第40話 祭りの後

 歓迎会は、……何だかすごかった。

 すごかったとしか言いようがない。俺の語彙力がないんじゃあなくて、地球上では見られないものを見たとき、地球上の言葉では形容できなくなる。って言うとニュアンスは伝わるだろうか。ともかく、何だかすごかったからすごかったと言うしかない。


 参謀による開会宣言から、参加者による一芸披露が始まった。漫才のようなものをしているコンビもいれば、大がかりなコントをしているトリオもあり、かと思えば楽器を演奏しているチームも。

 芸を見て大佐、参謀、技師長の三人がそれぞれ五点満点で点数を入れる。大佐の採点が一番厳しく、参謀は甘め。

 技師長の採点基準は最後までよくわからなかった。他の二人が微妙な顔していた出し物に手を叩いて大笑いし満点を出しているような。ますます人となりがわからない。警戒するに越したことはないか。モアに「技師長ってどんな人?」と訊ねても「いい人だぞ!」としか言わないしさ。そりゃあもあに取ってはそうなのかもだけど。

 歓迎会の一般参加者たちには持ち点一点が配られ、良かったと思う参加者に加点する。閉会式に集計して、最も獲得点が高かった参加者に賞状が授与された。


 というか、これって歓迎会だろ? 歓迎会って仮装大会みたいなことするんだな……。これまで俺の経験してきた歓迎会とはだいぶ違うじゃん。これもお国柄……お星柄?


 お国柄が出るといえば料理。過去にモアが調理したツキウサギは出なかったのだけど、世界各国の料理を模したものがビュッフェ形式で並べられていた。好きなだけ食べていいと言われても俺はそんなにたくさんは食べられないから、とりあえず焼きそばっぽいものとハンバーグらしきものをよそって食べる。塩とこしょうの味の焼きそばと、よく焼きすぎてパサパサになったハンバーグだった。ちょっとだけおばあさまの手料理が恋しくなる。モアは彩り豊かにいろんなものを山盛りにしていたので、モアの口には合うものらしい。


 そんなモアから「いっぱい食べないと大きくなれないぞ!」と口をへの字にされたけど、これ以上大きくならなくてもいいからこれぐらいにしておく。モアはいっつも食べすぎてるじゃん。自重しろ。さらに重くなるぞ。


 一芸披露の後に大佐から、モアへ『無事の帰還を祝う言葉』が送られる。堅苦しい語句が並べられていて、モアは途中でうるうるしていた。たぶん半分以上も理解できていないと思う。しかし大佐がもらい泣きしたのか、途中から声が震え始める。このちょびひげ軍服おじさん、話せばわかるタイプのいい人なんじゃあないかな……あるいはモアが言いくるめれば地球の侵略を諦めてくれそう。ダメか?


 そういや恐怖の大王ひいちゃんの姿が見当たらないけどどうしたんだろ。

 準備で疲れちゃったのかな?


 これだけでかい城を維持しているのだから、そりゃあ人もいるよなと思っていたけど、あちこちからうようよと湧いて出てきていた。一芸披露のためにちょいちょい顔ぶれは入れ替わる。料理を追加したり皿を下げたりしているスタッフの数も考えれば、……千人ぐらい?

 俺とモアを見つけると、横にいる俺への挨拶はほどほどに、モアに対して「お疲れ様!」といった言葉や色とりどりの花々を贈って労った。そのたびにモアは「ありがとう!」と言って受け取るから、そのうち花を置くためのテーブルが作られた。献花台かな。

 花に詳しくないからこれらが地球上にもあるものなのか、そもそも植物の分類学上で花とされるものなのかもわからない。

 一芸披露の表彰式からの閉会宣言をされて、順次解散となった後にモアが両手いっぱいに花を抱えてふんふんとご機嫌に鼻を鳴らしながら歩いているところを見ると、本人は喜んでいるからいいか。もらった本人が嬉しそうなら他人がとやかく言う必要ないだろ。


「うーむ。この花はどうするべきか」


 ただ、まあ。

 盛大に祝ってもらいすぎて、モアの両肩にかかっている期待に震える。


「我は大王様の側近だからな!」


 誇らしげに胸を張る姿を見ると、余計に。


「俺、明日から参謀の下につくことになるじゃん?」

「うむ。参謀もいいひとだぞ!」

「具体的に何すんの?」


 モアは天井を見ながら「うーんと、他の星の侵略計画を練ったりとか、この星の経済戦略について話したりとか……」と読み上げるようにして答えた。そこに書いてあるでもないのに。


「作戦立案が参謀、実働部隊が大佐、みたいな?」

「色々考えてくれるのが参謀、参謀の編み出した作戦を見て兵を指揮するのが大佐だぞ!」


 まあ大体合ってた。


「俺は別に軍隊に所属してたわけではないし、第一、この星の侵略行為に加担するつもりは今のところないんだけど」


 モアに相談しておこう。今のところ、俺もモアみたいな侵略者になりたいかっていうとそうでもない。地球からの一時的な避難先みたいな感じでここまで来てしまった節はある。戦力として来たわけじゃあない。期待しないてほしい。


「ふむ……我は、タクミに手伝ってもらいたいのだが……」


 困ったように左手と右手の人差し指をくっつけたり離したりしたあと「そうだ!」と何やら名案を閃いたらしく、右手の人差し指だけ天井に向けた。そのポーズで閃くことあるんだ。


「フランソワに会いに行かないか?」


 知らない人の名前出てきた。

 誰だよ。


「タクミがよく知っている人だぞ?」


 そんな眉をひそめられましてもだよ。俺、あんまり人の名前覚えるの得意じゃあないし。フランソワさんって響き的には外国人っぽいけど。知り合いにそんな外国人いたっけか。


「会えば思い出すかも」

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