さよならは笑顔で

「それじゃ、また」

「うん。来てくれてありがとう」

 そろそろ帰ると告げると、君は春の陽射しのように微笑んだ。午後の光が溢れる部屋で、陽光を孕んで煌めく瞳が僕の心をつかんで離さない。

「君はさよならを言う時はいつも笑顔だね」

「うん、記憶の中ではいつも笑顔でいたいから」

 そう言ってまた笑う君はまるで花の妖精のよう。愛らしく美しいが、どこか浮世離れしていて儚げだ。いつか消えてしまうのではないかと不安になる。

「だから、さよならはとびきりの笑顔でって決めてるの」

 輝くような笑顔と鈴を振るような声。部屋いっぱいに飾られた花もあいまって、まるでおとぎ話の世界に紛れ込んだようだ。

「また来るよ」

「うん、待ってる」

 心から嬉しそうに言う君に軽く手を振って、その日も部屋を後にした。不吉な予感を胸の中に押し込めたままで。

 あれから半年。四角い額縁の向こうから、君は変わらぬ笑顔で微笑んでいる。白い箱に開いた小さな窓から覗く君の頬にも微かな笑み。

「最期までさよならは笑顔なんだね」

 ぽそりと呟いて花を供えると、どこかで鈴を振るような声がした。

「ええ、とびっきりのね」

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