第47話:罪の在処02
「質料が無ければ形相は絵に描いた餅だ。である以上、どういった形かで母さんのレッテルを維持する必要が出てくる。魂とはそもなんだ?」
「唯物論が全てじゃ無いぞ?」
「けれど精神だって脳のシナプスマップの副産物だろ?」
「……そうではあるがな」
「脳を持たないのにどうやって意識を保っているんだ。仏になるんだろう? ならば何処かで意識の根幹を得る必要があるはずだ。仮に形而上的な魂とやらが意識を持つのなら、植物人間になる患者なんて云うのは有り得ないんじゃないか? 脳が欠損しても魂が思考を肩代わりするなら、そもそも脳溢血も脳挫傷もこの際問題にならんだろ」
「それは……そうだが……」
父親は困惑するように頭を掻いた。
「金也は母さんが嫌いなのか?」
「否定しているつもりは無いよ。むしろ逆。母さんの今の立場を正確に理解したいがために勉強しているところ」
死とは何か?
生まれたときから俺について回る思想だ。
「母さんが今どこに居るのか? 母さんは今幸せなのか? 母さんはこちらを観測出来ているのか? どう思う?」
「あんまり難しく考える必要も無いだろう?」
「自殺する気は全く無いが……仮にひょんなことで死ぬことになったら俺は母さんに出会えるのか?」
「きっとな」
「母さんは俺が老衰するまで極楽浄土で待っていてくれるかね?」
「きっとな」
クシャッと父親が俺の頭を撫でた。
「そしたら聞けるな」
「何をだ?」
「秘密だ」
「母さんに会いたいのか?」
「無論」
何を思って死んだのか?
俺の存在を産むことが命を賭けるに足るものか?
仮に死後、母さんに出会えるのならソレを聞くことが出来る。であれば俺にとって死への渇望は一種のアイデンティティだ。死んで尚意識があって、その上で魂が成仏するとのことなら安寧の中で俺は母さんと出会うことが出来る。
そう言うと、
「そっか」
父親は朗らかに笑った。
「母さんはきっとあの世からお前のことを見守ってくれているよ。だからあんまり母さんに心配をかけるんじゃないぞ。お前が母さんを想うなら、生を謳歌することこそあの世の母さんに対する一番の祈りだ」
「ふぅん?」
そういう考えもあるのか。
「あんまり難しく小賢しく考える必要は無い。骨と魂に祈って良しとしろよ」
無茶言うな。
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