第9話 ヴァズギアトヴァトル
「ここは⁈どこだ⁈」
カゲルは18フィート四方にロープが張られた空間に立っていた。
「これは、、ボクシングのリング、、⁈」
「よおおぅ!カゲルゥゥ!俺のリングへ
ようこそォォォ」
金色のボクサーパンツと隆々とした褐色の筋肉
を羽織ったヴァズギアはホモサピエンスと近代人類のややサピエンス側の顔面に長いドレッドヘヤーを震わせて咆哮した。
カーーーン
リングらしきものが鳴った。
「何をどうしろって言うんだ⁈」
戸惑うカゲルを見てヴァズギアの口角は
頬を駆け上がった。
「ボクシングだよォォォ!!わかるだろォォォ?
3分12ラウンドの殴り合いだ!
俺に殴り殺されるまでに能力を解放することが手前の任務だ!!
影は共有してやった!普段のへなちょこな
手前の影に比べりゃ圧倒的に力の解放ができるはずだぜぇええええ!!
じゃあ、、、」
ヴァズギアの右拳が黒い影で包まれた
ボゴオオオオオオ
「ウプッ!!」
強烈な右ボディがカゲルに襲いかかった。
「うげえええ!!」
吐瀉物をこぼしたカゲルにヴァズギアは更に吐き捨てる。
「ゲロを拭いてる間に、可哀想なカゲルちゃんに俺の能力を説明してやるぜえぇ
俺の能力はシャドウボクサー!歴代の伝説的ボクサーをシャドウによって呼び起こしコピーする!試しに、、、!!」
シュッ!!シュッシュッ!!
軽快にシャドウを終えたヴァズギアの目つきが
一新した。
「………。」
「マイクタイソンだ…。」
「え?!」
航空機が右頬に飛んできた。
ボゴォォォォ!!!
「うううう!!」
バゴオオオオオオ!!
スペースシャトルが顎を突き上げた
ボゴバゴバゴバゴボゴボガボガ!!!
カゲルという地平を埋め尽くす隕石が
落ちた後、カゲルはダウンした…。
リング上の青天井であろうものを眺めながら
揺れる脳の液体の中をカゲルの目は泳いでいた。
「オオオオオオイ!!まだ1ラウンドだぜええええ!テンカウントはゆうううっくり数えてやる!!その間に能力を見つけろカゲルうう!!」
「ああ、、ぜったいにヴァズギア、、
お前を倒す、、!!」
深海魚のようにゆらめくしかできないカゲルの
井戸の中からの宣戦布告を聞きヴァズギアは
笑った。
「ガハハハハハ!!!ガキはこうでなくっちゃわなぁぁ!!ダニングクルーガーの壁は厚くてでかいぞカゲルううう!!」
カゲルは動かない右手を影の中に伸ばした。
「ブラディが銃を影から出したように俺の武器も影の中にあるはずだ。」
1メートル、まだ何もない
2メートル、手探りの右手に何かが触れた。
キタッ!!カゲルがそのイメージを弄ると
ボクシンググローブの形をしたものだった。
「ダメだダメだ!これじゃない!まだもっと深く潜らなきゃ!ヴァズギアには届かない、、!」
「もっと潜るイメージが欲しい!!
俺自身のフォルムを変えなくては!!」
カゲルは魚をイメージした。肺呼吸をえら呼吸へ、人の肌を鱗状に、ルアーのような紡錘型
へ、抵抗を減らすためにもっと平坦に。
イメージを深める度に少しずつカゲルの体は魚に変質していった。
ゴポゴポゴポ、、、、。
10メートル
何もない、、
20メートル
下を見ると漆黒の海水が敷き詰められこちらを見つめていた。
30、40、100、、、、、、
深度が千キロを越えた頃、カゲルが人である事を忘れた頃にそれは現れた。
海底に突き刺さった古びた一本の剣、、
1950年性のヴィンテージギターのような趣きと
モダンな雰囲気が刀身に宿っており
剣の周りには全長5メートルは下らないリュウグウノツカイが守護者のように蠢いていた。
「これだ、、これならいける!」
剣の守り人であるリュウグウノツカイは瞳の中の深海をカゲルに見せながらこちらを伺っている。
「ゴメンよ、、。君の宝物、、大事に使うから、、。」
ガシ
剣を抜くというよりは握った手のひらに
すでに剣は握られていたという表現を
ここでは取ろう。
ギャァァァァ!!!
リュウグウノツカイがカゲルに襲いかかった
そしてすでにそれは両断されていた。
、、、、。
深海に沈黙という日常が訪れたころ
カゲルは闇の中に話しかけた。
「君の名前をいくらかもらうよ。
俺の剣はシッコクノツカイ。これでヴァズギアを倒す!!」
深海の奥で誰かが頷いた気がした。
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