俺のパソコンに王女様がやってきた

大沢 雅紀

弥勒学園編

第1話  いじめられる日々

日本有数の名門高校、弥勒学園の昼休みに金髪の軽薄そうな少年が、小太りの少年に絡んでいた。

「いいペンじゃねえか。貸してくれよ。友達だろ」

「田辺君。でも……それは親父の形見で」

「ああん?自分が親を殺しておいて、何ふさげたことを言ってんだ」

田辺と呼びれた少年は、一発頭を殴っておとなしくさせる。

「これはもらっておくぜ」

高級そうなペンをポケットに入れて、田辺は去っていく。

その様子をクラスメイトたちはニヤニヤしながら見ていた。

「あいつに言えば、なんでもくれるよな」

「しっ。くれるなんて言っちゃだめよ。貸してもらっているだけなんだから。永遠に」

クラスの女子のリーダー、真田美緒はそういってたしなめた。

「あ、クラスの取り決めで、そうだったよな」

それを聞いて少数のやんちゃそうな男子生徒は頭をかく。

ここは大多数を占める上流階級の子女と、偏差値を落とさないために入れられた少数の特待生が通う名門校である。

男子生徒の中でもイケメンやスポーツマン、金持ちや陽キャラが圧倒的多数の女子にもてはやされ、小柄で陰気、アニメやラノベが好きな生徒はカーストの底辺に追いやられる。

女子の陰湿さと男子の残酷さがあわさった結果、その苛めは普通の学校より過酷なものとなった。

少年-神埼徹は現在高校三年生で、一年の頃に転校して以来゛ずっとこの環境に耐えていた。

「さ、友達を誘ってランチにいきましょう。今日のグループは私たちだから」

「そうだな」

スポーツをしていてがっちりとした体の何人かの男子生徒が、先ほどペンを奪われた少年を取り囲む。

「おい。学食に行こうぜ。今日もお前のおごりでな」

「で、でも……お小遣いはもう……」

「ああん?何が小遣いだよ。てめえには親を殺して手にいれた大金があるだろうが。人殺しのトオルちゃんよ!」

スポーツマンタイプの自称友人、中村翔は、トオルと呼ばれた少年の尻を蹴り上げた。

「わ、わかったよ」

「八!最初からそういっておけばいいんだ、みんなの分も頼むぜ」

中村がそういうと、周りの女子からキャーと歓声が上がる。

「トオルくーん。ありがとね!」

「あ、お礼をいったからこれは苛めじゃないよねーー。君は自分の意思でおごってくれているんだもんねーーー」

口々にそう言いながら、好きなものを食べあさっていく。

トオルー神埼徹は、ただ食堂の隅で小さくなっていることしかできなかった。


放課後

帰ろうとしたトオルが、校門の前で道をふさがれる。

「ちょっと待て。さやかさまが話がある」

そういってトオルを捕まえたのは、この弥勒学園の生徒会メンバーである。男子も女子もいたが、皆厳しい目でトオルを睨んでいた。

「あら。神埼さん。ごきげんよう」

取り巻きの生徒たちと現れたのは、聖清さやか。理事長の娘で学園内では女王様扱いされていた。

「こ、こんにちわ」

卑屈に挨拶をするトオルに、さやかはにっこりと笑って告げる。

『生徒会活動費が足りなくなってきたのです。生徒の皆様へのボランティア活動のために、ご浄財を寄付してくださいますよね」

「え?でも、この間も寄付したばかり……」

トオルが反論すると、さやかは目を吊り上げた。

「あなたの悪い噂は聞いております。地元にいられなくなったあなたをこの学園に浮けいれてあげたのは、いったい誰ですか?」

「理事長先生です」

トオルは力なくつぶやく。

「そうだ。お前は自分で家を燃やしたんだってな」

「両親を殺しておいて、のうのうと普通の生活かよ!人殺しが!」

「学校に通っていられるだけで、私たちに感謝しなさいよ!あんたみたいな人殺し、うちの学校にふさわしくないのよ!」

取り巻きの生徒たちが、嵩にかかって攻め立てた。

それをさやかは手をあげて制する。

「皆様。それはあくまで噂ですわ。根拠のないことをいいふらして、人を傷つけてはいけません」

そういておいて、トオルの耳元でそっと告げる。

「明日までに100万円、この口座に振りこんでおいてくださいね。ご自分の意思で」

そうしてにっこり笑うと、取り巻きの生徒に告げた。

「みなさん。また生徒たちのボランティアに協力してくれるそうですわ。彼も大事な学園の仲間です。友達として受け入れましょう」

