故意に恋してしまったら。
たんたん
第1話 少年A
昨夜、うちの学校の理科室で放火事件があったらしい。
それもただの放火だけでなく、化学の河田先生が焼死した。これは立派な殺人事件である。
そんな放火殺人事件の犯人は、2つ下の学年の"少年A"だった。
「河田先生の件、まさか後輩の子が犯人だったなんてね。碧、知ってる子?」
隣で悲しげな表情を見せながら問いかける彼は、私の同中で同クラである櫻井 優人。と言っても、存在を知ったのは高校に入ってからで、まともに話をしたのも2年のクラス替え後だった。
「まだ実名も出されてないのにわかんないっつーの」
「そっかそっか(笑)。もし知ってたら、碧が共犯者みたいになっちゃうね」
「縁起でもないこと言うんじゃねえー」
「ごめんって(笑)。河田先生の授業当たったことないけど、割と評判いい先生だったみたいだよ」
「へえー」
「あ、今日も寄ってく?ちょっとしかいれないけど」
「もう毎日通いすぎて店員に顔覚えられてるわ」
「たしかに、俺もう第2の家かも」
「そしたら私の第2の家は櫻井家かもな」
「ほんと、それこそ住んでるわ。母さん、碧が家に来た1週間後には『そろそろ碧ちゃん来る?』ってうるさいんだから(笑)」
「はは(笑)。優人ママに伝えといて、『光熱費払うので住まわせてください』って」
「碧ってとことん図々しいよな」
「そうか?」
「うん。だいぶ。」
「まあ確かに、こんな図々しくできるのは櫻井家だけだわ」
「しっかり自覚してんじゃん(笑)」
いつものように、他愛もない会話をしながら最寄り駅から徒歩5分の行きつけのファストフード店へと向かう。このどうでもいい会話が、私の心の拠り所だったりもする。
「あ、やべ」
「ん?どうした?」
「財布、学校に忘れたっぽい」
「あちゃー、じゃあ今日は俺の奢りかな」
「うわ、そうしてもらいたいところだけどさすがに学校に置きっぱは無理だわ、なんかあったら困る」
今ここから学校へ戻るとすると最低でも1時間、家に帰るのには2時間以上はかかる。
「うん、だね。今日夜親いないから、妹の面倒見なきゃなんだけど」
「さすがに1人で行ってくるから大丈夫だってば、未央ちゃんと遊んであげろよー」
「俺は碧が誘拐されないか心配だよ(笑)。」
「どっからそんな発想が出てくんの!?余計なお世話だわ」
「わかったから、はやく取っておいで。盗まれても知らないよー」
「うい」
「気をつけてね」
「ういー」
私がどれだけ冷たい反応をしても、口を悪くしても、優人はいつも優しい返しをしてくれる。その優しさに、漬け込んでいる自分がいる。
「…あれ、机ん中にあるはずなんだけど、、」
「もしかして、探し物?」
なんだ、この男は。
「あー、、探してるっちゃ探してるけど、探してないっちゃ探してないってゆーか?」
できるだけ面倒なヤツには引っかかりたくない。こいつ、私のことも知らないだろうになんて物好きなんだろうか。
「なにそれ(笑)。探してんじゃん?僕手伝うよ」
「いやいや、知らないヤツに財布探してもらうくらいなら自分で探すから」
「財布?じゃあ、ここにあるのは?」
男は、最初から用意していたかのように見覚えのある財布を差し出す。
「なんであんたが持ってんだよ」
「たまたま落ちてるのを見つけたもんで交番に届けようかと」
「それ、私の。返して」
「あーあー、見つけてくれた人にはお礼をしないと」
なんだこいつ。私の頭に熱が籠ってくるのが伝わる。
「はあ、、はいはい、ありがとうごさいます」
「お礼は行動で示してくれないとー!どうする?なにしてくれる?」
「ああもうめんどくせー、、」
私は小声で呟く。
「ん?体で払う?」
「は?言ってねえし!大体お前誰なんだよ」
「僕?」
お前しかいねえよ。というツッコミは心に留めておいた。
「少年A」
…は?
「なにいってんの」
「え、おねーさん僕のこと知らない?」
「いやちょっと、言ってる意味が」
「今どき少年Aを知らないなんて、いかにも流行追ってますーみたいな格好して、意外と疎いんだね?おねーさん」
「知らないわけねーだろ、てかその呼び方やめろ」
少年Aって、捕まったんじゃねえのかよ…。高校生とは言えど、放火殺人の犯人だぞ?少年院にでも入れられるだろ、普通。
「今おねーさん、『少年Aって捕まったんじゃないの?』って思ったでしょ」
「…そりゃ思うだろ、人1人殺してんだぞ?その呼び方もやめろ、体痒くなる」
「じゃーなんて呼べばいいの?おねーさんの名前教えてよ」
「…羽瀬川 碧」
「あおいちゃんね。綺麗な名前」
「教えたからにはこっちも教えてもらわねえとな」
「えー?そんなに僕の名前気になるの?あおいちゃん」
こいつの一言一言に苛つくのにも正直飽きた。
「お前、ほんとに少年Aなのかよ」
「そうだよ。僕が理科室を放火して河田 光を焼殺した、通称少年A。四ノ宮 花楓だよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になりかけた。
少年Aは、真っ黒な瞳で、真っ直ぐ私を見つめながら薄ら笑顔を浮かべ言う。
「僕と、警察と鬼ごっこしよ?」
故意に恋してしまったら。 たんたん @konnpeeei
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