第41話 夢の痕
モアがメッセージを送ったら、フランソワさん側の都合がよくないという返事が来たらしい。というわけで、俺とフランソワさんとのご対面は日を改めることとなった。
「タクミ、我が兄のフランソワはタクミの父親と酷似した姿をしているのだが、それでも会いたいか?」
「なんでまた、あいつと?」
というか、モアが十文字零さんの姿をしているんだし、フランソワさんが父親の外見をしてるんだったら、フランソワさんとモアは擬似的に親子ってことになんの? ――十文字零さんは、俺と母の違う義理の姉だし。複雑な関係になってきたな。
「フランソワは、我が2022年に地球を訪れる前に地球へと降り立ち、タクミの父親と接触していたのだぞ」
「初めて聞いた」
こんな、地球から遠く離れた星で、衝撃の事実を伝えられてしまった。まあ、そこまで俺が父親と会話する機会も、なかったし。でもこのタイミングで明かされるとは、思ってなくて、ちょっと、いや、かなり動揺する。
「タクミの父親と二人一役で、フランソワはタクミを育てていた」
「へえ……」
「あの事故が起こって、タクミの父親が亡くなり、フランソワはこちらに戻ってきた」
あの事故。
後妻さんとひいちゃんを乗せて、俺の父親が運転していた車に、後妻さんの元旦那のバイクが突っ込んできて、車は制御不能になり、車道から逸れて歩道に乗り上げて五代親子を轢き殺し、そのまま不忍池に飛び込んだ。
この事故のせいで、じゃあないな、事故のおかげで? 俺は後妻さんのご実家であるところの
そう考えると、全ての始まりともいえる。
フランソワさんにとっては終わりだったんだろうけど。
「タクミは、自分の父親が二人いることに気付いていなかったのか?」
「……まったく」
普通考えないだろ。自分の父親が二人いるなんてさ。そもそも俺はそんなにあの父親のこと好きじゃあなかったし。
「そうなのか? 子という生き物は、親を尊敬するものだとばかり」
「なんでだよ!」
つい声が大きくなってしまう。父親にとっての俺は、自分をよく見せるための道具。俺のそばには、いつでも父親の影があって、父親の評判を下げないために、父親から捨てられてしまわないように、俺は、従わなくちゃいけなかった。俺はいい子なんだ。俺は悪くない。俺は、……俺の人生は、……もういいだろこの話。
これからの俺は、俺のために生きるんだ。
父親のためじゃあなくて。
「そうだぞ。タクミには、宇宙大参謀となる未来が待っているのだからな」
ちょっとしょげたような表情をしていたモアが、なんだか胡乱な単語を出してきた。
宇宙大参謀?
「何その肩書き」
「我が考えたぞ!」
「……だから、俺はこの星の侵略活動に参加する気はないんだって」
「ふむ」
何度考えても、おかしな話だよ。俺は侵略されかかっていた地球の住民なのに『ものすごく遠い星』に連れてこられて、他の星を侵略するための作戦を練らないといけないなんてさ。
「タクミが参加しないとなると、我らはこの星の外に追放されるのだが」
「マジ?」
「大王様の決定に逆らったものとして、一発アウトだぞ」
「そうなの!?」
「うむ」
どうやらマジらしい。モアにはいつものふざけた感じがなくなっている。せっかくあれだけのでかい部屋を用意されてんのに?
というか、
「我はタクミと二人ならどこへでも行くつもりだぞ!」
「それは心強いけどさ」
せっかく歓迎されたのにな。それはそれでもったいない。
「我らと付き合いのある星に、ああ、それだと見つかってしまうな……」
「見つかったらどうなるの?」
「大佐と戦闘になる」
「マジ?」
あのちょびひげの軍服おじさんと? ってことだよな? モアのこと好きっぽいし手加減してくれねェかな。
「大佐は一撃で星を砕く」
「は?」
「我らを移り住んだ先の星ごと粉微塵にするだろう」
「勝てねぇじゃん」
なんだよそれ。交渉の余地なしかよ。じゃあ、もう、あれじゃん。
「地球に戻るのは?」
「ううむ……大佐は地球侵略推進派だから……」
そういやそんなこと言ってたな。怖すぎるだろ。
「ということはだよ、最初からさ、俺が断るって選択肢はないじゃん?」
「うむ!」
うむ!
じゃないが。
「タクミは理解が早いな! そうだぞ!」
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