「さすがさやか様、お優しいお心ですわ」

生徒たちはうっとりとした目でさやかを見つめ、対照的にトオルをゴミのような目で睨みつける。

「では、また」

さやかたちは颯爽とさり、トオルは取り残されるのだった。


「はあ……なんでこんなことになったんだろう」

トオルは現在借りている1Kのアパートで、今までのことを振り返る。

幼いころの彼は、両親と一卵性双生児の弟を持つ、平凡な家庭の中で育ってきた。

双子の弟とは仲が悪かったが、けんかしながらもおりあいをつけて生活していた。

しかし、ある日突然落雷と共に弟が行方不明になり、そして三年前に謎の出火によって両親が死に、天涯孤独となった。

両親がかけていた保険金は入ったものの、そのことをやっかんだのか、変な噂を立てられるようになつてしまった。

「あの子が火をつけました。まちがいありません」

火事の野次馬の中にそう証言する人がいた。俺と同じ顔をした少年が一瞬だけ現れ、手から炎を放ったという。

俺が大やけどを負ったこと、双子の弟がいたこと、そして手から炎をだしたという荒唐無稽な話とあいまって、俺は放火魔として疑いをかけられることをなんとか免れものの、地元にはいられなくなり、高校進学を機会に遠く離れたこの弥勒学園にやってきたのだった。

しかし、待っていたのはさやかを始めとする学校全体での苛めである。教師たちもトオルが天涯孤独で誰も騒ぐ者がいないと知っているので、どんなに苛めや恐喝を訴えても相手にされなかった。

「もう学校やめようかな……このままじゃ全部巻き上げられてしまうし。でもここまで我慢したんだ。あと一年で卒業だし」

トオルは預金通帳を見ながらため息をつく。最初三千万あった預金は、すでに一千万にまで減っていた。

その時、急にあたりが明るくなってくる。

「な、なんだ……これはもしかして!」

双子の弟が消えた時のことを思い出して、床に伏して頭を抱える。

次の瞬間、激しい音と共に落雷の光が走った。


「なんだ……何が起こったんだ?」

トオルは立ち上がって辺りを見渡すが、何も変わったことはない。いつものボロアパートである。

「ははは……どうせなら雄二みたいに、異世界召喚でもされればいいのに」

トオルは部屋の中でむなしく笑う。双子の弟が消えたとき、何かの呪文と共に黒い穴に吸い込まれていくのを確かにみたのである。

「そんなラノベみたいなこと、そうそうおきるわけないか。ゲームでもしよう」

そう言いながらパソコンを起動したとき-。

「え?ここはどこです?私はどうなったのです?」

金髪ストレートの髪をした美少女姫キャラが、画面に映っていた。

「へえ……新キャラかな。かわいいな」

そうつぶやきながら、カーソルを合わせてクリックすると、彼女と目があった。

「ああああ!邪勇者ユウジー!あなたが私をここに封じ込めたのですか!早く出しなさい!」

いきなり画面のキャラクターが命令してきた。

「雄二って?俺はトオルだけど。てかすごいリアルな反応するな。このキャラ。胸も大きいし」

指の形をしたカーソルをあわせて、ツンツンとした。

「無礼者!ファイナルアロー!」

姫キャラがこっちに向けて光の矢を放つ。それは近づいてくるにつれてどんどん拡大し……消えた。

「くっ……勇者には通用しないということですか……」

姫キャラは泣き崩れると、画面に大の字になった。

「いいでしょう。好きになさい。ですが、体は奪えても、心までは

奪えませんよ」

「くっころ展開きたーー!」

トオルは大喜びでカーソルを合わせ、つんつんとする。

「くっ……あっ……私をなぶる気ですか!嫌らしく触るだけなんて!」

「そんなことを言われてもな」

トオルだってその先に進めたいが、彼ができることはカーソルを合わせてクリックすることだけである。

進まない展開にイラっときたトオルがクリックを連打すると、姫キャラは笑い出した。

「あっ!きゃっ!くすぐったい!やめて!やめなさい」

「……こ、これはなかなか興奮するかも!」

意外に楽しくなって、トオルは彼女が泣き出すまでクリックし続けるのだった。

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