第1話 個人成績とクラス成績について
菊池先生の口が再び開く。
どうやら、ここからが本題らしい。
「まず、個人成績だが、手元にあるスマホから学生証を見てほしい。その中から、成績一覧があるだろう?それが今の君たちの個人成績だ。最初に記載されている成績は最初に受けてもらったテストが反映されている。この成績は6月と7月にある試練で更新されるのでよく、覚えておくように。次にクラス成績だが…これは君たちの高校3年間に大きく関わる重要な情報だ。しっかりと聞いておけ…」
個人成績については理解できた。
なぜ、こんなことをするのかはわからないが、何かしらの意図があるのか、それとも、この情報そのものがワナである可能性。
まぁ、そんなわけないか。
ここは天竺高等学校、あの名門校だ。
そんなことをするとは思えない…けど。
周囲を見渡すが、一部の生徒以外、表情をほとんど変えず、聞いている。
やっぱり、おかしい。
「クラス成績がある意図、それはクラス同士で競い合ってほしいからだ。君たちはこの高校3年間、自身の才能を伸ばし、クラスに貢献し、競い合ってもらう」
「すいません。また質問してもいいですか?」
「いいだろう、五十嵐学…」
「どのようにクラス成績を決めるのでしょうか?」
「ふん。いい質問だが、逆に愚かな質問だとも言える」
菊池先生の返答に学は首を傾げる。
そして、菊池先生はニヤリと笑いながら、口を開いた。
「ここは天竺高等学校、より厳しい厳選の末に選ばれたものだけが入学できる。そしてその厳選に末に選ばれたお前達は、この学校が、日本が、世界が期待している。では、そうだな、世界で物事を捉えるなら、世界は一体君たちに何を期待しているのか……五十嵐学、君にわかるか?」
少し下にうつむき、考え込む。
ほんの数秒の考える時間、すぐに学は返答した。
「チームで行動できる、チームワークでしょうか?今の時代、一人では何もやっていけませんし……」
「その答えを私は知らない。だから、さっきの私の質問に答えなどない」
「え!?」
「ただ、一つだけ言えるのは、考えることができない人間はいらない。常に考え、合理的に……。ただ人に聞くだけでは自分のためにはならないということだ。五十嵐学、君は私に2回質問した。実に優秀だ。だが、質問する内容はきちんと考えた方がいい……あとは言わなくてもわかるな?」
「……はい」
学は静かに椅子に座った。
だが、菊池先生の言うことには一理あると思った。
菊池先生が言いたいこと、それは情報収集能力のことだ。
質問する理由は相手からより多くの情報を手に入れるために行う一つの手段。
問題は何を質問するかだ。
例えば、みんなで遠足することになったとする。
そこである程度の情報が提示されるはずだ。
そこで「どこに行くんですか?」と質問した。
けど、その質問に一体なんの意味がある?だって遠足に行くと言っているのに、行く場所の情報が提示されないなんてあり得ない。
なのに、わざわざ質問する必要があるのだろうか?
これは意味のない質問、提示されると予想できるのに、質問するのは時間の無駄。
ここでやるべきなのは、提示された情報から何が足りないのか、何を疑問に思ったのか、それを質問する。
そうすれば、その質問に意味が生まれる。
そう言う考えであれば、五十嵐学の質問は実に愚かだと言える。
「では、クラス成績についてだが、最初のクラス成績に上限はない。つまり、成績は高ければ高いほどいいというわけだ。そして最初に君たちのクラス成績点数は100点からがスタートだ。Bクラスは150点、Aクラスは200点からのスタート。つまり、現状、君たちのクラスが一番下ということだな」
その言葉にクラスが静かに小言を呟きながら騒ぎ出す。
なるほど、つまりこのクラス分けは言うなれば、上下関係。
すでにAクラスとCクラスとの間には100点の差がある。
これを埋めるのは容易ではないはずだ。
「先生一つ、質問してもいいでしょうか」
俺の隣の席の女の子がゆっくりと手を上げる。
この場でおそらく、一番冷静に話を聞いていた人物。
一体、何を質問するんだ…。
「なんだ、
「そのクラス成績の点数配分を聞く限り、このクラス分けは成績の正当な評価により決められた、という認識でよろしいでしょうか?」
「ふん…そうだ。一律に全員が成績だけでクラスを分けているわけではない、ということだけは言っておこう」
「そうですか。……ありがとうございます」
そう言って、北条さんは顔を俯き、考え込む素振りをする。
何やら、ぶつぶつと小言を口ずさみ始める。
不思議な子だな。
「お前達!!静かにしろ!!」
ざわめいていた生徒達が一斉に菊池先生の方を見る。
だが、この状況は予想できた出来事だ。
もしかしたら、菊池先生は……わざとこの状況を生み出しているのかもしれない。
まぁ、ただの考えすぎなのかもしれないけど。
「貴様達の動揺をよくわかる。だが、話は最後まで聞け。いいか、確かにお前達は現在、下の下、最底辺の集まりと言ってもいい。いくらお前達に素晴らしい才能があろうと、この学校では勝手が違う。だが、それを挽回できるのが、6月と7月にある試練だ。ここでお前達が成績を残せば、クラス成績は加算され、より上を目指すことができる。今は最底辺でも1年後には学年でトップに君臨しているかもしれない。いいか、確かに現状は不利でもただ現状を受け止めるだけではなく、その先の未来を見ろ!!そして、今の自分が何すべきなのかを考えろ!!人間は考えることをやめれば、死んでいるのと変わらない。それはお前達、才能がある者でもだ!!」
菊池先生の熱い励ましと明るい未来を見せる演説。
この言葉に少なからず、希望を持った生徒がいるだろう。
実に恐ろしい先生だと思った。
「私からの天竺高等学校の仕組みについては以上だ。もし忘れたり、わからなくなったら、生徒手帳から確認するように。以上で今日の授業は終わりとする。明日からは通常授業だ。決して遅刻しないように……」
菊池先生は堂々と教室から出て行った。
え、もう自由時間!?
