第3話 『サスペリア』の美しさ
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こんにちは。ようこそお越しいただきました。
ここはダラダラと映画のイメージを述べていくエッセイです。大抵映画の感想ですらない。
さて、映画エッセイ流れ第3弾は「サスペリア」です。ダリオ・アルジェントのリクエストを頂きました。やはり代表作はサスペリアかなと思う。
サスペリアを見てないとしても、誰しもサスペリアのテーマの音響は聞いたことがあるはずだ。『サスペリアのテーマ〜死のワルツ』っていうGoblinというアーティストの曲なのですが、オルゴール感のある短調な曲でとてもエモい。
1.サスペリアの美しさ
サスペリアは1970年代にアルジェント監督が描いたイタリアンホラーだ。この監督は直感というか感覚派というか、フィーリングで描いて物語の整合性を重視しないタイプ。論文より詩が得意な感じ?
そうだなぁ。誤解を恐れずにいうとサスペリアというのは美術的なエロ。しかも百合系のエロ。大人のエロ童話。
この映画の空気感はすごい。
この作品の何が魂を揺さぶるのかというと、圧倒的な世界観をクリエイトしているところだと思う。
閉じた少女の世界を中心とした統一的な色彩、音楽、光と闇、少女特有のゆらぎと不確かさ、そういったものが綺麗にパッケージングされている。美少女、鮮血、惨劇、そんなパッケージング。閉じすぎてて外から入る隙間はない。
でもそこをこじ開ける毛むくじゃらの腕に会ったばかりの友人をナイフで何度も刺し貫かせ、友人は無残にも息絶える。まあうん、はい。これってそういう意味だよね。もう。
隠喩か暗喩か直喩かはさておき、結局少女たちの秘密は暴かれてしまうのだ。
とりあえずあらすじ。
スージー(主人公)はアメリカからドイツの名門バレエ学校フライブルク学院に入学するために空港を降り立つ。ドアを開けるとそこは雨、タクシーもなかなかつかまらない。ようやく捕まったタクシーに乗り込み、真っ赤な学院へ向かった。
これ、あらすじか? と思われるかもしれない。
でもあらすじが何かと考えた時、その作品のエッセンス紹介だと思うので、この作品についてはこれで問題ないだろう。内容的には冒頭も冒頭なんだけど、サスペリアはこの最初の不安定な情感が最後までパッケージングされている。だからあらすじとしてはこれでいい。ストーリーなんておまけです。
アルジェント監督の作品が面白いかどうかは、感性があうあわないの部分が結構大きいと思う。映画というよりは総合芸術というイメージだけど、監督の芸術性に波長が合えば世界観に取り込まれるし、そうでなければ何だかもやもやした煮え切らない半端スプラッタ。ほんと煮え切らない。
芸術性はさておき面白いかどうかはその辺で評価は別れる作品だし、監督だと思う。
それでは波長をあわせるとどんな世界が展開されているのか、というところを重点に書いてみる。
前述のサスペリアの世界観は閉じた少女世界もの。女子高とかサナトリウムとかそういう系? それで秘密の扉のなかで美少女がキャッキャウフフする奴。
で、そういう閉じた関係やら世界観というのは外からくるものを強く排除する傾向がある。身内に対する強固な同調圧力と異物に対する強烈な生理的嫌悪と不快感。
で、その異物に対してはどこまでも残酷になれてしまうという少女感。
このある意味女子的な感覚がわかる人ほど物語に恐怖を感じるし、共感するんだと思う。自分は文意的には理解できなくもないのだが、感覚としてはよくわからないというのが正直なところか。恐ろしくて近寄りたくないですぅ。ロリでもショタでもないですし。
それでその世界を染め上げるのが音楽と色彩。
一番最初はGoblinの不安感をあおるプログレという聴覚情報から世界に飲み込まれる。次に襲ってくるのは視覚。色彩のvividさ。赤い。学校の壁が赤い。目がちかちかするレベルで随所に登場する赤や青。しかもそもそも素材が赤かったり照明で赤くしたりと各方面から攻めてくる。青もあるけど赤が強い。胸やけするレベル。
ということで、サスペリアは音と色という感覚から精神汚染してくる映画だ。
以上のとおり、この映画にどっぷりつかるには
①少女的世界への理解
②五感への耐性の低さ
が必要と思う。
自分は①はピンとこないけれどもわりと気分屋なとこがあるので、②の方で浸かることがある。見るときによってどっちに感じるかは結構違ったりする。ここに共感できないと正直つまらない。ノリきれないとひたすら安っぽくバタ臭く、なんで主人公こんなに眠そうなのとかアホじゃないのとかそういう感想に傾いてしまいがち↘。
サスペリアは感性とか波長の話なので、話がこれ以上膨らまない。
強いていえばゴア表現は少し特殊かもしれない。虫が出てくるけどあれは監督が虫が好きなだけだと思う。どうしても入れたかったんだろう。
んん、なんだかデヴィッド・クローネンバーグでエッセイ書きたくなってきた。自分の書いてる小説はクローネンバーグ視点感が強いかもしれない(謎の宣伝)。
2.2つのダリオ・アルジェント
ちょっと方向性を変えてみる。
アルジェント監督の作風には2種類ある。
1つはサスペリアのようなオカルトもの、もう2つはいわゆるジャーロ(犯罪)ものと分類されるサスペンススリラーだ。
それでサスペリアには邦題的に『パート2』があるんだけれど、1とは基本別物です。というか2は1より以前に撮影されて、日本では1がうけたから2ってつけて公開されたというタイトル的に残念なやつ。それに1がオカルトというなら2はジャーロもの、つまりサスペンススリラーでジャンルも違う。
それぞれ期待する方向性が違うから、タイトルは別々にした方が良かったようにも思うんだ。けれどもダリオ・アルジェント監督作品は次が確実に売れるのかというとなんだか悩ましい気もするので営業的には致し方がないのかも。
自分は正直好みとしては1より2なのです。
1と同じく赤が多用されていて鮮烈な死体描写がある。怖いというよりどこか芸術的ですらある(でも耽美とは違うような)。その色彩感覚は健在で、これに加えて小物づかいが非常にうまい。作品全体に散らばるトリックのヒントにあふれていて、純粋に面白いです。
推理が論理じゃないところも含めて色々とエンターテインメントを構築してる感じ。サスペンスなのて物語の整合性は比較的重視されている。
で、このパート2とは別にサスペリア三部作というのがある。こちらはオカルト方面で繋がってるので、サスペリア2よりサスペリアと親和性が高い。
3.サスペリア三部作
サスペリア三部作の残り2作は『インフェルノ 』と『サスペリアテルザ』。残念ながらインフェルノのほうは見てないからサスペリアテルザの話をするね。すみません。
えーと、正直なところ自分の好みではなかった。
サスペリアテルザはサスペリアから30年後に撮影された作品だ。
何でこうなったのかをなんとなく考えてみたのだけれど、アルジェント監督も熟成されて萌える年齢が少女じゃなくなったんだのではないだろうか?
