旅立ちの朝


―翌朝


「おはよう、みんな。昨日はよく眠れた?」

 目を覚ましリビングへ降りてきたレイが、庭側の子窓を開け、昨晩庭で寝ていた森の生き物たちに声を掛ける。まだ寝ている者もいるようだ。

「おはよう~」

 そんな中、彼女の声で起きたコハクが伸びをしながら挨拶を返した。

「ふわぁ~。おはよう」

 大きくあくびをしたのはフェンだ。朝は少し弱いらしい。

「おはよう」

 レイは挨拶を済ますと、自身の朝食の準備を始めた。

 今日の朝食は、トースターで香ばしく焼いたブレッドにベーコンエッグだ。

 レイは、キッチンに立ち、ブレッドをトースターに入れ、タイマーを進める。その間にベーコンエッグを焼く準備をする。フライパンをコンロに乗せ火を点ける。フライパンが熱されたら、森に自生していたオリーブから作った食用油をその中に少量注ぎ、薄く全体的広げる。その間に、もう一つのコンロでお湯を沸かす。ホットカフェラテ用だ。


 チンッ。

 とブレッドの焼けた合図がリビングに小さく響いた。熱が冷めないよう、ブレッドはまだトースターの中に。

 ジュー。

 次は、フライパンにベーコンを乗せた音が家の中に響く。少し焼き色がついた頃合いで卵を一つ落とす。塩と胡椒を軽くまぶし、少量の水を加え蓋をする。黄身の表面が白くなれば、完成の合図だ。

ベーコンエッグが出来上がった。レイは、ブレッドを乗せる気の皿を用意し、トースターに置いていたブレッドをそこ乗せ、ブレッドの上に焼き立てのベーコンエッグを乗せた。忘れずにホットカフェラテも用意する。ミルクは少し多めに。

 朝食の完成だ。ホットカフェラテと朝食をテーブルまで運ぶ。

「大地の恵みに感謝を」

 席につき、腹ごしらえだ。


「何を食っているんだ?」

 匂いに引き寄せられたフェンが、開けていた窓から片目を覗かせながら聞いた。

「ベーコンエッグ」

「む。おまえだけいいのを食っておるな」

 羨ましいそうな視線を送るフェン。

「もう。あなたたたちにはこれ」

 見かねたレイは庭に魔法収納マジックボックスを出現させ、ブラックボアの燻製を出してフェンに渡した。

「燻製か。ほう、良いだろう」

 渡された燻製を咥えて、フェンはコハクたちの元へと戻っていった。

「それなにー?」

 戻ってきた彼に気付いたコハクが声を掛ける。

「ブラックボアの燻製だそうだ。お前たちも食うか?」

「食べる!」

 そうして、フェンたちも朝食を摂った。

「燻製は歯ごたえがあって美味いな」

 フェンは無心になって燻製にありついていた。

 しっぽが大きく揺れている。

 余程気に入ったようだ。


「どうしたの?」

 朝食を終え、支度の準備を済ませたレイは、先程と様子の違う彼らに気付く。

 彼女は少し小走りで庭に出る。

 するとセレリスが、少し重たい足取りで彼女の傍に来た。

「やっぱ行っちゃうの??」

 セレリスの不安げな顔。他の森の者たちも寂しげな顔をしている。

「ええ。少しの間寂しい思いをさせちゃうけど」

 レイは、セレリスの目を真っ直ぐ見つめながら言葉を続ける。

 「コハクには、ここに残ってもらうし、森や、みんなに何かあったら、すぐ駆けつけるから大丈夫よ。心配しないで。それに時々帰ってくるって言ったでしょ?」

「うん、絶対ね」

 セレリスは、生まれてすぐに親に捨てられ、レイに拾われたのだ。当時のトラウマもあって、離れ離れになることにひどく怯えていたのだ。

「ええ。私たちの帰りを待ってて」

 レイは、セレリスを優しく抱きしめる。その抱擁は安心してというようにとても優しく。


 準備が整ったレイとフェン。

 レイはフェンの背中に乗り、コハクたちに声を掛けた。

「いってきます」

「いってらっしゃーい!」

 皆、彼女の言葉に返す。

 それを合図に、フェンが威勢よく駆け出した。


 これから、始まる新たな物語。

 彼女にどれだけ成長を与えるのだろうか。

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