メンヘラ娘の反抗期

@zuechon

第1話 第1ラウンド

築50年の鉄筋コンクリートマンション。4階建て2階に住み始めてかれこれ20年。ここで21才のメンヘラ娘と19才アスペ息子をワンオペ子育て。


子育てなんてもんは皆、初心者で、終わる頃にプロになる。手解きしてくれる親や身内、友達がいれば他だが、友達も居ない、身内も疎遠、親からの虐待で育てばもう行き場はない。オモユがなんなのかを調べるほどの知識のなさを乗り越えながらの20年。2人とも大学生にもなり、そろそろ終わりのベルでも鳴りそうだと悠長にお肌の手入れをしていた時に、闘いのゴングは鳴ったのだ。


賃貸3LDKの短い廊下をズタズタと歩く旦那が私に『クルナ』と合図、その後ろをメンヘラ娘が続く。何事だと思いつつお肌の手入れを続けるも、リビングでは発狂寸前の娘の声と宥める旦那の声。こんなシチュエーションは流石に20年の中で、、、2回目。


あれは確か、、、娘が中学3年の時だったか。


メンヘラ娘の望みで始めた中学受験。地元の公立小学校に馴染めず、なだめすかしてなんとか通う状況で、それでもどうにも楽しめず、ふと、こんな進路もあるよと提示した私立中学受験に娘はとびついた。お金がかかる、それは分かっていたが、本人がそれを心の支えに頑張れるのならと旦那も了承。但し、行く価値のある学校である事が旦那の条件だった。大手有名進学塾の入塾テストに合格するも、成績別クラスで自分の実力を目の当たりにして早速病むメンヘラ娘。家でも旦那が勉強を教えたが、そもそも塾の先生と合わないという理由で、塾を変え、なんとか娘のプライドも保たれ、成績も伸び、有名女子大学付属中学に晴れて入学した。


そして中学3年の秋。

数学教師とのトラブルで登校拒否。

玄関で泣き叫び。

何がどうイヤなのか言わない娘。

学校のスクールカウンセラーを頼り、保健室登校。精神科にも通って心理士とのカウンセリングを開始。

なんとか薬を使わずに回復したいとお願いして、月2回のカウンセリングを

一年半(保険診療外)続け、なんとか回復。その後も具合が悪い、倒れたと連絡が来れば、会社から飛んで帰り車で迎えに行く爆弾を抱えての生活も娘の為とやって来た。数学の授業に出られなくなったのを塾で補い、テストで十分な成績がとれれば内部進学で高校へはいけると配慮されたのは流石、私立の良さと感謝したものだった。公立ではこうは行かない。私立の高い学費に追加で個別塾の費用は辛かった。しかし、娘の為だと旦那も受け入れ、私もパートから正社員で働きながら、続く子育てと家事とで自分の時間なく生活するようになっていった。


高校に進学できてホッとしたのも束の間、有名私立附属高校から、有名私立大学への進学をやめ、一般受験をすると言う。何のための課金だったのか!の言葉を飲み込み、娘がやりたいのならと予備校費用を捻出。下の息子も私立、娘の私立、予備校費用、受験費用は想像以上の金額だった。所得制限家庭と言えば、『年収多くていいわね』と言われるが、高校授業料無償化から除外され、大学も奨学金対象外、すべての費用をキャッシュで用意しなければならいという罰ゲームのような現実なのだ。お金の工面をして、仕事をしながら家事をして、勉強で疲れたと言われればドライブに連れ出し、気分転換に服や靴を買い与え、息子の悩みや話にも耳を傾けて、、、タスクを完了させる事で精一杯。中学、高校と駆け抜けるように生きてきた。


そして、今隣の部屋でメンヘラ娘は何に対して騒いでいるのかと気になり、気になり私はクルナの合図を破って入ってしまった。


『こないでー』


の言葉に耳を疑ったが、事実。

拒絶されたのは私だった。


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