第4話:母が訪ねて三千里04
神鳴市。
俺たちの住む某都にある市だ。某都にしては田舎臭が漂い交通機関以外では隔離された土地。とはいえ、地主の発言力が高く中央の都市部は開発されて都会となっている。俺たちの住む高級住宅街も此処に含まれる。ショッピングモールや豪奢な市立図書館も近場にあり娯楽には困らない。俺たちの通う都立鶏冠高校も近くにあるため俺たちは歩いて登校できるのだった。
「兄さん」
「金ちゃん」
そんな鶏冠高校への道を二人の美少女を引き連れて歩くのだ。男子からは憧憬と嫉妬の視線を、女子からは軽蔑と胡乱げな視線を、それぞれ刺される。おかげで俺は友達を持ったことが無い。俺に近づく人間を彼女たちが威嚇して遠ざけるからだ。そして今二人は俺の腕に抱きついて愛情表現の真っ最中。
歩きながら器用なことだ。こっちは気疲れしかしない。
校門を潜って校内に入ると、
「鐵金也ー!」
拡声器で朗々と声が響いた。
「はいはい」
いつものことなのでスルーする。
「我々は乙女解放同盟の者であるー! 鏡花さんと朱美さんを惑わす行為の全面撤廃を求める有志であるー!」
「毎朝飽きませんね」
鏡花は軽蔑の視線でソレを見た。
「王様の耳はロバの耳と叫べればストレスが発散できるんだろ」
気にするこっちゃない。
「あたしが金ちゃんを好きで何が悪いの?」
朱美は心底不満げだ。
「お前らの趣味の悪さが根幹だろ」
「兄さんは世界で一番格好良いですから」
「だね。それは鏡花に同意」
それを以て趣味が悪いんだが「乙女心には通じんか……」心で漏らして俺は嘆息する。
「そもそも貴様はー!」
乙女解放同盟の有志たちは俺への弾劾のシュプレヒコールを止めなかった。知ったことでもないにしても。乙女解放同盟の演説をスルーして昇降口に入る。内履きに履き替えて鏡花と朱美を見やると渋い顔をしていた。
さもあらん。
鶏冠高校の名物美少女二人だ。コミュニケーションを取りたい輩は幾らでもいる。スマホのラインIDを付箋にして想い人の靴箱に貼り付けるのは鶏冠高校の娯楽の一つだった。
で、いつもの通り。
「はぁ」
「まったく」
二人はペタペタ貼られた付箋を全て毟って昇降口に接する通路に置かれているゴミ箱に捨てる。とにかく俺以外に興味の無い二人であるからこれは必然だ。陰から見ている男子たちはあからさまに肩を落としていた。
ご愁傷様。
「たまには返信してみるのもいいんじゃないか?」
「冗談でしょう」
「有り得ない」
そうなるよな。それがこの二人の業だ。ちなみに二人には非公式のファンクラブまである始末だ。盗撮写真の金銭取引は当たり前。中には彼女たちを想って詩を綴る生徒までいるとか。……俺は噂程度にしか知らないとして。
「新学期です。兄さんよろしくお願いします」
「二学期だよ。よろしくね?」
気持ちはわからんじゃない。新学期早々にイベントもある事だしな。それから俺らは仲睦まじく同じ教室に入って隣り合う席に座った。
教室は縦に五列、横に六列の計三十人の配置だ。
俺は縦五列の中央で、横六列の一番前。
つまり教卓の目の前。
基本的に席は月一くじで決められるが、面倒なので眼も悪くないのに教卓の前の席を陣取っていた。その左右には鏡花と朱美。右が鏡花で、左が朱美。横六列の最前で、縦五列の俺の隣。
「兄さん」
「金ちゃん」
嬉しそうに四方山話をして時間を潰す俺らだった。夏休みが終わって最初の過程。二学期最初は始業式に相違ない。担任が出欠を取った後体育館へ。長々とした教員の話を聞き流し、俺らは再度教室に戻る。後はホームルームだ。
「あー……」
と担任が間を取って、
「転校生を紹介する」
と云った。珍しいが驚くことでも無い。新学期ならばそういうこともあるだろう。どんなに低確率でも宝くじは誰かに当たる。で、ある以上全国の転校生……その内の一人が俺らの教室に現れるのも特筆すべきことじゃ無い。
そう思っていた。
さっきまで。
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