葬送師と貴族探偵
水無月せん@つぎラノ2024ノミネート
序章
暗い部屋の中、男が仰向けに横たわっていた。まとっている装束は白一色。顔は土気色で生気はない。囲むように四方に蝋燭が置かれていた。
足元の蝋燭の外側、見下ろすように男が立っている。長い黒髪は後ろの高い位置で束ねていた。衣装は同じ白色。喪の色だ。
男は人差し指と中指を立てて口元に当て、何か唱える。部屋の隅で固唾を飲んで見守る夫婦にその言葉は聞こえない。
蝋燭の炎がゆらゆらと揺れ始めた。
横たわる身体から白い蒸気のようなものが湧き上がり、集まってひとつの塊になろうとしている。
男は指先を勢いよく死体に向けた。
その瞬間、白い塊が像を結び、人の姿となった。
「
夫婦が声をあげて駆け寄る。
抱きつきかねない勢いの母親を、父親が必死に抱えて止めた。蝋燭の内側には入らないようにと事前に強く言われていたのだ。
死体と同じ顔をした幽体は、うつろな目で言葉を発した。
「……寒い、寒い」
「子龍! 聞こえるかい! 母さんだよ! 助けてあげられなくてごめんね」
母親が泣き崩れる。父親も涙をこらえていたが、この状態が長くは続かないと教えられていた。何のために呼んだのか、忘れるわけにはいかない。
「子龍、教えてくれ。役人たちはお前が自ら川に身を投げたのだと決めつけたが、そんなわけはないだろ。試験に受かって官吏になれると喜んでいただろ」
幽体はうつろな目を両親の方へ向ける。
「
「幼なじみの慕白? 会いたいのか? 彼に聞けば何かわかるのか?」
「……慕白は、どうして……」
幽体がゆらりと揺れる。
蝋燭の炎の最後の瞬きのように。
「どうして、私を突き落としたんだろう……」
母親が目を見開いた。
父親は口を開けたまま硬直する。
大きく揺れてから、幽体は跡形もなく四散した。
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