第31話:乙女心の行く先は11


「フレイヤ!」


「フレイヤ!」


「何よ?」


「おっぱいでの誘惑禁止!」


「以下同文!」


「嫉妬?」


「するよ!」


「だよ!」


「愛されてるねぇ金也ちゃん?」


「いいから離れろ」


「何気ない親子のスキンシップじゃん」


「そう云うのは父親とやれ」


「鉄ちゃんはもう妻が居るし」


「お前も元人妻だろ」


「人妻に興奮するの?」


「離れろって言ったのが聞こえなかったのか……」


「はいはーい」


 そしてフレイヤは俺から離れた。


「兄さん!」


「金ちゃん!」


 言いたいことは分かってる。


「勘弁」


 俺は追い詰められた犯人のようにハンズアップ。正直なところ嫉妬されるのももう慣れた。乙女解放同盟の件もあるしな。


「今は文化祭のことだろ?」


「むむ」


「むぅ」


「金也ちゃんは何色の生地がいい?」


「四人で違うメイド服を作るのか?」


「そっちの方が華やかでしょ?」


 さもあらんが。


「黒とかあるか?」


「あるけど」


 あるのかよ。黒いメイド服。他の色より俺に適切だ。


「でも重たくない?」


「重たいくらいで丁度いい」


 俺のパーソナルカラーだ。


「ふぅん?」


 フレイヤが何を思ったかは俺も知らん。


「じゃあ鏡花ちゃんと朱美ちゃんは?」


「後で生地を選びます」


「以下同文」


「ま、それならそれでいっか」


 ポヤッと納得するフレイヤだった。


 ……何を納得したんだ。俺には不明である。


「とりあえずは裁断だね。その前に採寸か」


「本当に俺までメイドコス?」


「本気も本気だけど?」


 まっことブレない奴である。イニシアチブを取られっぱなしだ。


「執事服じゃ駄目なのか?」


「メイド喫茶だから」


「そこに融通を利かせてだな――」


「だぁめ」


 ふに、と俺の鼻を人差し指で押すフレイヤ。


「むぅ」


「せっかくのお祭りなんだから楽しまないとね」


「俺が楽しくないんだが……」


「百聞は一見にしかず。百見は一験にしかず。何事も体験だよ」


「単なる罰ゲームの気もするが……」


「心の持ちようと光の当て方で精神性は真逆の回答を示すんだ。だから金也ちゃんもそんな心意気を持って欲しいな」


 良いこと言ってるつもりか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る