第37話:涙の意味04
「顔に惚れたんだろ?」
「あたしは金ちゃんに助けられた」
「私は兄さんに救われました」
「何かしたっけか?」
覚えが無いのだが。
「そういうところが素敵だよ」
「ですね」
どうやら朱美と鏡花は共通の見解を持っているらしかった。
「金也ちゃんは優しいね」
クスクスとフレイヤが笑う。
「かね」
俺には何を指しているのか分からんが。
「けど蓼食う虫なのは分からんでもないがな」
「兄さんはまたそういう」
「金ちゃん。それは不遜だよ?」
「金也ちゃんかーわいっ!」
かしまし娘にチヤホヤチヤホヤ。
「はぁ」
嘆息する他なかった。で、乙女解放同盟のシュプレヒコールに後ろ髪を引っ張られながら俺たちは昇降口へと向かう。靴箱の扉に手をかけると、
「…………」
出血した。
「?」
人差し指を切っていた。血が滴る。見れば靴箱にカミソリが仕込んであった。
「そうなるわな」
嫉妬と侮蔑を一身に受ければ悪意も形と為る。これはその典型例。
「どうしました兄さん?」
「指を切った」
「っ!」
血の流れる人差し指を見せると鏡花は絶句した。
「どうしたんです……!」
「イジメって奴?」
「誰が!」
「監視カメラに聞いてくれ。俺は知らん」
そして俺は保健室へと向かった。上履きに履き替えてな。
「お前らは教室に行けよ」
そういう俺に、
「嫌」
かしまし娘は信条一致させる。
――恋のライバルであれど俺を想う気持ちは一つ……か。
ついそんな自惚れを思ってしまう。事実には違いないとしても。
それから保健室で切った指に絆創膏を貼って貰い、即会議となった。
「誰がやったかは……」
「こっちで調べるよ」
朱美の言葉にフレイヤが応える。監視カメラの確認程度なら誰でも出来るだろう。
「とりあえず犯人は分かり次第制裁だね」
「あんまり前のめりになるなよ」
俺が諭す。
「金也ちゃんを虐める輩は親として許しておけない!」
その熱意は他に向けられんかね?
「そんなわけで後はお願い」
フレイヤは自身の使用人たちにイジメの実行犯の確認を命令するのだった。たかがイジメ。されどイジメ。子どもを持たない俺にはわかり難いが子を虐められた親はフレイヤのようになるのだろうか?
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