ということは、ここから始まるのか、俺の華々しい高校生活が!?
たくさん友達作って、一緒にゲームして、プールに行くのもいいな〜〜いやバーベキューも捨てがたい。
そしてしばらく、妄想していると、気づけば、夕刻がおとずれていた。
「はぁっ!?しまった!!自分の世界に入り込むすぎた……」
友達作りの失敗は許されない。
もし、失敗すれば、俺の高校生活は終わりを迎える。
「なんとしても、明日はしっかりとコミュニケーションを取らないと…」
「うるさい」
少し怒りがこもっていながらも、透き通った声が隣から聞こえた。
ふと隣を見ると、北条さんが本を持っていた。
「え…」
「うるさいと言っているの…あなた、もしかして日本語がわからないの?」
「いや、流石に日本語はわかるよ…ってなんでいるの!?」
「居て悪いの?ここは私の席、いつ座り、いつ退席するも私の自由でしょ?」
「そ、それはごもっともです」
まさか、隣に北条さんがいるなんて、思わないでしょ。
てか、さっきの小言、聞かれてたのか…恥ずかしい……。
いや、待て…これは友達になれるチャンスじゃないか?
うん、そうだ!!これをまたとないチャンス。
「北条さん……」
「キモい」
「なっ!?」
もしかして、この子、相当毒舌?
で、でもそれはまだ距離が遠いからという可能性も……。
「はぁ〜」
隣の子は、ため息を
「じゃあ、私は帰るから。もうあなたと話すこともないでしょう。さようなら」
「ちょっ…」
「………」
そのまま北条さんは教室を出た。
「なんだ…はぁ〜。人と話すのって難しいんだな」
結局、俺もそのまま帰ることにした。
ー生徒会室ー
大きく広い一室にポツリと一つ大きな机に椅子があり、そこには生徒会長と書紀が対面で話し合っていた。
「なんのトラブルもなく、学校のシステムの説明が終わりました。西条会長」
「二人っきりの時くらい、名前呼びでもいいんだぞ。
「そ、そんな…西条会長は西条会長なので…」
「そうか、まぁいい。で、去年から採用された一般特別枠で合格した3名の動きはどうなっている?」
「はい、特に目立った行動は見られていません。ただ、すでにAクラスとBクラスではリーダーとして才覚を発揮し、統制をとり始めているそうです」
「行動が早いな、Cクラスは?」
「説明が終わった後、すぐにバラバラに散って行ったそうです」
「やはり、CクラスはCクラスか…このままだと例年通り、最初の退学者はCクラスから出そうだな」
「その可能性が高いかと…」
「一般枠合格したCクラスの生徒はまだ動いていなのだな?」
「あ、はい報告書にはそう書いてあります」
「少々くさいな…」
「く、くさい!?」
茜はなぜか、自身の制服の匂いを嗅ぎ始める。
だが、そんな動きに目もくれず、西条会長は考え込む。
「そうだな。少し揺さぶりでもかけてみるか…」
「西条会長?」
「茜…すぐに手配してほしいものがある…」
西条斎は不敵な笑みを浮かべた。
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『公開情報』
・クラス成績
Aクラス 200点
Bクラス 150点
Cクラス 100点
・クラス分けはほぼ成績で決まっているが、全員が成績だけで決まっているわけではない。
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