a Constant or Variable (限定公開)

塚田誠二

プロローグ

 登場人物

 なつしゅう……警視庁秋葉原署強行犯係巡査部長。三十六歳。出身地三重県。

 しんえいすけ………警視庁秋葉原署強行犯係巡査部長。夏目と中学生時代の同級生。

 しんかいきょうすけ……警視庁捜査一課のエリート。夏目・真と中学生時代の同級生。

 いちかわ……三重県から上京してきた大学生。夏目の元教え子。

 いながき…………夏目の友人。秋葉原に住むオタク男子。歯医者休業中。

 ふか…………警視庁秋葉原署強行犯係女性巡査。夏目の後輩。




     プロローグ


 世の中には定数と変数が存在する。もう一言だけ付け加えるとすれば、その二通りしか存在しない。ただし、それは世の中のあらゆる事象を無数の数として置き換えた場合に、その二種類にしか分類されないという意味である。

 読者の何が言いたいかわからないという気持ちを受け止めるとともに、最後まで読み進めてからもう一度聴いてほしいと切に願う。そうすれば少しはわかってもらえるはずである――。

 世の中のあらゆる事象というのは定数と変数の二種類に分けるのが都合が良い。というか生きやすい。世の中の全ての事象を定数と変数のみに分けることによって、次に自分のすべき動きの判断が付きやすくなり行動しやすくなるのだ。

 曖昧な物は世の中に何一つ存在しなくなる。定数と変数しかないのだから。例えば無数の中で定数を決めるとしよう。すると残りの全てが変数として生まれ変わる。逆もまた然りである。数には定数と変数しかないと定義したのだから、一方を決めれば他方が同時に決まるのは当然だ。もしこのように定数か変数のどちらかを定めないのであれば、ただただ無数が存在し漂っているだけである。非常にわかりやすい。


「数学をできない人間は、定数を動かそうとする――」これは名門一流大学を卒業した教育者の言葉だ。彼はさらにこう言う。「定数は変わらないよ。ただし変数の部分は自分の努力次第でどうにでも変えられる。この変数の部分を変えていくんだよ。」有名塾講師である彼は大学受験が間近に迫った学生に、そう生徒に伝えるそうだ。

「しかし、それに気付かない人は定数を無理やり動かそうとする」それはマーケターと呼ばれる職業で大成功を収めた社長の言葉だ。「物事がうまく運ばない人は、定数を動かすことにエネルギーを注ぐんです。決して動かないはずの定数を動かそうとすることに無駄な力を使い果たしてしまい、結果としてその人が発揮すべき場所で力を発揮できなくなるんです。」定数を変数に変えることにこだわると、物事を失敗する場合が多いと彼は説明する。

 定数と変数の区分をあらゆる人の苦手分野と得意分野で考えた場合はどうだろうか――。定数は苦手分野となり、変数が得意分野となるのではないか。

 苦手が定数となるのには理由がある。これまでの経験上、苦手分野が得意分野に変わったことが自分自身一度もないし、周りで見たこともないからだ。つまり苦手は苦手のままずっと変わらないから定数と考えられる。しかし一方得意分野は好きだから、型を変えて応用させて臨機応変に対応しながら相手に伝わるように力を発揮できる。つまり自分なりに動かすことができるという点では得意分野こそ変数と言えるのだ。

 ならば『人間』をはっきり分けた場合どうだろうか――。人間を定数と変数の二通りのみに分けたい場合どうするか、という話である。

『自分と他人』に分けると上手くいく。定数は自分以外の全ての他人ということになり、変数はただ一人自分自身ということになるのではないか。また、こう考えれば生きやすいという話である――。

 具体的に言うと他人は自分の手で動かそうとしてもなかなか動いてくれない。強引に動かそうとすればするほど必ずどこかで反発が来る。今の時代、人から命令されるのは仕事だけで勘弁してほしいと皆がそう思っているのではないだろうか。他人を突き動かすことに慣れている多くの人間は、情に熱いタイプ、すなわち文系の人間が多いのではないか。情つまり熱意で持って、他人である定数を動かそうと躍起になるタイプが文系人間と考える。

 一方で冷静に自分自身を変化させ立ち回れるのが理系の人間だと考える。自分をカメレオンの七変化のように臨機応変に自己を変化させることができる。変えられるとすれば自分の意志で自分自身を変えるしかないと彼らは理解しているように見える。要約すると、変数は自分自身のみで、変えられるとすれば自分自身の手で自分を変えるしかないのだ。

 しかし以上のことに気づかない人が多い。ここから始まるのは何としてでも情に訴えようとする頑固な人の話でもあり、愛する人のために自分を変えようとする人の話でもある――。

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