俺には全く関係がない。
みやりく
そもそも彼女とは面識がない。
第1話
「......」
久々と言うには微妙な間隔なのだが、それでいて少し懐かしいような、そんな感覚があった。
朝の通勤帯。
地下鉄の長い通路からようやく出口に繋がる最後のエスカレーターを上がった所で、足が止まりかける。
ターミナル駅の改札を出る人と、向かう人。
あるいは外へ出ていく人、中へ入ってくる人。
そんな人々が特に何の規律もなく入り組む光景が目の前に広がって、またいつもの日常が始まるのかと実感していくと、余計にこの憂鬱な感情は増していくようだった。
わざとらしく吐いたため息は誰に届く事もなくかき消され、がくりと背を曲げるその仕草で肩にかけたスクールバックの紐がずれて落ちそうになる。
おおよそ二週間振りに立ちはだかる人波にはすでに面食らっていて、本当は今すぐ踵を返してしまいたいのだがここで半端に立ち止まる訳にもいかず、流れに沿いなんとか歩を進めていく。
そのまま引きずるようによれよれと歩いていた所で、後ろからパシッと肩に手か何かが当たった。
ちんたらと前を歩く学生に嫌気のさした社会人か誰かが詰め寄りにでも来たのかと少しだけその方を見ると、それは同級生だと分かる。
「うぃっすー」
「......おおトモヤス三学期終わりぶりか」
「いや春休みクラスの打ち上げで会ったやん......」
「えーあ、そうね」
「ほんとそういうとこよミナトさん」
青年は呆れた顔をして隣に並ぶと、こちらを覗き込むような素振りを見せる。
その様子が横目に映りながらも、気にする事なく欠伸を続けた。
「なんかもう疲れてね?」
「またここ抜けてわざわざ学校行かなきゃいけないとか思うとな、一年もよく通えてたわ」
「あと二年続くけどなこれ」
トモヤスは俺の反応を見越したように意地の悪そうな、あるいは外面は清々しい笑顔に見せかけて何か言いたげな表情を見せる。
「マジでキツいって」
どうでもいいような会話が始まった所で同時に双方迫り来る人を避けつつ、高校へと続く駅の出口を目指す。
衝突して何かが起きないよう上手くかわしたり、時に二手に分かれるような動きになったりして、意図せずコンビネーションのようなものが決まって進んでいく。
......何なんだよこれは。
朝の満員電車、人混み。
物みたいに押し潰され合いながら向かう先で過ごすのは、変わらぬ平凡な日々。
別に、大したことがしたいわけじゃない。
SNS、部活、恋愛、豊かな人間関係とか諸々。
そういう青春のアイコンを多く手にしている事が、人生の充実度合を測る尺度になるのは少しおかしい。
今のそれなりの日常は、きっとそれなりに妥協できている。
だから、これから始まる高校生活二年目も特に何も変わらないのだと、そう思う。
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