元最強勇者と最弱魔王はのし上がるっ!
ももも
謎の少女
「また私の元に来たか、勇者」
「今日こそお前の息を止めてやる、魔王」
魔王城の大広間で、伝説の勇者と悪しき魔王が対峙していた。魔王アリスは震え上がるほど凍てついた視線で勇者トルテを射抜いたが、勇者は真っ白な髪を揺らして気だるそうにため息を着く。彼の隣には勇者を守るように、金髪の美しい女神官ニナレーと黒髪の端麗な魔法使いメルン、そして大柄な剣士ガウスが立っていた。
「やれやれ、最近の勇者は本当に礼儀知らずだな」
「うるさいな。今日こそこの戦いを終わらせてもらうよ」
魔王は兜で隠れた口角を上げ、高笑いする。しかし不意に笑い止むと、勇者の横にたっていた、大柄な男に視線を向けた。
「本当に俺を裏切ったのか?ガウス。残念だ……忌み嫌われたお前を引き取り、可愛がってきたというのに」
ガウスと呼ばれた男は、首を振って男の言葉を撥ね付ける。
「あなたに助けられ、救われた日のことは今でも覚えています。ですがだからこそ、あなたのしてきた悪逆を許すことは出来ません」
「悲しいなぁ……まさかこんな形でお前と相見えるとは」
「魔王様を裏切るとは……ガウス、お前も地に落ちたねぇ。しかもよりによって勇者につくだなんて、恩知らずも良いとこだなぁ」
魔王の隣に立つ、軽薄そうな笑みを浮かべた魔王軍幹部のラズィが嘲笑いながらガウスに向かって吐き捨てた。その横の深くフードを被った魔王軍幹部のアレイラは、何も言わずにただ杖を構えていた。
「話が長いし僕にはどうでも良い。早く終わらせろ」
勇者は驚くほど整った美しい顔には似合わない、暴言を吐き、舌打ちまでして、苛立たしげに剣を構えた。
「来い勇者!」
「言われなくても!!」
その瞬間。
剣を振り上げかけた二人の間に、凄まじい光が落雷のように落ちた。
「は?」
そして光の中から現れたのは、ここいらでは見ない変わった衣服ーーーセーラー服に身を包んだ、黒髪の少女だった。
「へえ、あなた達が魔王と勇者かあ」
「何だ!?……誰だ!」
咄嗟に魔王と勇者が反応するよりも早く、女子高生は展開させた光を魔王と勇者に発射した。
「はぁ!?」
光は一気に広がり、勇者と魔王はおろか、その場にいた全員もろとも飲み込んだ。
このまま焼き焦がされるのかと動揺した魔王だったが、しかし彼を襲ったのは思いもよらない衝撃だった。
「は?」
腕が耐え難い重力を襲い、とてつもない力で両手が下に引っ張られる。当たり前のように構えられていた剣が、急に何千倍と重くなっていた。たまらず両手から、剣が地面に転がり落ちる。
しかしそれは、魔王も同じだったらしい。魔王も膝をつき、剣を取り落としていた。
そうでなければ今頃、とっくに八つ裂きにされて殺されていたことだろう。武器を自分から手放した男を、魔王が見逃すわけが無い。
「よし、これで完了っと」
うずくまってしまった魔王と勇者を見、そう呟いた少女は、それ以上興味をなくしたようにあっさりと全員に背を向ける。トルテが声をかけるまでもなく、転送陣を発動させて姿を消した。
後に残されたトルテは、呆然とした声を上げる。
「は、な、何……これ」
少女の正体について、では無い。
先程まであれほど携えていた加護が、力が、完全に反応しなくなっている。
明らかに先程の女の仕業だった。
ステータスをオープンしたトルテは、目を疑った。
何百と持っていたはずの加護に全て、上から黒い×が付けられていた。何とか使用しようとしても、封印の一点張りで使い物にならない。
「なんなのこれ、わけが……わけがわからない……!」
しかしそんな規格外な魔法、聞いたこともない。
恐ろしく強い勇者と魔王にも効くこんな魔法が有り得るならば、とっくに世の中を席巻していてもおかしくは無い。とはいえ目の前の状況は、紛れもない現実だった。
そして。
魔王も、全く同じ状況に陥っていた。
「なんだ、あの女は……これはっ……」
先程まで易々と持てていた剣も鎧も、とんでもなく重い。
鎧がぱかっと前と後ろで別れる着脱式で無ければ、鎧が脱げずに重さで全く動けなくなっていただろう。
「おい、皆……はああぁっ!?」
それよりも、仲間は無事だろうか。振り返った魔王は悲鳴を上げた。
先程まで隣で頼もしく武器を構えていたはずの仲間の姿は、影も形も無くなっていた。代わりにその場にいたのは、仲間そっくりの小さな少年と少女だ。
そこには先程まで戦っていた魔王幹部に、酷似した幼い男児と女児が座り込んでいた。
「な、なんで縮んで……っ」
取り繕うことも忘れて、魔王アリスは呆けた声を上げた。
脳が理解することを拒む。しかし回転の早い彼の頭は、冷静に今の状況と現状を伝えていた。
そして。
それは、勇者トルテも同じ状況だった。
3人の仲間全員が、幼い子供になっていた。
「何、これ?ここ、どこ?」
仲間の1人が言った途端に、トルテは魔王に向かって叫ぶ。
「僕に攻撃の意図は無い!だから俺や彼らを殺すのは待て!!だから僕も、お前に危害は加えない!」
「……っ!」
魔王はトルテの言葉に、硬直する。魔王にも感情はあったらしい。しかしそれはブラフだ。
(チャンスだ……!この間に全員焼き払ってやる)
トルテは魔王が怯んだのを確認した瞬間、容赦なく彼ら全員を魔法で焼き払おうとする。が、慣れ親しんだはずの魔力は全く彼のその命令に反応しなかった。
(くそっ!!嘘でしょ!?本当に、全ての魔法が封印されたって言うの……!?)
トルテが唱えようとしたのは、だいぶ低位の魔法だった。それすらも発動しないとなれば、いよいよあの少女の言った言葉が現実味を帯びる。目の前が絶望に染まりかけたところで、不意に魔王が距離を詰めてきた。
「大体の状況は把握した。手を組まないか」
思わず先程の自分が言った言葉も、繕わなければならない演技も忘れて殺意を滾らせた。
勇者として魔族は忌むべき存在だった。絶対に許容してはならない存在だ。今も言葉巧みに己を惑わせ、倒す機会を伺っているのだろう。だが自分はそんな浅はかな作戦は引っかからないと、トルテは殺意全開で睥睨する。
「待て待て待て!本当に俺は裏切らない。お前と同じで、俺にも攻撃の意図はない!」
「嘘だな」
「それを言うなら大丈夫だ!今だから言わせてもらうと俺は魔族じゃなくてただの人間だからな!」
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