夏祭りの夜

「お面つけて踊ってる奴見ると、つい取りたくならね?」


 悪戯っぽい君の声。狐の面からにぃっと吊り上がった唇の端だけが見えている。


「駄目だよ。お面をつけてる人に触れちゃ……」


「何で?」


 怪訝そうに問う君に、苦い思いで告げる。踊る人々から目を逸らさぬままに。


「夏祭りの……お盆の踊りの輪には、人ではないものが混じっているから」


「人ではないもの?」


「うん。あやかしや、亡くなった人の魂が……」


「ふぅん……」


 君は面白くなさそうに小首を傾げて呟くと、踊る人々の群れに顔を向けた。


 今宵はこの世ならぬモノたちが還りくる日。現世に遺した愛しき人々に、ほんの一時逢うために。


 だから生者たちは気付かぬふりをして、束の間の祭りを楽しむのだ。一年ぶりに還り来た愛しき者たちと共に。


 ……今、この手を伸ばしてしまえば、この夢は消えてしまうのだろうか? 年に一度の、優しい夢は。

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