緋色の脳漿

目茶舐亭おしるこ

第1話 初めての依頼

「みんな平和ボケしすぎだぜ」


 癖っ毛の少年が空き教室から帰宅途中の生徒たちを眺めて、独りごちた。


 勝手に持ち込んだソファーに座り、ワイングラスに注いだ葡萄ジュースをチョビチョビと舐めている。この空き教室は、教師に許可もとらずに占領した彼の探偵事務所だ。


 高校生探偵を名乗っているこの男の名は、明智小太郎という。ちなみにこの探偵事務所に依頼人が訪れたことはない。だが、この日は違ったようだ。


「やぁ、探偵君。調査をお願いしたい」

「先輩! 久しぶりじゃねーか」


 芝居がかった登場をしたのは、この学校のOB宮水秋人だ。中二病の明智が喜ぶ演出を把握してのやり方である。


「同棲していた彼女が家出しちゃったんだ。探すのを手伝ってくれないかな?」

「良いぜ。探偵は退屈な依頼もこなさなきゃいけないもんだからな」

「退屈って… ひどいなぁ。でも君ならそう言ってくれると思ったよ」

「もちろん、相棒も連れて行くぜ」

「和戸君だね。彼と会うのも久しぶりだな」


 明智の相棒、和戸尊も連れて調査に繰り出すことになった。和戸が所属しているロボット研究部に向かう。

 2035年現在、パラダイムシフトと呼べるようなことは起こっていないが、ロボット工業の分野においてはかなりの進歩が見られた。少年たちでも簡単に組み上げられるようなキットも発売されるようになり、一躍ロボットブームが巻き起こっている。どの学校でも一つはロボットに関係する部活が作られるくらいだ。


 明智は、部室にノックもせずに乗り込んだ。そして数々の白い目も厭わず叫ぶ。


「ワトソン君! 依頼が来たぜ!」


 白衣に身を包んだ少年が顔をあげ、機械を弄る手を止めた。仕方がなさそうに歩いてくる。


「明智、勝手に首を突っ込むことを依頼とは呼ばないよ」

「今回は本当にスペシャルゲストから調査を依頼されたんだよ」


 宮水が明智の後ろからヒョコリと現れて、微笑んだ。


「先輩のお願いなら仕方ない。付いていこう」

「なんだよ、いつもなんだかんだ言って付いてくるくせに」

「和戸君は色白すぎるから、外出したほうが良いよね」

「えぇ、先輩まで。ひどいですよ」


 明智と騒ぎ、挙句の果てに連れ立とうとしている和戸を叱責するものは誰もいない。いつものことで慣れているというのもあるが、ロボット部の絶対的エースに文句をつけるのは気がひけるようだ。


「先輩の彼女の行方を探すのか。まずはどうする」

「手がかりを見つけに行くぜ! 先輩の家へ出発だ!」

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