第3話 美少女、服を買う
次の日。俺は朝起きて、いつも通り1階に降りる。
「…あなた、誰?」
「美少女になった琉衣です」
「ああ…そうだったわね…」
親でさえ昨日のことは夢だと信じてやまなかったらしい。無論、それは俺もであって。朝起きぬけに鏡を見てびっくりして頭をベットに打ってしまった。
「あ、今日も学校休みなさい。制服の採寸ついでにあんたの服買いに行くから」
「あれじゃだめ?」
聞き返すと、母親は白い眼をして
「そんな可愛い身なりしてそんなこと言わんでくれ」
と引き気味に言われた。心外だ。
「何時に出るの?」
「あんたがご飯食べたらすぐね。今日は…そうね、京子の服でも着ていきなさい」
「なんで兄貴が妹の服を着るってんだ」
「仕方ないでしょう!あんた用の女の子用の服なんて買ってないんだから!」
と説教された。理不尽じゃね?
という訳で、俺は母親とショッピングモールにやってきた。
「っても、俺ファッションとかわからん…」
「私って言いなさい?このバカ息子」
「いひゃい!やへれ~!」
いきなりほほを思いっきり引っ張られました。痛い。
「もお!何するのさ!いったたた…」
「あんた、今は仮にも女の子なんだから!女の子らしい振る舞いしなさい!!!!」
「今の時代、らしいは…」
「ああ?」
目で刺し殺されたその正論を、俺は胸の内にスッとしまい込んだ。
「それより、あんたはセンスがカスよりないから、私が選んであげるから、それを試着しなさい」
「ひどくね?ねえひどないかい?」
「黙れ」
「……へい」と情けなく俺は母親に屈してしまったのだった。
「……ほんと、身なりだけは綺麗だね」
「余計な語が付属してるぞ」
「事実よ。受け入れなさい」
今着せられてるのはゆったりとしたニットワンピース。クリームの全体像がシュッとしたスタイルに似合っていた。
でもなぁ…。せっかくこの体になったんだし、なんか自分の心がくすぐられる服がいいなぁ…。
ふと店内を見回すと、一着のコートが目に付いた。
手に取ってみると、かわいい猫耳がフードに付いたさっきのワンピースとおんなじ色のパーカーだった。
「…着てみよ」
試着してみると、それはそれはオタ心をくすぐる猫耳パーカー系美少女が出来上がった。
「ねねね、さっきまでの服も買うから、これも欲しい」
「あ、ん~…わかった。そんぐらいええよ」
「やった!」
買ってもらったパーカーを抱きしめながらレジで精算してもらった。
…エロい目で見てくる男の目って、わかりやす。俺の目もそう思われていたって思うと、ちょっと気が引ける…。
「あんた、男には気を付けなさいよ」
「…へい」
その意味を本当に知ることになるとは。人生、いろんなことがあるもんだな…。
「さ、入るわ」
「丁重にお断りいたします」
それだけ言って俺は家への帰路に
「着かせないわよ」
「離せ!お…私は死んでも入らんぞ!」
「入りなさい!あとおっきな声で喋らない!バレるでしょうが!」
うう…何が楽しくって下着専門店に入らねばならんのだ!!!
「あんたの胸は…うん、だいたいCぐらいね」
「変態」
「隠すな気持ち悪い」
胸を隠しながら言うと、母親は鋭い言葉でそう刺した。
そんなにひどいこと言わんでもええやん。
「それより…あ、あった。これつけてみて」
と言われ下着を手渡されたので、服の上から着けてみたら思いっきり頭を叩かれた。美少女の扱い方雑くない?もっと丁重に扱いなさいよ。
「バカやってないで試着してきなさい」
「へいへい」
仕方なく試着室に入って上をすべて脱ごうとした時だった。
「…あれ?なんだこれ」
気になったのは、物陰に潜んでいた一台のカメラだった。
デジカメが電源をつけっぱなしで置くって…。おいおい、嘘だろ。
拾い上げて、確認してみる。しっかりと、録画中だった。
「うわぁ……」
録画を止め、中のデータを見てみると、見事にさっきまで録画していたデータのみとなっていて、容量がマックスにならないようになっていた。
しかも開店してから2分後の早業。この執着をどうか他のものに向けてほしかった…。
「…母君、女の敵を発見したぞよ」
「は?あんた何言ってんの?」
データを残したままのそのカメラを見せた。
「…よし、あんたはここで待ってなさい…」
「ちょっと待って!勝手に突っ走らないでぇ!」
一生懸命引き留めた後、俺はそれを店側に報告した。
警察を呼んでから「此度は、ご迷惑及び不安を感じさせてしまい申し訳ありません」
と謝罪してきたので大丈夫だったという旨を伝えた。
調べたところ、犯人はこのモールの近くに住む30代の男性だったそうで、家にはさらにもっといろいろな場所のデータがあったらしい。
ちなみにそのあと、試着は怖いという思いがあり試さずに買ったところ一サイズ小さかったらしく、後日1サイズ大きいものを買ってもらった。
明るい陰キャ、美少女になる 時雨悟はち @satohati
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。明るい陰キャ、美少女になるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます