Decision

ザイン

第1章 始まり

「行ってきます。」


一人の青年は住み慣れた小さな山小屋を出ていった。降りしきる大粒の雨の中を一歩一歩ゆっくりとした足取りで、シルクでできた服装に小さなリュックを背負い、剣を腰に備えている。そして、一際輝く黄金の指輪・・・。彼はどこへいくのであろうか?少なくともポケットに忍び込む一匹のハムスターと山小屋からどこか心配そうに青年を見つめる一人の老人は目的を知っているのだろう。その青年の顔は太陽のような優しい笑顔と何かをする覚悟を決めた真っ直ぐで力強い瞳をしていた。


 青年が山を下りて数日が立った。咽かな草原に天候はガラリと変わり、静かな風がなびいていた。大きな丸太に腰を掛け、ハムスターのピケに餌を与えていた。


「出たな化け物!!」


声のする方向へ向かうと小さな村があり、一人の少年が不気味な色をした生物と対峙していた。


「タケル!やめなさい!!逃げるよ!!!」


少年の母親なのだろう、必死に不気味な色をした生物と対峙する少年に声がけをする。「母さん!オレはもうこいつを許せない!!毎回毎回オレたちの村を滅茶苦茶にしやがって、うおー」


少年は斧を持って不気味な色をした生物に挑んだが、ビクともしなかった。不気味な色をした生物は虫けらを見るように少年を見下し鋭い爪を振り下ろす


「あっ!あああ~」


「タケル~」


「伏せろ!」少年が謎の声に従い伏せると剣で鋭い爪を防ぐ青年の姿があった。


「あんたは?」


「話しはあとだ、ここから離れろ!!」少年達はその場から少し離れた。


「お前の力貰うぜ。」


青年がそういうと剣は光輝きそしてやがて不気味な色をした生物と同じ色の輝きに変わった。


「はぁぁぁー!!」青年が剣を振り抜くと不気味な色をした生物は真っ二つになり消滅した。同時に剣は元の普通の剣に戻った。


「助かったよ!ありがとう!!」


少年は青年に手を差し出した


「大したことはしてないよ。」


「あんたのおかげでオレたちは助かったんだ!十分たいしたことだよ。あんた旅人か?」


「あっ、あぁ・・・」


「なら今晩オレの家に泊まってけよ、お礼したいし」


「ありがとう。けど急いでるからね、そこまでしなくて・・・」


「キュゥン」ポケットに身を隠していたピケが顔を見せ愛くるしい表情を魅せる。


「いや・・・、お言葉に甘えさせてもらうよ。」


「そうこなくっちゃ!!」その日の夜、村ぐるみでその青年に感謝する宴を開いた。「名前なんていうんだ?」


大きな焚火を物思いに見つめる青年にタケルは声を掛けた。


「俺はアラン。タケルだったよな?」


「そうだぜ!タケルってんだ!よろしく。アランはどこから来たんだ?」


「俺はアンティゴ山から数日前に下りて来たんだ。」


「なんでそんな山奥から下りて来たんだ?」


すると少し間が空き、


「この世界に蔓延してしまった魔物を駆逐するために・・・」


タケルは息を飲んだ。アランの表情から先程までの笑みが消え、激しい憎悪を感じ取ったからだ。


「そっ、そうなのか・・・。オレ手伝うぜ!」


「えっ!?」


「オレもあの化け物どもをやっつけて、皆が安心して暮らせる世界を見たいんだ!今はまだ、無力かもしれねーけどさ頼むよ!仲間がいた方がいろいろと良いことあるだろうし。」


