⑦レバガチャ格闘士
衝撃がコックピットを襲う。
「ぐああぁ!?」
もしレバーを強く握っていなければ、俺の体はシートから吹っ飛んでいたかもしれない。
続く何度かの衝撃がやっと収まり、俺は頭を振って周囲を見回した。
俺たちの乗った
前方から白い
「だああああ! まだ調整中だっつーのぉ!」
叫び声に後ろを振り返ると、両手に膨大な数の魔法陣を発動させたリアナが目を回していた。
「り、リアナ! これどう動かすんだ!?」
「知るか! ガチャガチャやってれば!?」
そんなめちゃくちゃな。だが敵が迫り文句も言えない状況に、俺は言われた通りにする。
つまり――ガチャガチャやってみた。
「うおおおぉぉ!」
敵がすぐ目の前にいる分、とにかく動けばいいと思った。それが功を奏したのかもしれない。
突然、飛び跳ねるように動いたこちらの
……ただ正直にいえば、俺は腕を動かそうと思ったんだが。
「あぁぁぁ! ちょっと! 操作系と動力系の調整してんのに今のでズレた!」
「お前がガチャガチャやれっていったんだろ!?」
どうやら調整不足のおかげでもあるらしい。
とにかくその隙に、リアナは最低限の調整を終わらせたようだ。
「終わった! 基本はアンタの魔力と思考に反応して動く! とりあえず起こして!」
「ああ!」
足に力を入れてペダルを踏むと、
そして、この操縦が――とんでもなく力を使う。魔力を注ぎ続けていることもあるが、レバーやペダル自体も身体強化魔法有りで動かすのがやっとだ。
この状態を長く維持していられる自信がない。早めにケリをつける必要がありそうだ。
「武器は必要ないわね? 一撃で仕留めなさい」
「わかってる!」
リアナの問いに自分を奮い立たせるために勢いよく答えた。すでに敵は体勢を立て直し、こちらに向かって突進してくる。
「行くぞ!」
「いつでも!」
――攻撃の威力を分散せずに集中させるのならば。
俺とリアナの高ぶった気持ちが絡み合い、互いの思考を読まずとも同じ答えを導き出す。
「
こちらのコックピットめがけて伸ばされた敵の手が迫る中、身を捻って手刀を繰り出した。モニターに巨大な敵の腕が迫り、まるで俺自身を掠るような恐怖に襲われる。
右手に装甲を突き破る感覚――俺は吠えた。
「うおおおぉぉぉ!」
赤熱した手刀が白い装甲を溶断する。
眩い火花と共に腕を振り切ると、敵は魂が抜けたようにくずおれた。
◇ ◇ ◇
・ ・
◇ ◇ ◇
「本当に、本当に助かりましたぁ……!」
「あ、あぁ……無事でよかったな」
ミックと名乗った若い男は憔悴しきった顔で俺の手を握る。
俺たちが倒した白い
俺の攻撃はわき腹からみぞおちにかけ、コックピットを避ける形で胴体を削り斬っていた。
こちらとコックピットの位置が同じだとわかっていなければ、ミックを助けられなかっただろう。
俺は近くのがれきに腰を掛ける。
「この遺跡のことをアンタたちに教えたのは誰?」
リアナは睨みつけながら問い詰めた。
「ほ、本当は口止めされてるんスけど――領主様っす。ここの魔物の掃除が依頼で」
「口が軽いわね?」
「助けてもらわなきゃこの口も動かせてないんで……」
ミックは自分の体を見下ろしながら苦笑いする。
「そう。別にアンタから聞いたとか言わないから安心しなさい」
リアナはそう言うとミックから視線を外し、「もういいからどっか行きなさい」と手で追い払った。
「じゃ、じゃあ失礼します!」
「気をつけろよ!」
俺がその場から去る背中に声をかけると、へい! と威勢のいい声が返ってきた。
それを見送ってリアナが俺の隣に座る。
「大丈夫?」
「すまん、厳しい」
ミックは気づかなかったようだが、俺は戦いの直後から強烈な眠気に襲われていた。だがこんなところで寝るわけにもいかない。そう耐えていたのだが、限界のようだ。
「魔力の使い過ぎ。でもこれが限界なわけじゃない。もっと精進しなさい」
隣のリアナに顔を向けると、俺の頬に小さな手が伸びてくる。ひんやりとしたその手を素直に受け入れると、笑顔が返ってきた。
「よくできました。もう大丈夫よ」
その言葉に、俺の緊張の糸がぷつんと切れた。
急速に闇に落ちていく意識の中で、頬に当てられた手の冷たさだけが最後まで残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます