朋の創作むかし話

遊安

第1話 お絹と弁天様


むかーしむかし、ある所に

お絹というそれはそれはお裁縫が上手な娘がおりました。

その腕は村中の知るところで

着物の仕立てやお直しは

全てお絹のところに集まります。


ある日、お絹は、いつものように針仕事をしておりました。

針に白い糸を通した瞬間、

なんと、糸はするするっと飛んでいき、畳に躍りでると、真っ白な蛇になったのです。


どこかその蛇は翡翠のように美しい緑色の目でじっとお絹を見ると、縁側をぬけて庭に出ていきました。



慌てて追いかけたお絹を気にかけるように、何度も振り返りながら、蛇は体をくねらせ道を進みます。


お絹はその仕草に、ついてこいと言われている気がして、恐る恐る後を追いました。


蛇はずんずん山奥に入り、そうして、あるところでピタッと止まりました。


不自然に草が生えていないその場所に、一人の女性が座りこんで泣いていました。


お絹が声をかけると、彼女は黙って足を指さしました。

女性が纏っている美しい衣の裾は破けてしまっていました。


哀れむお絹は手の中に違和感を覚えました。

慌てて家を飛び出した彼女は針を握りしめていたのです。


お絹は自らの髪を1本引き抜くと、

「今は糸がありませんで。」と細くしなやかな髪の毛で綺麗に縫いとめました。


その時でした。

泣いていた女性は凛とした顔つきになり、眩い光を放ったのです。

はっと気がつくと、お絹は家にいました。


どうやらお絹は、お裁縫の途中で眠ってしまっていたようでした。



ただの夢ではない気がして、

お絹が村の人々に話すと、

これは何かのお告げではないかという話になり、皆でその場所に行くことに。


そこには、古びた弁天様の石像がありました。

石像はよごれ、ところどころかけたりヒビが入っていましたが、

1番大きなヒビが入った足元は

何故か1本の髪の毛で綺麗に縫いとめられていたのでした。


村人達は弁天様を綺麗に拭くと、そこに立派なお社を建てて祀りました。


そこにお参りすると、お裁縫が上手になると評判になり、沢山の人がお参りに来るようになって、村は豊かになったとさ。


おしまい

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