アランは少し考えピケを見た。ピケはタケルの肩に乗っかった。


「・・・わかった。ならタケル!明日の朝には出発する。」


「よし、わかった!」


こうして、アランは初めて仲間を見つけた。


 早朝、初めての仲間タケルを連れて、タケルの住んでいた「ポポの村」を後にした。


「いいのか?お前の母さん泣いてたぞ。」


「大丈夫だ母ちゃんはわかってくれるさ、オレの夢についても応援してくれているし。」


「夢?」


「あぁ!立派な騎士になるんだ。あの『聖騎士団』の総帥になれるような立派な騎士に!」


「『聖騎士団』?」


「なんだアラン知らないのか?」


「あっ、あぁ・・・」


「『聖騎士団』って言ったらかつてこの『コバレル大陸』を治めたっていう『レオパルド王国』の選ばれし騎士のみが所属することを許された精鋭部隊だぜ。」


「そうなのか・・・、あんな山の奥で暮らしているとなかなか都市の情報が入ってこなくてな、」


「ずっとあの山なのか?」


「いや、幼少の頃はある都市に住んでいたと祖父から聞いている。」


「両親はいないのか?」


「誰か~助けてくれ~」「!?」


どこからか、叫び声が聞こえた。声のする方に行くといかにも悍ましい姿に身を包んだ女が女性と子供達を人質にその女性の夫と思われる人を脅迫していた。


「さぁ、さっき言った条件を飲むか貴方の大切な家族を目の前で消されるか、二つに一つよ。」


女はそう言って女性に刃物を突き付ける。


「やめろ~」


アランは憎悪に駆られた表情で女に斬りかかる。女は手を離し解放された女性達をタケルが保護した。


「チッ、邪魔が入ったか・・・」


女は黒い霧と共に姿を消した。


「ありがとうございます。」助け出された家族は何度も何度の頭を下げた。


「あの女が言っていた条件とは?」アランの尋ねている顔に子供達は怯えていた。


「実は・・・、アドラス卿を殺せと・・・」


「アドラス卿!?」


「アドラス卿って『聖都マリクリシア』のあのアドラス卿のことですか?!」


「そうです。あのお方をお助けください時間がないんです!近くに私たちの馬車があるので『聖都マリクリシア』まで送りますので・・・」


「いや、『ターパン』までお願いします。」


「『ターパン』ですか?でも・・・」


「大丈夫、彼ならきっと・・・」


「・・・わかりました。では急ぎましょう。」


馬車の中、タケルはアランに対して色々と疑問を抱いていた。


「なあアラン、お前、アドラス卿と知り合いなのか?」


「いや、聖都を治めるような人がそう簡単に殺されないと思っただけさ。あと俺の計画を遂行するためには『ターパン』でやらなければならないことがある。正確には祖父のだけどな・・・」


「そうなのか・・・」


「それと。」


「それと?」


「さっきの両親の話しだが、幼少の頃に両親は亡くなった。姉と妹がいたが行方知れずだ。」


「・・・」


タケルは察した。アランのあの時の表情の真相を・・・。


 「着きました。」


あれから半日くらいだろう、コバレル大陸でも有数の都市である。「花の都ターパン」についた。その名の通りここは、花の咲き誇る緑豊かな都市であり、また様々な職業の重要拠点があることから別名「職の都」とも呼ばれている。


「本当にありがとうございました。」


深々と礼おして助け出した家族は馬車で去った。


「これからどうするの?」


馬車での会話以来なかなか口を訊かずにいたタケルは恐る恐る質問する


「まずは、ギルドに行って有志の対魔物討伐部隊を結成する。」


「義勇軍を結成するのか!!」


「義勇軍・・・悪くない名前だ!」


「えっ、義勇軍はそうゆう有志の戦闘集団を呼ぶ一種の名称で・・・」


「決めた!!部隊の名前は『義勇軍』だ!」


「わっ、わかった。」


タケルはアランが普段の優しい笑顔になっていたことに安心しどうでもよくなった。「義勇軍の拠点はここから始めるぞタケル!!」


アランがそう言って指さしたのは、ターパンにあるギルドでも一番巨大なギルド「アースショウト」かつて、レオパルド王国国王の側近の中でも最も信頼された五人の人物「五傑星」の一人に選ばれた。「豪傑ジングス」がギルド長を務める場所である。タケルは不安だった。噂によれば「アースショウト」で戦闘集団系のチームを結成する場合。ギルド長であるジングス本人と勝負し勝って認められないといけないと聞いていたからだ。挑んで負け身体が使い物にならなくなったり死んだ人もいるという。そんなギルドでチームを結成しようと言うのだから不安にもなる。そんな不安を余所に


