第6
出張明けだったからか、二日間は休みだと言って敦志は家にいた。
私は産婦人科に定期検診に行かないといけなくて、夫はいつもなら着いてきてくれるのに、疲れたから無理だと言われた。それは仕方ないし、構わない。
「お昼用意出来なくてごめんね」
「いいぜ、適当に済ますから気にすんな」
そう言ってソファにドカッと横になってスマホで動画を見出した。いつもなら気にも止めない行為だけれど、私はビクリと心臓が跳ねた。
そして相変わらず見送りの行ってらっしゃいはない。
昨日は久しぶりに抱かれた。
禁欲していたのか、敦志は燃えていた。
口に猿轡をされ、頭がおかしくなるくらいイかされたけど、どうも心と身体が晴れない。
『ぎぃやぁぁぁあああ──』
あの声が、猿轡をされた私の代わりに叫んでいるように残響して、耳の奥に共鳴を残してしてきて、例え気持ちよくても心から一時たりとも離れなかった。
怖いけど、やっぱりもう一度確認したい。
◆
あれから二日後。
朝、敦志を見送り、虹歌と遊び、お掃除しながらケースを取り出そうと手を伸ばした。
でも、そこにはもうそれはなくなっていた。
「嘘…どこにもない……?」
探しても探しても見つからない。まさかと思ってゴミの収集所に行ってみたけど、もう回収されていた。
荒ゴミの日はまだ。もしかしてリサイクルショップに? でも虹歌を連れて行くには準備がいるし、仮にそうだとしても、もうデータは消されてるだろう。
「はぁ…」
あれは…何だったのかしら…潤くんのスマホには違いないけど、どうしようも出来ない。
色の濃い不安が、頭と心から少しも離れない。
とりあえずお外に散歩に行こうかしら…
◆
公園で虹歌と遊んでから、重い足取りのまま帰宅していた。
時刻はお昼を過ぎたあたり。
虹歌はお昼を食べずに抱っこ紐で寝てしまった。
「仕方ないか…」
今日はどこか抜けている。お昼はお弁当にしよう。虹歌をベッドに寝かせてから少しの間出ることにした。
お弁当屋さんで適当に買って家路につく。そしてマンションのオートロックを開けた時だった。
背中に何か固いものが押し当てられた。
「ひっ?!」
「黙れ。そのまま進め」
どうやら男の人で、わたしを脅している。ぼーっとしていたせいで、気づきもしなかった。背中のものは、何だろうか。銃だろうか。
怖い。怖いけど抵抗出来ない。
「あ、あの…」
「誰も殺さねーよ」
私の感情を読み取ったのか、そんなことを男は言った。殺す…確かに想像したけれど、それより何か抵抗する気を失わせる声色だった。掠れてはいるし、くぐもっているから分かりづらいけれど、腹の底に響くような不思議な音に聞こえた。
「…開けろ」
「…は、はい」
私は言われた通りにお家の鍵を開け、リビングまで歩く。
そしてテーブルにお弁当を置いた瞬間、唐突に服を掴まれた。
「い、いや!!」
「黙れ。脱げ」
「な、なにを言って…! ひっ?!」
振り返ろうとしたら、目の前にナイフを差し出してきた。
「早くしろ。子供……居るんだろ?」
「ッ、わ、わかったわ…」
虹歌に目を向けられたら、どんな目に遭わされるかわからない。
怖いけど、従うしか…
シャツのボタンが震えて上手く外せない。なるだけ時間をかけてみるけど、良い案は浮かばない。スカートを脱ぎ終え、遂に靴下と下着姿になってしまった。
Tバックのショーツが男に見られる恥ずかしさより恐怖のほうが鋭い。
あなた、助けて…!
「脱げ」
「こ、こんなの犯罪よ! ひっ!?」
顔だけ振り向きながらそう言うと、またナイフを突きつけられた。
言われるがまま、大人しく脱いだ。朝から考え事をしていたせいか、そういえば母乳が溢れそうになっていて辛いことを今更思い出した。
重量に垂れたおっぱいが辛い。それを右腕で支え、股をキツく閉じ、お尻は左手で隠した。
「手をあげろ…こっちを向け」
全て脱ぐと、恥ずかしさより恐怖のみが支配していた。とてもじゃないけど、顔を上げることができそうにない。
視界には犯人の足元、それと私の真っ白で大きなおっぱい。これをこいつは見たかったのだろうか。
でも犯罪者を覚えないと。そうして目線をあげると見知った人がいた。帽子をいつの間にか脱いでいて、だからそれがわかった。
そこには幼馴染がいた。
「……じ、潤…く、ん…?」
「…へえ、俺のこと覚えてんのか」
「覚えてって……当たり前じゃない…!」
久しぶりに見た幼馴染の潤くんは、とてもじゃないけど、昔の印象が消えていた。それより、これは逆恨みなのか、何なのか。
意味がわからない。
「動くな。隠すな」
「っ!?」
いつの間にか、机にはスマホがセットされていて撮られていた。潤くんがこんなことするなんて…とてもじゃないけど、信じられない。ショックで力が入らない。
「なあ、何のつもりだ?」
「……は? そ、それは私の方でしょ──いたっ?!」
またナイフを向けられ、今度は胸を鷲掴みにされた。痛い。母乳が少し溢れて潤くんの手の甲に流れると、潤くんは手を引っ込めた。
あの優しかった目元はギラついていて、口は悪魔みたいに開いていて、口調はまるで別人になっていた。
そして話が通じなかった。
「なあ、お前も知ってんだろ? やっと立ち直ったのに、また邪魔すんのか? なあ!!」
「え? 何の話を──い、いや、やめて!? やめてよ潤くん?!」
「はは! 叫べよ! 叫べばいいだろ! 俺みたいにさぁ!」
そう言って、潤くんは襲ってきた。
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