人間を失格した科学者は羅生門で美女を創る

おだた

一話からいきなりラッキースケベです

 今は未来。


 川は澄み、苔は水しぶきを浴びて緑鮮やかに輝く。飛び込んだ鳥は、魚をくわえても体を汚すこと無くなお白い。山は青く。花は色鮮やかに、燃えるように咲かんと欲している。

 この春を見るのは、これが最後になるのだろうか。いつかまた、ここに戻ってきたいと思っている。




 東北のさる田舎で、四歳から中学卒業まで育った、横田 まことがいた。高校進学のため、東京へ出ることになり、山道を走る車の中にいる。隣の座席には、ひとつ下の妹、横田 陽子ようこがいる。

 山道は、右に左に、大きく曲がっている。そのたびに、体が接触する。

「ちょっとお兄ちゃん。くっつかないでよ」

「しょうがないだろ。車が揺れるんだから。だいたい、なんでおまえまで東京に行くんだよ」

「またその話?」

「中学校も三年生で、東京に転校するってないだろ」

「お兄ちゃんひとりだと心配だからっていう、お父さん命令だよ」

 車は未舗装の凸凹道を、軽快に走って行く。



 BRTのバス停に着いて、兄妹は車から降りる。バス停まで送ってくれた祖父に礼を言う。

「おじいちゃん、元気でね」

「元気でな」

「夏休みとクリスマスには帰ってくるよ。親父も帰ってくるだろうし」

「バカンスとクリスマスを家族で過ごすのは、横田家の例年行事だからね」


 専用レーンを走って、自動運転電動バスが停まる。ドアが開き、兄妹が乗り込む。自動アナウンスが流れる。

「本日は、〇〇交通をご利用いただき、誠にありがとうございます」

 走り出すバスから、祖父に手を振る。

「田舎ともお別れか」

「淋しいのか」

「都会ってさ、行ったこと無いから、動画でした見たことないんだけど、なんか、殺伐としてそう」

「実際、そうなんだろうよ」

 ふたりは、端末を両耳に入れ、スマフォで誠は動画を見始め、陽子はゲームを始めた。


 BRTで中規模都市の中心部に着く。バスのドアが開く。

「本日は、〇〇交通をご利用いただき、誠にありがとうございました」

 ドアの前にゲートがあり、自動的に生体認証がなされ、パスするとゲートが開く。鉄道に乗り換え、さらに新幹線で東京へ向かい、何回か乗り換えて、東京の真ん中にある駅で降りる。改札の自動ドアは、生体認証をパスすると自動的に開く。

 駅の周りには、テナントの入っていないコンクリートの朽ちた雑居ビルが、そのまま放置されている。営業しているショッピングモールの壁面で映っている3Dビジョンが、見る人もまばらな駅前で、淋しく音声を響かせている。


 誠が言う。

「道案内を頼む」

 端末から声がする。

「駅前の交差点を、斜め左へお進みください」

 ふたりは、案内にしたがって歩き出す。


 アナウンスにしたがって歩みを進める桜並木の小道は、カラーブロックで舗装されているが、長らく整備されていないのか、凸凹のうえ、コケや草が生えている。3月の上旬に咲いた桜は既に散って、茶色くなった花びらが道路の脇を埋め尽くし、この地域の衰退をあらわしている。


「目的地に到着しました」

 アナウンスされたそこには、庭付きの豪邸が建っている。『横田』の表札が掲げてある。

「ここかな?」

「ここだろうな」

「思ったより立派な家だね」

 道路から玄関まで、コンクリートのスロープを上がって、ドアの前に立つ。

「横田誠です」

 端末から女性の声がする。

「いらっしゃ~い。今、開けるね」

 ガチャっと、ドアのカギの開く音が聞こえる。ドアノブに手をかざすと、ドアがスライドして開く。

 家の中は、玄関から部屋の中までフルフラットの洋風造りだ。奥から、メイド服を着た女性が静かに歩いて来る。

「いらっしゃいませ」

「おじゃまします」

「おじゃまします」

「お~! いらっしゃい!」

 ひときわ大きな声を張りあげながら、白い肌、赤毛にブラウンの目の女性が駆けて来る。

「君が優人の息子。誠君か」

「はい」

「そちらのレディは、娘の陽子ちゃんだね」

「初めまして」

「う~ん」

 と、唸り声をあげながら、顔を近づけ、なめるように見つめる。

「あ、あの。私の顔になにか?」

「うん! なんでもない」

「はあ」

「私の名前は、キャンディ・ハインライン。キャンディって呼んでね。あなたたちのお父さんに頼まれて、おふたりの面倒を見ることになりました。どうぞよろしく」

「「よろしくお願いします」」

「隣にいるのは、メイドのアン。アン、自己紹介して」

「初めまして。当家の家事全般を執り行わせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

「「よろしくお願いします」」

「さあ、あがって。靴はここで脱いで下駄箱に入れてね。スリッパはとりあえず、来客用のを使って。後で自分用のを買うと良いわ」

「ありがとうございます」

「荷物届いてるよ。部屋に運んでおいたから。部屋へ案内するついでに、家の中を案内するわ」

「よろしくお願いします」


 廊下を進むと広いリビングがあり、奥がキッチンになっている。

「ここがリビング」

「広いですね」

 リビングのすぐ隣がお風呂になっている。

 入り口のドアを開けると、広い洗面室の向こうに、大きな浴槽が見える。

「広い!」

「一度に五人くらい入れるんじゃない?」

 廊下を挟んでリビングの反対側に和室と洋室がある。お風呂の反対側にトイレとリネン室があり、洗面台と洗濯機が2台あった。

「和室が私の部屋。隣の洋室がアンの部屋ね」


 階段の隣にエレベーターがある。階段を上がって最初の部屋のドアを開ける。

「誠君の部屋ね」

 既に引っ越しの荷物が運び込まれている。

「陽子ちゃんの部屋はその隣。部屋のドアは生体認証でドアノブに手をかざせば開くから。ただし、私とアンだけは、管理者権限Administratorで開けることができます。緊急事態用にね」

 階段は更に上にあがっている。

「3階もあるけど、今日はいいか。夕食まで時間あるし、ふたりとも部屋の片付けして」

「はい」

「わかりました」

「陽子ちゃん。お兄ちゃんの部屋には、勝手に入れないよ~」

「入りません!」

 陽子がドアノブに手をかざすと、鍵が開いた。陽子は部屋の中に入る。


「しかし、お母さんそっくりだね」

「母をご存知なんですか?」

「そりゃもうご存知ですよ~」

「実家でも、幼い頃がから、母にそっくりだと祖父母に言われていました」

「その話しはおいおいするよ。とりあえず、夕方まで部屋の片付けでもしていて」

「わかりました」

 誠は自室に入り、パッキングされた荷物を開け始めた。




 しばらくして、端末からキャンディから、

「ルームシェアの娘が来たから、ふたりとも玄関に来て」

 ルームシェア? そんな話、聞いていないんだが。

 階段を降りるとそこには、白い肌に金髪碧眼、高身長、ナイスボディのハリウッド女優が立っていた。

「彼女もこの春から、誠と同じ学校に通う娘よ。自己紹介してくれる?」

「ミク・キャサリン・クラークです。日本のアニメと漫画が大好きで、アメリカからやって来ました。どうぞよろしくお願いします」

 流暢りゅうちょうな日本語で、言い切った。

「ミク。横田誠に、横田裕子。ふたりは兄妹で、ルームメイトよ」

 突然、ハグをされる。

「よろしく」

「よろしくお願いします

 陽子にもハグをする。

「よろしくね」

「よろしくお願いします」

 これがアメリカ流か。


「ミク。知ってると思うけど、日本の家は、玄関で靴を脱ぎます。スリッパに履き替えて、ついてきて。家を案内するわ」

「OK」

 ふたりが部屋の奥へ行こうとしたとき、キャンディが止まる。

「ちょっと待って。もうひとりのルームシェアの娘が来たわ」

 もうひとり!? ちょっと待て。いったい何人来るんだ。


 入って来たのは、モンゴロイド系の肌だが色白、黒髪。華奢な女の子。左目の色だけ赤い。

「小松 あやです。横田優人さんの紹介でアメリカから来ました。どうぞよろしくお願いします」

 か細い声で言うと、深くお辞儀をした。俺もお辞儀をする。

「彩。ミクと一緒に家を案内するから、付いて来て」

 三人は部屋の奥へ消える。


「ちょっとお兄ちゃん。同居人がいるなんて聞いてないよ」

「俺もだ」

 俺は、親父に電話する。

「コール。親父」

 端末から、電話のコール音がするが、出る様子はない。

「出ない」

「あたしが電話してみる。コール。お父さん」

 端末から、電話のコール音がするが、出る様子はない。

「出ない」

「なに企んでるんだ? 親父の奴」




 誠の部屋はだいぶ片付いた。

「ふー。なんとか片付いたな」

 コンコン、とドアをノックする音。

「誠様。お風呂が沸きましたので、どうぞお入りください」

「OK。アンさん、ありがとう」

「アン、で結構です」

「だったら、俺のことも、様呼びはやめて欲しいなあ」

「それでは、誠さん、でよろしいでしょうか?」

「それでよろしく」

「かしこまりました」

 今まで、メイドがいる生活なんてしたことないけど、アンさんには世話になりそうだな。

 さて、片づけで疲れたし、さっそく、風呂にでも入るか。


 洗面室で服を脱ぎ、浴室へ通じるドアを開けると、温かな湯気と熱気が身体を包む。さっそく、大きな浴槽に身を沈める。

「ふ~。気持ち良い」

 温泉に浸かるような心地良さ。



 アンは、順番に部屋を周り、言っていた。


「陽子様。お風呂が沸きましたので、どうぞお入りください」


「ミク様。お風呂が沸きましたので、どうぞお入りください」


「彩様。お風呂が沸きましたので、どうぞお入りください」



「ふ~。片付けも終わったし。お風呂入ろうかな」

 陽子は、洗面室で服を脱いだ。

 身体を洗い終えた誠は、浴室から出ようとした。

 お互いがノブに手を掛け、引く。

 素っ裸の誠と、素っ裸の陽子が、面と向かって対峙した。


 え?


 え?


「キャーーーーーー!」

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