「ジングスはいるかー」


堂々とアランは建物へ入っていった。建物内から放たれる異様な空気と冷たい視線


「誰だオレの名前を呼んだやつは・・・」


右目に眼帯をした身体中に戦いの傷のある筋肉質な男が図太い声で返事をした。


「俺はアラン。このギルドで義勇軍を結成しに来た。」


「アラン・・・」彼の名前にジングスは微かに反応した。


「ほう、義勇軍を・・・今メンバーは?」


「俺とこのタケルの二人だ!」


「おいおい、二人で義勇軍を名乗るとは、戦いを馬鹿にしてんのか?」


「これから増やす!」以外にアランって計画性がないなと横目に見るタケル。


「おい!そこのガキ!!」ジングスの視線がタケルに向けられる。


「ハッ、ハイ!」


「お前は覚悟できてんのか?」


「!!」


タケルは悩んだ。アランに付いて来たものの戦いなどまともにやったことがなく、町外れの小さな村の少年にしか過ぎないことをタケルは理解していた。


「あたりめーだ!腹括らずに義勇軍なんて名乗るかよ!!」


明らかな虚勢であった。建物の中が静まりかえる。


「・・・いいだろう。だがな、俺より弱いヤツにここの看板を背負わせる訳にはいかねー」


ジングスは年季の入った斧を持ち出し


「俺に勝ったらこのアースショウトでの義勇軍の活動を認めてやる。」


「上等」アランが剣を抜く


「魔物が出たぞ~!!」建物の外が騒がしくなる。


「至急、魔物の進行を食い止めろ!!」


ジングスの素早い指示でギルドのメンバーが武器を持ち駆け出した。


「お前ら!!」ジングスが二人を呼び止める。


「丁度良い、俺が納得のいく戦果を挙げてみせろ!そうすれば、メンバーとして認めてやる。」


「行くぞタケル!!」


二人が外に飛び出すとあたりではおびただしい数の魔物が暴れていた。次々と薙ぎ倒すアランと少量ではあるが確実に倒していくタケル。


「キャー」少女の悲鳴が鳴り響く、


二人が向かうと少女とあの悍ましい姿をした女が対峙していた。


「てめー」一目散に斬りかかるアランが避けられる。


「大丈夫か?」


「ありがとうございます。」なびく長髪と澄んだ青い瞳に一瞬、心を奪われるアラン。「お前はあの時のガキか」女の声で正気を取り戻したアラン


「タケル!この娘を安全な場所へ」


「おう!任せろ」


対峙する二人


「今度は仕留める。」


「童をその辺の魔物と一緒にするな!あの時の借り返させてもらう」


激しい斬撃が飛び交うしかし徐々にアランが押されていく。


「キーン」アランの剣が後ろに飛ぶ。


「もらったー」


その隙を見逃がさずとどめを刺しにかかる女


「ダメー!!」


少女が叫んだ瞬間。首にぶら下げた蒼い宝石が輝き出した。その途端、少女は今までにない存在感を魅せ出した。その姿に驚きを隠せない周囲、


「未来を照らせ!ホーリー・ノバ!!」


少女が前に出した右腕から真っ白い光の衝撃波が放たれ女を襲う


「ちぃ、あの女~」


身体に大きな怪我を負った女は三人を鋭い目つきで睨みつけ


「このアフロディア其方等を必ず仕留めてやるから覚悟しておけ!」


前回同様黒い霧で姿を消した。それと同時に気を失う少女。


「おい、大丈夫か?おい!」


荒れた町の中でアランの声が響き渡った。


 (お嬢様。コバレル大陸にあるレオパルド王国の国王をお頼りください!あの方なら我々を助けに来てくださるはずです。それまでは必ず私がお父上を・・・)


「お父様、お母様・・・」


一滴の涙と共に少女は目を覚ました。心配そうに彼女を見つめる二人の若者と一匹のハムスター。


「大丈夫か?」凛とした若者が声をかける。


「大丈夫です。ありがとうございます。」


「俺はアラン。さっきは助かったよ。ありがとう。」


「いえ・・・私はなにも・・・」


「いやいや凄かったぜ!あんた!!」元気の有り余っていそうなもう一人の若者が目を輝かせ話し出す


「オレはタケル!君は?」


「申し遅れました、私はミーナです。」


「キュッキュッ!!」


「あのこのハムスターは?」


「こいつはピケ。アランの大事な友達なんだって。」タケルが嬉しそうに話す。


「お嬢ちゃん目を覚ましたか?」


身体中キズだらけの強面のオジサンが話しかける


「はっ、はい」


「そんなにビビんなよ、俺はジングス。このアースショウトのギルド長をやってる。」「あの五傑星の!?お願いです。レオパルド国王に会わせて下さい!!」


驚く一同。


「どっ、どうしたんだお嬢ちゃん?」


「あのお方なら助けて下さるはずだと・・・」


「・・・残念ながらそいつは無理だお嬢ちゃん。」


「レオパルド王国はもう崩壊し国王は亡くなってる。レオパルド王家も黒王の手によってな・・・」


「そ・そんな・・・。黒王とは?」


「あぁ、コバレル大陸に現れた魔物達を操っているボスだ。元々はレオパルド王国の王都『テンペスト』を支配しそこにいる。この写真の男がその黒王だ。」


「!?」


「どうしたお嬢ちゃん?」


「いっ・いえ・・・」


「おっさん!!」


突然、大声を出したアランにギルド内が凍りつく。


「彼女、混乱してんだろもうよせよ!」


「・・・てめぇ、身分ってもんを・・・」


「それより俺達は認められたのか?」


「あぁ?あぁ・・・。戦いの一部を観させてもらった。まだまだ未熟なことばかりだが、あのアフロディアとあそこまでやりあった点も含めお前らの義勇軍としての活動をこのギルドで認めてやる。」


「よっしゃー!!」喜ぶ二人。


「ただしだ!」


「!?」


「そのミーナって娘を含めてだ。」


「えっ。」動揺するミーナに


「俺達は大歓迎だ!どうだミーナ、俺達と一緒に戦わないか?」


眩しい笑顔で語りかけるアラン。少し考え込み。


「はい。ぜひ私もその義勇軍の活動に参加させてください。」


「おっし!アラン、タケル、そしてミーナ!三人での義勇軍としての活動を正式に認める!!!」


こうして、アラン・タケル・ミーナの三人によって義勇軍の活動が始まるのであった。

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