第23話 偽りの一週間3
「どうよ、生きてるってことは上手くやれてるの? ポルト様の元に書物が届いたそうよ。解読中だからもう少しまってって」
「そうですか」
数日後にリッツィ姉さんが魔塔長の伝言を持ってやってきてくれた。どうやらもう少し頑張ればニッキーの魂を外に出せるらしい。
「で、どうなの?」
そうして、こっちが本題だと言うように心配と面白がる気持ちが混ざったような声色で私の偽ニッキー生活を聞かれた。
「どうもこうも、毎回赤面ですよ。今のところ気づかれていないみたいですが」
フロー様が私を『ニッキー』と呼んでいるのだから、きっと大丈夫。
「頑張ってるじゃない! てっきりすぐにバレちゃうかと思ったわよ。もう、練習の時の大根っぷりといったら……」
「出会い頭に大喜びさえすれば、何とかなるって知ったんです。毎回フロー様のニッキー愛を感じていますよ」
「ふうん……それがジャニスに向けられたモノだったら全て上手くいくのにな」
「そう……ですよね」
「あれ? その反応……も、もしかしてジャニスもフローサノベルドのこと、憎からず思ってきたってこと?」
私の答えが意外だったのかリッツィ姉さんが目を丸くした。
「そりゃあ、あれだけの愛情を向けられてしまうと羨ましくもなります。私の体を明け渡すこととは話は別ですけれど」
「当たり前よ。私だって誰かの代わりだなんてまっぴらごめんだもの」
そう……ニッキーの代わりだなんて、まっぴらごめん……。
なのだけどな……。
私の中のニッキーは深い眠りについたまま……。
では、この想いはどこから?
フロー様のことを考えてため息をついてしまうのも、毎夜会えるのをずっと楽しみにしてしまうのも……。
昼間デートにジャニスとして誘ってくれることがなくなってしまって酷く落ち込んでいることも。
フロー様の一挙一動にこんなに振り回されてしまう。
早く、ニッキーを天国に送ってあげないと。
でも、そうしたらフロー様は私に見向きもしなくなる。
相手は私の体を狙う悪い人だというのに……どうしていいかわからなくなってくる。
「ジャニス、もう少ししたらポルト様が助けてくれる。だから、変な気を起こしちゃダメよ」
「変な気ってなんですか。大丈夫ですよ」
リッツィ姉さんを見送りながら、自分の心が揺らいでいるのを感じる。
だって、ニッキーがいなくなったら……。
フロー様はまた悲しみに暮れないといけないではないか。
***
「フロー! おかえりなさい」
フロー様が屋敷に戻ってくるとすぐに部屋まで駆けつけて、大袈裟に歓迎する。
コツは掴んでいるので大丈夫!
「ただいま」
抱き着く私を軽く抱きかかえて、シャワールームに向かう。
フロー様は早めに帰ってこれた日は屋敷でお風呂に入る。
今日は魔塔では入らなかったのだろう。
水は好きだけどお風呂が嫌いなニッキーはその間ドアの前で待つのがお約束だ。
一緒に入ってなくてよかった~。
さすがにそれは無理だ。
それから水気を飛ばしたフロー様がシャワーからでてきて、私を抱っこしてベッドで寝る。
すこし火照った顔の彼はとても艶っぽい。
ちょっと直視できなくてカアを逸らしてしまう。
だって、破壊力がすごい。
そして昨日もこの流れだったから、このまま眠るのだろうと思っていた。
「愛してるよ」
「私も愛してるわ」
これでも頑張って言ってるので、もうこの辺で許してください。
「フローって呼んで」
「……フロー」
呼んだ、呼んだからもう寝ましょう……。
いい子ですからお願いです。
なぜか今夜はしつこい。
「大好きは?」
「フロー、大好き」
「僕も大好きだよ」
精神的死が! もう本当に勘弁してください!
やけに寝るまでが長い気がする。
フロー様が私の顔にちゅっ、ちゅっとキスをしてくる。
避けたいし、逃げたいが、喜んでいるように装う。
笑え、笑うんだ! 私!
フロー様がクスクスと機嫌よく笑い、私の顔を上げさせて視線を合わせた。
「君からはキスしないの?」
その言葉に私は固まった。
過去、記憶玉で見たニッキーの行動の数々は、フロー様とキスしたいと飛び跳ねていたものばかりだ。
どうする。
ここで拒否なんてしたらバレてしまう。
テンションマックスで挑んで、唇に何回もしないとおかしく思われる。
どうしよう……。あのテンションだよ!?
いくら私でも痛い行動だよ!
しかし、フロー様はじっと私を見たままだった。
その顔は期待でワクワクといったところで、してこないなど一切疑わない蕩けた顔をしていた。
……ジャニス、きっと誰かが骨は拾ってくれる。
ええいっ!
「フロー、大好き!」
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ!
これでどうだ! はあ、はあ、はあ……。
嬉しさ満載の気分で飛び跳ねながらしたから、唇を外したことには気づかないはず!
三回もした!
三回もしたからぁああ!
「ふふふ、唇はここだよ?」
「むぐ……$%$%&#&%!!」
フロー様の顔がぐっと近づいてきて、そのまま唇が重なった……。
え、なに……。
キス……してるんだけど……。
ちゅっ……。
そうして離れていくフロー様を、頭の中を真っ白にしたまま眺めた。
「おやすみ」
そんな私の頭を優しく撫でるフロー様……。
え、いや……寝れない。眠れるわけがない。
ひいいいいいっ!
私のセカンドキス!
あああああああああっ!
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