プロゲーマーが初心者のフリをしたら

五葉松 一

プロゲーマーが初心者のフリをしたら

0 プロローグ

 21世紀末、eスポーツ市場の拡大と、最先端技術の発展に伴い、電子競技の舞台は、コンシューマーゲームでもなければ、コンピュータゲームでもない。インターネット上の仮想空間オープン・ワールドへと変わりました。


 それをまるで待ってましたと言わんばかりに、誰よりも先に動き出したのは、世界で最も有名なゲームクリエイター『エル』。その素性は謎に包まれたまま、男なのか、女なのか、宇宙人なのかすらわかりません。ただ一つ言えることは、エルが世に送り出す全てのゲームがメガヒットを起こしていること。『世界のエル』なんて呼ばれたりして、それは、それは、いやでも有名になりました。


 そんなエルのSNSに、新作ゲームの告知がされた時は、世間は黙っちゃいません。エルの新作ともなれば、まだかまだかと騒がしくなるわけです。肝心なのは、そのゲームが何なのか気になるところ。皆が首を長くして待って、リリースされたのは、『サヴァイブ』と名付けたゲーム。


 サヴァイブは、大規模な仮想空間の中で、生き残りをかけて戦う、いわゆるバトルロワイヤルゲーム。でも、決してゲーム内で殺し合いが始まるわけではありません。内容は至ってシンプル。3人のプレイヤーがチームを組んで、全10チームが1つの島に集まり、最後の1チームになれば勝者が決まる。誰でもできる簡単なゲーム。


 ただ、どこかで見たことも、聞いたこともあるような、パッとしないゲームで、世界のエルはこんなものかと不安にさせられましたが、エルが生み出すゲームは、これだけでは終わりませんでした。


 エルにとって最高の喜びは、プレイヤーに夢を与えること。たしかに、サヴァイブはパッとしないゲームです。ですが、もしもサヴァイブの勝者になって賞金がもらえるとしたら、夢があると思いませんか?


 その夢を実現させたのが、『サヴァイブ・TV』。サヴァイブの対戦をライブ配信とアーカイブ配信するだけではなく、その対戦の再生回数に応じて現金に還元して、賞金として勝者が獲得できる仕組みを導入したのです。


 この実現がえらいことに、全世界の人々をサヴァイブへ駆り立てることになりました。そして、プレイヤー数は1億を超えてなお拡大を続けているそうです。


 巨万の富と名声を得ようとするプレイヤーが次々と現れて、いつしか、賞金稼ぎのプレイヤーを『プロゲーマー』と呼ばれるようになりました。


 プロゲーマーは6つのランクで格付けされます。当然のことながら、ランクが高ければ認知されて、再生回数が増えるので賞金の金額が上がります。ですが、ランクが上がれば上がるほど、ピラミッドの図式のように狭くなりますので、座れる椅子は限られてくる。そうなると、高額賞金を狙った熾烈なランク争いになることは必然でした。


 椅子取りゲームの終焉を迎えた頃には、最上位ランクであるマスターランクには、名のある屈指のプロゲーマーが立ちはだかり、彼らに勝つことは不可能と言われ、多くのプロゲーマーは昇格することを諦めてしまいました。


 その時、まさに彗星の如く現れたのが、『ビギニング』と名乗るプロゲーマーチームでした。最下位ランクであるブロンズランクの時から、その圧倒的な強さを発揮して、並いる強豪チームを打ち倒し、瞬く間にランクを駆け上がり、とうとう不可能と言われたマスターランクに到達を果たしたのです。そして、『サヴァイブ・マスター』と呼ばれる最強の称号を掴み取りました。これは、サヴァイブ史上最速を記録する異例の快挙だったそうです。


 そんなビギニングの勢いは留まることを知らず、マスターランクの中からサヴァイブの新チャンピオンを決めるチャンピオンズ・リーグに出場が決まりました。彼らの活躍は世界中から注目が集まり優勝候補の筆頭として期待されていたのですが、頂点に君臨する目前で惜しくも敗退となってしまいました。


 ビギニングはその日を境にサヴァイブから忽然と姿を消しました。でも、人々の記憶からは決して消えることはなかったそうです。なぜなら、ビギニングはプロゲーマーたちに夢を魅せてくれました。マスターランクへの到達は決して不可能ではないと。だから、プロゲーマーたちは今日もまた、サヴァイブ・マスターになるために、サヴァイブの舞台に上がるのです。


 そして、始まりビギニングの物語は3年後の仮想空間から——。

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