第20話 罠
王都
不機嫌に朝食を取っていたユウジは、巨大ゴーレムが完成したという報告を受けて喜んだ。
「完成にはもうしばらくかかると聞いていたが」
「はっ。陛下の夢をかなえるため、奴隷たちを不眠不休で働かせました」
トオルに操られたままのアクターが答える。
「すでに陛下の個人情報を登録しております。陛下専用の破壊兵器として、世界を席巻するでしょう」
クロードの言葉に、ユウジは待ちきれなくなった。
「すぐに試運転だ!行くぞ!」
ユウジは城内の美少女を引き連れて港に行く。それに付いていきながら、カグヤは不安に思っていた。
(とうとうあれが完成してしまった。トオル君とメルはどうするつもりかしら。私はユウジの側にいてほしいっていわれたけど……)
ユウジとカグヤたちは馬車に乗って港に向かう。
しばらくすると、巨大な人型の岩でできたゴーレムが立っているのが見えてきた。
「やった!これで俺はこの世界を支配する神になれる。おい!奴隷たちをゴーレムの足元に並ばせろ!」
ユウジが命令すると、馬に乗っていたアクターとクロードがうなずいて走っていく。
「何をするつもりなの?」
「あれが完成したら奴隷どもは用済みだ。ふふふ……全員踏み潰してやる。これでやっと俺の復讐が完成するんだ。その後は世界中の国を滅ぼしてやる」
ユウジの目は、新たな虐殺への期待に溢れていた。
ユウジたちの馬車が港に到着すると、兵士たちが奴隷を整列させて迎える。
ユウジは馬車から飛び降りると、ゆっくりとゴーレムに向かっていった。
「くくく……この一歩一歩が世界の支配者への栄光の道だ。俺に逆らうものはすべて踏み潰してやる」
そうつぶやきながら『ガンレム』の足元に到着した時、いきなりユウジの頭上に影が落ちた。
「ん?なんだ?」
見上げたユウジの視界に入ったものは、岩でできた巨大な足の裏だった。
「な、なぜ動いているんだー!」
ユウジは叫び声と共に、巨大な足に踏み潰された。
ガンレムの操縦席
「うはっ。これマジで巨大ロボットだよ。結構テンションがあがるな」
席に座っている黒髪の少年がいる。ユウジの双子の兄、トオルである。一卵性双生児である彼はユウジと全く同じ身体を持っているので、ガンレムを動かすことができた。
そしてガンレムを操って、ユウジを踏みつけたのである。
「これで死んでくれたら楽なんだけどな……おや?」
ガンレムの足裏から硬いものが抵抗するような感触が伝わってくる。力いっぱい踏みつけても、地面に沈むだけで潰れなかった。
「なめるなぁぁぁ!」
足裏からガンレムを持ち上げようとするすさまじい力が伝わってくる。
「腐っても勇者だな。『絶対防御』で防いだか。仕方ない」
このままでは倒される危険があったので、トオルはやむなく足を上げた。
ガンレムの下から、憤怒に顔を染めたユウジが現れる。
「誰だ!俺以外は操縦できないはず!」
『俺だよ』
ガンレムの頭の部分から、ユウジとそっくりな声が返って来る。
「貴様!まさか……」
『そうだ。トオルさ。夢での約束どおり、父さんと母さんを殺したお前に復讐しにきたぜ』
その言葉に、夢で散々苦しめられた恐怖が蘇って来る。
しかし、ユウジは気力を振り絞ってトオルと相対した。
「この勇者ユウジをなめるな!お前なんかもう一度殺してやる。『ファイヤーエクスプロージョン』」
ユウジの手から出た炎が大爆発を起こすが、ガンレムは無傷だった。
『無駄だ。このガンレムには魔法は通じない!作ったお前が一番知っているだろう』
トオルはあざ笑いながら踏み潰そうとするが、ユウジはすばやく身をかわした。
「はっ!それがどうした!俺は勇者だ!もともと最強なんだよ!」
巨大なガンレムでは自分を捕らえきれないと知って、ユウジは自信をとりもどす。
一方、トオルは冷静にその事実を受け止めていた」
(思ったとおりだな。ガンレムにのってこっちも無敵になったが、あっちも無敵だ。このままじゃ永遠に勝負がつかない。となると、やっぱり作戦どおりにするしかないな)
