1話 Cafe coleus

 今日も店内に流れるジャズを聴きながら、コップを拭く。


 食器棚に入っているのは、コーヒーカップ2つ、サイフォン1台、ドリップ1台、フレンチプレス1台。


 冷蔵庫には紙パックの牛乳が1本。


 横の棚にあるカゴの中に入っているのは、ミルク1袋。


 棚の上に置いているコーヒー豆は3種類。ブラジルとグアテマラとマンデリン。これらを混ぜてお客様には提供している。


 次はテーブルを拭きに厨房を出る。


 テーブルに置いているのは角砂糖が詰まったガラス製の入れ物。メニューはあるにはあるのだが、ペラペラの紙1枚。


 ふと、入口の方に目をやれば、今日もまたサラリーマンが走っている。1人、2人、3人と通り過ぎていくのを見て、「こういうのもいいな」と思う。


 白い壁紙に木の椅子2脚と木の机1台。あとはキッチンと扇風機1台。夏になれば店内でも汗ばみ、冬になれば凍える。そんな居心地の悪い店内が私のフィールド。


 私の名前は二上毅にがみつよし。2年前に会社を定年退職し、この店を営んでいる。店の名前は『Cafe coleus』。名前の通り、店内にはコリウスの植木鉢を飾っている。この店が小さいのは、私がケチったからであって、お金が無いわけじゃない。ただ、この狭い、静かな空間を好むお客様がたまにいらっしゃることがある。こんな店の何がいいんだか。


―チリン


そんな話をしていると、誰か来たようだ。

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