【第一部完結】龐統だが死んだら、魔法使いになっていた。どうすればいいんだ?

黒幸

第一部 第一次モーラ合戦

第1話 鳳雛、落鳳坡で死す

(三人称→龐統視点)


 中国四川省に落鳳坡らくほうはと呼ばれる地がある。

  後漢の建安十九年(西暦二一四年)。

 その落鳳坡らくほうはで一人の英雄が死んだ。


 英雄の名は龐統ほうとう

 字は士元しげん

 人物鑑定の大家である水鏡先生こと司馬徽に鳳凰の雛・鳳雛ほうすうと評されたことで世間に名を知られた男。

 同じく臥龍がりょうと評された諸葛亮孔明大軍師と並び称された稀代の謀臣である。


 『三国志』の三英傑の一人・劉備に仕え、入蜀蜀侵攻戦の際、荊州を離れられない諸葛亮の代わりに軍師として、劉備を良く支えた。

 劉備の幕下には武勇に長けた人物が揃っているが、知の面で支えられる人材は常に不足していたと言える。

 この問題は劉備が帝となり、崩御した後、国を背負って立つ諸葛亮を苦しめることになった。


 そういった事情があるので現地に赴き、戦術面で歯に衣着せぬ物言いをする龐統という人物の存在は非常に大きかったのだ。

 しかし、運命とは皮肉な物である。

 時の大きな流れは龐統の命と引き換えに歴史を動かそうとした。




 入蜀蜀侵攻戦において、不吉な影を感じた龐統は主君の身代わりとして、命を捧げることを決意する。

 行軍に際し、劉備と馬を交換すると敢えて危険な間道を進む道を選ぶ。

 この馬こそ、主に災いをなすとされた不吉な相を持つ的盧てきろだったのも何かの縁だったのだろう。


 龐統がわざと狙われるようにと仕向けたのには大きな理由があった。


 劉備の命を守るのが一つ。

 もう一つは自らの命を懸けて、劉備に蜀を取らせようと考えた。

 同族を攻めるのは本意ではないと気が乗らない劉備とはいえ、自分が死ねば、動かざるを得ないだろう。

 そう考えたのだ。

 そして、鳳凰の雛は天へと還る時がやって来た。




「軍師殿! しっかり、なされよ」


 ありゃ、護衛として付いてきてくれた文長魏延の声だなあ。

 いらないと言っておいたのにお節介な男だ。


 お前さん、孔明には嫌われてるな?

 変に律儀で熱いヤツだということをワシは知っとる。

 こんなワシの為に泣いてくれるヤツなんて、お前さんくらいさね。


「軍師どのおおお」

「これでいいん……さね。ワシは……満足さ。玄徳殿が目指した……天下を見た……かっ……」

「ぐんしどのおおお」


 こんなにたくさん、矢が刺さっちゃあ、助からんさね。

 もう痛みも何もなくなってきたさ……。

 寒いなあ。

 いよいよお迎えがきたかね?


 無念ではない。

 消えかけていた玄徳殿の命運をワシが変えたのさ。

 後は頼んださね……。




 龐統士元。

 享年三十六。

 彼の早すぎる死がその後の歴史に少なからぬ影響を与えたことは間違いない。

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