つまり本作の形作る世界観は少女じゃなくて熟女である。
自分的には阿鼻叫喚。
あとね、アルジェント監督のオカルト映画は世界観と五感で脳を揺らす感覚派の映画なの。感覚重視でストーリーは基本的に意味不明で破綻している。つまり熟女が意味不明で破綻したストーリーを展開するんだ。
ごめん、怖い。
ただし見るべきところはあってだな、サスペリアより格段にゴアかった。グロである。サスペリアで感じた精神性は影を潜め、肉っぽい。そこの熟成感が私の胃に負担をかける。そして世界観に浸りきれない自分には展開されるCGの安っぽさやチープな挙動がなんともいえず乗り切れない。
逆にいうと、熟女好きには世界観がヒットするのであろうか? うーん? よくわかんないや。
4.サスペリア以外の作品
サスペリア関連については以上なのですが、リクエストがダリオ・アルジェントなので、他に見た作品の感想も軽く描いておこう。
私が他に見たのは『フェノミナ』『4匹の蝿』『ジャーロ』。
『フェノミナ』は『サスペリア』と同時期の作品。サスペリアはそれでも比較的万人に受け入れやすい価値観を基礎に置いていたと思う。けれどもフェノミナはもっと市場が狭い。さらに尖っている。つまりパッケージングを受け入れられる層がすくない。
フェノミナのあらすじはこう。
虫と交信できる少女が少女ばかりを襲う連続殺人事件を追う。
違和感を感じるでしょう?
殺人事件の虫というと白いアレだ。白いアレと親しく交信し、白いアレの詰まったバスタブに美少女がダイブする。監督の変態的趣味の詰まった映画。
でも自分が書いてる小説に親和性がなくもないから自分には何も言えないんですけどね……。だから自分はこの世界観でいける口ではあるのだけれど、エモさという点で一般受けはさらさらしないだろうなぁ。
但し絵面が酷いので単純な忌避感とか恐怖とかいうものを求める層としての市場に合致している。その場合のアルジェント監督は総合芸術家じゃなくてゲロゲロゴア作家だ。
まあ、そんな尖った視覚情報が展開する。
美少女、虫、グロでいける人しか本来的には好みが合わないのではないだろうか? そもそもニッチすぎてお勧めするのは心苦しい。
音楽もサスペリアではエモいプログレだったけれど、ここに挿入されるのはメタル。ストーリーが盛り上がると突然メタルが乱入する。このアンバランスさはサスペリアと違う方向で精神を不安定にするけど、世界観に入れないとなんでここでこれ? っていう混乱の極みに陥る。
なお、美少女はピチピチの14歳。他の作品と比べてもダントツの美少女。それを虫にダイブさせるわけだから監督の変態度が測れよう。そういえばサスペリアのスージーは10代にしか見えない美少女だけど、実年齢は20代後半らしい。女性は恐ろしい。
次は『4匹の蝿』と『ジャーロ』。これらはどちらかというとサスペンスホラー の色合いが強い。
『4匹の蝿』はサスペリアと同時期に製作された。
基本的にはやはり電話の音使いとか暗がりの余韻とか音と映像のキャッチ―さは健在。『ジャーロ』は逆に『サスペリア・テルザ』と同時期の作品。
芸が細かいけれども感覚よりは直截的なグロ表現に重きを置いている気はする。
色々対比して考えると、2000年代以降のアルジェントはちょっと枯れたんじゃないか、と思わなくもない。映像や美術的な美しさは従来のパターンで持ち越し健在だけれども、ひょっとしたら新しい世界を作り上げる手腕は減衰してしまったのではないか、と少し思う。だからゴアで補完しているのかとか失礼なことを考えている。
*これはあくまで自分の雑感であって一般的な印象と異なると思います。
そういえばここまで書いて、アルジェント監督は女性を美しく描こうという気があまりないような気がしてきた。なんていうか、『少女』というメタ的な世界観はきれいに描いても、登場人物としての少女は気軽にゲロるし虫にDiveするし。
監督にとっての少女ってなんだろうねっていうその辺はとても興味深い。
そんなこんなでダリオ・アルジェントについてでした。
次のリクエストは『劇場版デビルマン』です。ホラーをはずれた……?
当該エッセイは常にリクエストを募集しております(見てなければリクエストに添えないすみません。)。
See You Again★
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