146. 逃げちゃダメ

●●●お知らせ●●●

前話をちょこっと変更しております。大筋は変わらないけど。


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「よかったですわね。結婚できそうで」


 おしとやかに横座りし、冷たいアイスティーを飲みながらレヴィアは言った。

 

 一方、声をかけられたネイは頭を抱えており、めちゃくちゃに困っている様子。

 

「いい訳なかろう……! 言っただろう、カルドの男は好みではないと……!」

「好みとか言ってる場合? 今はまだギリギリいけるでしょうが、三十超えたら十パー、三十五超えたら五パーセント以下という話ですわよ? 結婚できる確率。そうなったら手遅れでなくて?」


 この世界の婚姻率。正式な調査があった訳ではないのでレヴィアの感覚によるものであるが、おおむねそんな感じと言っていい。因みにこれに十歳足せばちょうど日本の年齢別成婚率となる(2022年調べ)。

 

「まあ仕方ないんじゃないかな。ナヨナヨしてるし。ネイが嫌なのも理解できるよ」

「だろう? 分かってるじゃないか純花。リズもそう思うよな?」

「……まあ。家の事より畑仕事がんばってくれる方が嬉しいけど」


 果物を食べながら理解を示す純花と、微妙に機嫌が悪いまま肯定するリズ。相変わらずどこか田舎臭さを感じる発言である。


「ふふふ。確かに外国の人からすれば魅力を感じないかもね。飲み物のお替りは?」

「あっ。ち、父上。決して父上を馬鹿にしている訳では……」

「分かってるよ。好みなんて人それぞれさ」


 台所からやってきたネイの父、ネロが冷茶を注ぎながら苦笑した。「流石父上。母上と違い話が分かる」と安心するネイ。が、レヴィアとしてはヴィットーリアの方がマトモではないか? と思う。


 カルドの価値観を自分に置き換えて考えると、ネイは息子。外国モノの恋愛小説に影響されまくり、「おしとやかな女性が苦手で、自分を守ってくれる姉御肌なハイスペ女が好き」という感じの。しかもそれが原因で行き遅れ。これは見合いさせようとしても仕方ない。仮にレヴィアが親でもそうするだろう。今後が心配すぎるってレベルじゃない。


「けど、ネイも変わったなぁ。女同士で男の子の話をするなんて。昔は“男なんて興味がない”って感じだったのに」

「へ?」

「騎士の道一筋って感じだったからねぇ。アリーナちゃんとは対照的で、男の子にそっけなくて。“それがいい”って人もたくさんいたみたいだけど」


 ネロはフフフと笑いながら続けた。

 

 男に興味がないネイ。どうも想像がつかない上に、王都に来てからそこはかとなく感じる違和感。カルド王国の人物はネイを高潔な騎士と思っているようなのだ。おまけに旅立った理由も『理想の騎士になりたいから』だと聞く。間違いなく『カルドに好みの男がいないから』なのに。頑張って隠していたのだろうか?


 そんな疑問をレヴィアが口に出そうとしていると、先に純花がネロへと顔を向ける。


「あ、そうだ。ええと、ネロさん?」

「ん? スミカちゃん、どうしたんだい?」

「ネロさんって頭いいんだよね? 実は……」


 純花は事情を話した。ルディオスを復活させる事ができるというルディオスオーブを探しているという事を。そしてそれが王家の墳墓にある可能性が高いため、穏便に入る方法がないかを。

 

「ああ、それなら調査隊に入るといい」

「調査隊?」

「墳墓は初代女王が建てたもので、歴史的価値が非常に高い。だから歴史学者たちが調査隊を組んでフィールドワークを行う事があるんだ。当時の事を調べるためにね。で、危険だから護衛をつける。普通は兵士たちが護衛につくんだけど、冒険者が護衛になった例も無くはない。リアに頼めば話は早いんじゃないかな」


 要はコネを利用するという事らしい。その答えに「よかった。何とかなりそうだね」と喜ぶ純花。「流石父上。元学者なだけの事はありますな」と感心するネイ。母親にバレずに父親に相談するというネイの要望はかなえられなかったが、オーブの件だけ考えれば最良の結果だったようだ。

 

「まあ、帰ってきたら話してみるといいよ。駄目とは言わないはずだ」

「うむ。しかし、さっき話しておけばよかった。母上に手間をかけさせてしまう」


 確かにそうだ。王宮に向かったヴィットーリア。その事も頼んでもらえば二度手間にならなかったし、話も早かっただろう。

 

 が、今となっては仕方ない。追いかけても追いつくかは微妙である。レヴィアは頭を切り替え……

 

「よし、なら今日は観光と行きましょうか。純花、出かけますわよ」

「え?」

「砂漠の王国なんてそうそう見れるものじゃないですし。きっと楽しいですわよ。さあさあ」


 レヴィアは立ち上がり、純花の手を引っ張る。純花は「仕方ないな」と苦笑しつつも立ち上がった。続いて「リズとネイも行きます?」と問いかけると、二人も来るようだ。

 

「気分転換にもなるし、案内してやるか……。しかし、王都に入れるだろうか? さっき追い返されたばかりなのだが」

「ああ、待って。それなら……」


 ネロが奥の部屋へと行く。そして筆記用具のようなものを持って戻り、近くにあるローテーブルの上でさらさらと何かを書き、印鑑のようなものを押した。


「門番さんにこれを見せればいいよ。シャリーク家の印を押してるから、恐らくは通してくれるはずだ」

「おお、ありがとう父上。それじゃ行こうか」

「気を付けてね。それと……




 逃げちゃ駄目だよ」




 妙に圧力を感じさせる笑顔でネロは念押しした。

 

 どうやら父は父で娘の行き遅れを気にしているらしい。今までほんわかしていただけに、ちょっぴり恐ろしさを感じさせる笑顔であった。ネイはひくりと口元をひきつらせつつ、冷や汗をかいている。

 

「む、むむむ無論だ。も、元騎士として逃げるような真似はせん。魔王やルディオスオーブの件もある」

「そう。お夕飯は?」

「た、食べる。夜までには戻る、と思う」


 そうして一行はネイの家を出るのであった。

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