そう思ったトオルは、ガンレムを操作して海に向かう。
そして、そのまま沖に向かって歩き出した。
「貴様!逃げる気か!ええい、後を追うぞ!」
ユウジは豪華な鎧に伝説の剣を身につけ、船に乗り込む。
兵士や奴隷も素直に後に続いた。
興奮していたユウジは気がつかなかったが、彼らは命令もしていないのに自発的についてきていた。
(えっと……私はどうすれば……)
混乱するカグヤの側に、一人の大柄な兵士が近づいてきた。
「勇者カグヤ殿……我ら反乱軍と共に来てほしい」
「あなたは……?」
兵士にしてはやたらと威厳がある堂々とした態度だったので、カグヤは戸惑う。
その兵士はにっこりと笑うと、自分の身分を明かした。
「私は反乱軍総帥、ビスマルク大公。我らアスティア世界の者の手で、邪悪な勇者を倒す。あなたにはその場に立ち会ってもらいたいのじゃ」
ビスマルク大公はカグヤの手を取って、港に停留している船に乗り込んだ。
帝国の護衛船は速度と機動性を重視して、奴隷たちがオールをこぐ大型ガレー船である。
船に乗りこんだユウジは、騎士たちに命令する。
「奴隷に鞭を打って急がせろ!なんとしてもあいつが逃げるのを阻止するんだ!」
ユウジの命令を受けた騎士たちは、鞭で奴隷を打ち据える。
複数の巨大なガレー船が、ガンレムを追って動き出した。
「トオルめ……よくも俺の大事なガンレムを!捕まえてなぶり殺しにしてやる」
憎悪に燃えた目で、先行するガンレムをにらみつける。
船はいつの間にか数キロの沖合いに出て、ガンレムの肩まで海水が来るほどの深い場所に来ていた。
「よし!追いついたぞ!奴を引きずり出せ!」
ユウジの命令で、ガレー船からボートが下ろされてガンレムを取り囲む。
次の瞬間、いきなり大波が来て船が傾いた
「な、なんだ!何が起こったんだ!」
転倒しそうになるところをなんとか踏ん張ったユウジが、前方にいるガンレムを見て驚く。
巨大なゴーレムは、自ら海中に倒れこもうとしていた。
「バカな!やめろ!」
船のデッキでユウジは喚くが、ガンレムはどんどん沈んでいく。あっという間に海面に隠れて姿が見えなくなった。
「なんてことだ……これじゃ二度と引き上げられない」
落ち込むユウジの目に、頭の部分から脱出してボートに乗り込んだトオルの姿が目に入る。
「そいつをここに連れて来い!」
半狂乱で喚くユウジだったが、トオルを乗せたボートは逆に遠ざかっていった。
「いまだ!トオル様は悪勇者ユウジを誘き出してくれた。今こそ我々の恨みを晴らすときだ!」
隣に併走していた船から声が上がる。甲板にいた体格のいい兵士が、堂々とした声で宣言していた。
「なんだあいつは!兵士たちは「魔眼』で操られているはず!言葉なんてしゃべれるわけが……え?あいつは!」
その兵士を見たユウジは、彼が反乱軍の総帥であるビスマルク大公であることに気づく。
「貴様!いつの間に我が軍に侵入して……?」
「愚かな勇者め。よく周りを見てみるがいい。私が貴様の軍に入り込んだのではない。貴様が我々の軍の中にいるのだ!」
そういわれてユウジは気づく。いつの間にか、彼の乗船からは兵士も奴隷もボートで逃げ出していた。
それを見て、反乱軍が船にはいりこんでいたことに気づく。
「ちくしょう!はめられたのか!」
ユウジは一人になった船の上で地団駄を踏むが、すぐに自信を取り戻す。自分は絶対的な力を持っていることを思い出したからである。
ユウジは余裕たっぷりに自船を取り囲むほかの船に告げる。
「ふふ。俺を罠にかけて包囲したことは褒めてやろう。だが、どうする?矢でも射掛けるか?」
ユウジの挑発に乗った一人の兵士が、その胸めがけて矢を放つが、まるで硬い壁にでもぶつかったように跳ね返された。
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