな、不幸なこと教室内で言うなよ」
「赤木くんしか、近くにいないから言っているのだけど…」
不敵な笑み、昨日のお返しを受けているらしい。
だが、今更考えてもしょうがない。
あとはもう結果を待つしかない。
「それでも、そんな不謹慎な言葉は控えるんだな」
その後、俺は一人でお昼ご飯を食べた。
そして5時間目の社会も無事に終わった。
「ペーパーテストの結果は明日の朝に発表される。覚えておけ「」
その菊池先生の一言で学校での1日が終わった。
「終わったぜぇ〜〜!!」
「おい、蓮也!!うるさいぞ!!」
「うっせぇ!!俺は部活だ、じゃあな!!」
そのまま飛び出して、教室から出ていった。
「くだらないわ。いくらスポーツとして才能があっても最低限の学力は身につけておくべき。それなのに部活に明け暮れるなんて…」
「まぁまぁ、何かに打ち込めるのはいいこと。実際に一號くんはそれでスポーツでの結果を出しているわけだし…」
「そうね。でもそれが許されるのはこの学校以外での話よ。この学校は才能だけじゃ、生き残れない」
この天竺高等学校は天才が集まる。
それは言い換えるなら、特別才能を持つものが集められた学校ということだ。
だが、世の中、才能だけでは生きていけない。
才能は才能のまま、それはより昇華させ、より強い武器にしなくてはいけない。
だが、そもそも才能を昇華させるにはどうしたらいいのか。
努力という言葉が一番最初に浮かぶ言葉だろうが、それは違う。
努力をするにはそれを行うための基盤が必要だ。
いくら努力しようとそれが間違っていたり、無理をするのはただの愚かな行為にしかならない。
だからこそ、自分自身の基盤が必要なのだ。
基礎的技術、教わるための言語理解能力、聞く力など、基盤がなければ意味がないのだ。
そしてその基盤に学力も当てはまる。
何事も基礎的な学力がなければ、実際に教える力も教わる力も身に付かない。
「そうかもな。でもまだ一年生、しかもまだ始まって数ヶ月でそれを求めるのはまた違うと思わない?」
「それはただの甘えよ。人は自信の問題を先送りする、先送りにするくらいなら、現実を最初っから突きつけた方が相手のためよ」
「……そうか」
北条さんの今の考えはよくわかった。
でも、その考えじゃあ、この先上を目指すことはできない。
だから、一度見せつける必要がある。
この危機的状況、もう手遅れだと思われるこの状況を逆転する瞬間を……。
「私は間違ったことを言ったからしら?」
「いや、北条さんの言うことは正しいよ。だから明日の結果をしっかり見届けないとな」
帰り途中、寮への帰り道で二人生徒を見かける。
「今回のペーパーテスト、間違いなく…」
「そうだね。でも私たちには関係ないよ。だからちゃんとみんなを信じてあげて…」
「もちろん、私は信じています。しかし、我々はまだ出会って1ヶ月程度しか経っていません。さすが信じすぎではないかと言っているのです!!」
「大丈夫、みんな私に心酔しているから」
「はぁ〜一体、どこからそんな自信が出るのですか…」
「さぁ?」
どうやら、ペーパーテストについて話し合っているようだ。
そしてその話からあの二人はA組かB組と言うことになる。
状況と言葉の遣いを考えるとあの女子がリーダーを担っているのか?いやそれとも…。
「さて、私たちもそろそろ戻ろ。ここならA組かC組の生徒で会えると思ったんだけど…」
「我々の調査ではC組はカラオケにいると言う情報が届いています」
「そう、ちょっと更新が遅いんじゃない?」
「仕方がないですよ。校舎が遠いですから」
「そうだね。でもそれは今日まで…。じゃあ、帰ろか」
「はい…」
そのまま二人とも遠ざかっていった。
俺は二人が完全にいなくなったの確認しながら、物陰から出る。
「ついに、動き始めたか」
あれが1年B組の生徒。
何しに来たかは最後まで聞き取れなかったから、わからなかったけど、これはかなり重要な情報だ。
「てか、俺を差し置いて、カラオケだと…許せん」
どうやら、Cクラスは今、カラオケにいるらしい。
なんと羨ましい。
俺も誘って欲しかったよ。
「はぁ〜ついてないな…」
翌朝、いつも通り、登校する。
教室に入ると、雰囲気は昨日とはあまり変わらない。
「おはよう。北条さん」
「ええ…」
そして菊池先生が来ると、少しだけ教室中の空気がピリついた。
「みんな、揃っているな。よし、では今回のペーパーテストの結果を発表する」
すると菊池先生はリモコンを持ち、ボタンを押すと映像がホワイトボードに映し出される。
その画面にはCクラスのペーパーテストの点数、そしてクラス順位が映っていた。
「北条さんは1位か…」
「当たり前ね」
「杏奈が3位、学が2位か」
さすがと言うべき学力だ。
で、問題は50点以下の生徒だけど……。
「今回、急遽実施されたペーパーテストの結果だが、かなり上下が激しいことが確認できた。90点以上を取れるものから60点以下の者、たかが1ヶ月まで授業の内容でこの点数とは正直言ってがっかりした」
辛辣な一言に教室の空気は最悪のものとなった。
「だが、今回のペーパーテストで50点以下を下回ったものはいなかったことは褒めてやろう。よくやった。だが一號蓮也!!」
「はぁ?」
「お前は50点、ギリギリだ。もう少し勉強の精進するように」
「は〜い」
適当に返事をする一號。
そんな態度を気にせず、菊池先生は語る。
「今回のペーパーテストでお前たちの学力が把握できたはずだ。この学校は天才たちが集う場所…つまりお前たちは自身の才能が認められて、ここにいる、だが才能だけが世の中の全てではないことだけは覚えておけ。でないとこの先、この学校では生き残っていけないぞ。この言葉、よく覚えておけ。話は以上だ」
こうして無事ペーパーテストが終わった。
無事にCクラスは乗り越えたのだ。
「さてと…」
「ちょっと待ちなさい。赤木くん…」
何やら言いたいことがあるような目つき。
「これはどういうことかしら?」
「どういうことって?」
「ペーパーテストのルールについてよ。今回、退学者が出るルールが提示されなかった。つまり、このルールそのものが存在していたこと自体が怪しく見える。これについての弁明はあるかしら?」
なるほど、ちょうどいい。
「ああ、なら答え合わせでもしようか?」
「…どういうこと?」
「ちょうど、菊池先生に呼び出されてるんだよ」
「菊池先生に?」
「ふん。もしかしたら面白いものが見えるかもよ」
俺は菊池先生に呼び出された学校の屋上へ向かった。
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